公正証書遺言がある場合の遺留分減殺請求と相続登記

実務の話です。

被相続人:A
相続人:子供のXとY
財産:不動産甲のほか預貯金
(Aは生前Yに対して多数の贈与あり)

であるとき、Aが相続人Yに対し、

①「Aが有する全ての財産をYに相続させる」旨の遺言公正証書を作成し死亡。

②XがYに対して口頭で遺留分減殺請求の意思表示、即時Yが受け取る。

③その後、XとYの間で遺留分減殺請求の効果として甲不動産をXが取得することで合意。

④XとYのほか相続人はいない。

⑤甲不動産の相続登記は未了(Aのまま)

 

この場合に、登記がどういう流れになるのか疑問が生じました。

 

前提知識

①通常、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がある場合、

その条文は遺産分割方法の指定と解釈され、相続発生後(遺言公正証書の効力発生時)に直ちに遺贈を受けた相続人固有の財産となります。
本件は特定されていない財産が多数あり、その中でXがYに対して遺留分減殺請求をしています。

②遺留分減殺請求権を行使した場合、遺留分権利者の遺留分を侵害している限度で遺贈等は無効となり、遺留分権利者と受遺者の共有状態となります。

③前述①の効果のあと②の行使によって生じる共有状態の性質は遺産共有ではなく物権共有となり、その分割の協議は「共有物分割」となります。

 

 

 

問題点・疑問点

①Xが遺留分減殺請求権を行使した時点で被相続人AからYへの相続登記が未了である場合に、直接A→Xへの相続を原因とする所有権移転登記の申請が可能か。

⇒前提知識と登記の趣旨(物権変動の正確な公示)を考えると、

被相続人Aから遺留分権利者Xへの相続を原因として所有権移転を直接行うことは出来ず、

一度被相続人Aから受遺者Yへの相続を原因とする所有権移転登記を申請したあと、

遺留分権利者Xを登記権利者、受遺者Yを登記義務者として、年月日遺留分減殺を原因とするY持分一部移転を申請し、

その後共有状態になったXとYとの間の合意により、年月日共有物分割を原因としてY持分全部移転登記を申請すべき?という疑問が生じます。

 

これについては登記先例として、

 

被相続人名義の不動産について受遺者が包括遺贈を受け、その登記前に遺留分権者から遺留分減殺請求があった場合には、当該遺贈の所有権移転登記をすることなく、直接遺留分権者のために相続による所有権移転の登記(原因日付は相続の日)をすることができる

という昭和30年5月23日民甲973民事局長回答があります。

この先例に従うと本件でもAからXへ直接移転登記ができることになります。

 

しかしこの先例は遺留分減殺請求の効果が相続発生時まで遡ることが前提で、

かつ包括受遺者と遺留分権者とが遺産共有状態であるという通説に従った結論であり、

その後の判例が遺留分減殺請求の遡及効を否定する物権法上の共有状態であると解釈している(最判平成8年1月26日:法務48判例No61)ことから、

上述したようなAからY、Yから一部をX、Yから残りをXと物権変動の過程にしたがって登記申請しなければならなくなります。

 

 

②上述①のAからXへの直接の所有権移転登記申請が可能である場合、その添付書類は何?

⇒通常の遺言に基づく相続登記の申請の場合は単独申請なので、
・遺言公正証書
・受遺者の戸籍及び住所証明書
・被相続人の死亡のわかる戸籍
・司法書士への委任状

を添付すれば足ります。

 

他方、被相続人から受遺者への所有権移転登記完了後の遺留分減殺請求に基づく遺留分権利者への登記申請は共同申請となり、

・登記原因証明情報
・被相続人の死亡のわかる戸籍
・遺留分権利者の戸籍及び住所証明書
・受遺者の印鑑証明書
・受遺者が登記名義人となったときの登記識別情報
・遺留分権利者および受遺者から司法書士への委任状

を添付して申請することになります。

 

本件は遺言に基づく単純な相続登記ではなく、

①遺言に基づく包括遺贈
②他の相続人が遺留分を有し、かつ侵害を受けている事実
③遺留分減殺請求の意思表示および到達
④その後の協議により特定財産での現物賠償

による相続登記なので、添付書類がどこまで要求されるのか悩みました。

 

法務局へ照会をかけましたが、一応自分の中では

①昭和30年登記先例によりAからXへの直接の相続登記できる

②添付書面は遺言に基づく相続登記の添付書面にプラスして合意書(XとYの印鑑証明書付き)で足りる

と判断しました。

 

 

法務局の回答

あくまで神戸地方法務局での回答ですが、結論としては

①登記申請は相続を原因としてAから直接Xへの所有権移転登記でOK

②添付書面としては貴見のとおり

ということでした。

 

ちなみに合意書には、

・被相続人が遺言公正証書を作成した事実
・被相続人の死亡および遺言書の発効した事実
・相続人が遺留分権利者と受遺者の2名のほかはいない事実
・遺留分権利者が受遺者に対し口頭で遺留分減殺請求し、受遺者が即時うけとった事実
・減殺請求後、協議により本件不動産を遺留分権利者が相続することで合意した事実
・よって、相続開始時に遡り、遺留分権利者が当該不動産を相続した事実

と、合意に至った理由や経緯を書きました。

 

 

補足・余談

本件は受遺者に対し口頭で遺留分減殺の意思表示をし、

既に相手方も了承していたとのことだったので、合意書にその旨を記載するにとどまりましたが、

通常は消滅時効内に意思表示し到達したことを証するために、

配達証明付き内容証明郵便で書面を送ると思います。

 

また、具体的な遺留分侵害額の算定にあたり特別受益の有無、生前贈与の金額を含めた相続財産の確定、財産目録の開示請求、相続税がかかるかなど、

本格的にやろうと思えばまだまだ考えないといけない点が多数ありますが、

本件は依頼者が本件の不動産以外を求めず、

相手方も了承していたので、簡易な方法となりました。