相続登記と相続人の一部の持分のみの更正登記

相続でかなりややこしくなった実例です。

実務でも中々お目にかかれないケースだったので備忘録として書き留めます。

 

概要

 

事件の概要は次のとおり。

 

・被相続人甲が死亡
・相続人はABCDEの5人(全員被相続人の子供)
・甲はDに対して不動産を相続させる旨の公正証書遺言書を作成していた
・その後甲は上記公正証書遺言を全部撤回する旨の自筆証書遺言を作成していた
Dは自筆証書遺言の存在を知らず公正証書遺言書でD単独名義の相続登記を申請
ABCがDに対しそれぞれ自己持分5分の1への更正登記を求める所有権更正登記手続訴訟を提起(Eは訴訟に参加せず
・ABCの請求認容判決、判決確定


判決主文
「DはABCに対し、本件不動産について、錯誤を原因として、D持分5分の2、ABC各持分5分の1とする所有権移転登記に更正する登記手続をせよ」

 

 

僕が弁護士先生から相談をいただいたのはこの段階で、相談内容はABCへの更正登記をお願いしたいというものでした。

 

 

疑問・問題点

このようなケースではABCがDに対して更正登記を求める訴訟ではなく、所有権抹消登記を求める訴訟を提起していたなら、判決に基づいて抹消したうえで共同相続登記を申請することも、遺産分割協議を行うこともできました。

しかし今回は更正登記を求める訴訟を提起し判決も確定済み。

今からやり直しとなると時間も費用もかかるので更正登記を軸に考えます。

 

まずふと疑問に思ったのが、相続による単独名義の所有権移転登記の更正を、共同相続人の一部だけ(ABCだけ)でできるのか?という点です。

 

共同相続人の共有持分は、正しくはABCDEが各5分の1のはず。

しかし、判決をもとに更正登記すると、ABCは良いですが訴訟に参加しなかったEの持分だけ更正されずD名義のまま(Dが5分の2の状態)になってしまいます。

 

こんな中途半端な更正登記が出来るのか?という疑問が1つ。

 

 

そしてもう1つの疑問が、仮に更正登記が出来たとしてそれから先の登記はどうするのか?という疑問。

 

仮に判決どおりに更正登記が完了して

持分5分の1 A
持分5分の1 B
持分5分の1 C
持分5分の2 D

になったとします。

 

そこから協議等で単独名義になるとすれば、その分割協議は「遺産分割」なのか「共有分割」なのか。(登録免許税がかなり違うため大きな問題)

さらにE持分5分の1はどう扱うのか(協議内容によっては登記せず放置で良いのか、それともE持分5分の1への更正登記が別途いるのか

 

 

実務をやると痛感しますが、参考書や書籍に載っていないようなケースがよくあります。

「この先実務やってても二度とないだろうな」なんてケースばっかりです。

 

 

なんやかんや結局近い文献はあったもののドンピシャではなかったので、法務局に照会をかけました。

どうでも良い話ですが昔修行していた事務所のボスによく、

「法律(登記)のプロが法務局に照会をかけるのは恥と思え」と言われました。

最初に勤務したのがその事務所だったからか、最初に見たものを親と思うヒナのように、僕はその事務所の考えをしっかり受け継いでいます。

なので法務局に照会をかけるのはすごく勇気がいったりします。

 

とは言っても登記が通らなければ弁護士や依頼者に迷惑をかけてしまうので、恥を承知で照会をかけました。

 

照会内容は

①判決に基づき、法定相続人の一部の者への更正登記を申請することの可否

②更正登記が可能だとすれば、法定相続人1名を除いた共有者間で共有状態を解消する協議の可否、協議の性質

③上記登記申請に必要な添付書類

です。

 

 

文献と神戸地方法務局本局への照会では結論はこんな感じになりました。

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①更正登記の可否

可能。

遺贈を原因として共同相続人の1名の甲単独名義に所有権移転登記がされている不動産につき、他の共同相続人の1人乙の申立てにより、遺贈の効力未発生を理由に、登記原因と他の相続人の持分を論ずることなく、甲の持分を6分の5、乙の持分を6分の1とする更正登記を命じた判決正本を添付して、乙よりなされた登記申請を受理できる(昭和39年12月23日民事甲第4023号民事局長回答(先例集追Ⅳ295ページ))

上の先例が合致するので、公正証書に基づき単独名義とする相続登記がなされた不動産につき、他の共同相続人は単独で自己の相続分を持分とする更正登記をすることができることになります。

本件でいうとABCはDとEの持分やらは無視して更正登記ができます。

 

②法定相続人1名を除いた共有者間で共有状態を解消する協議の可否、協議の性質

結論からいうと、EがDに対して相続分の譲渡がなされた事実がない限り、現在の登記(ABC各5分の1とD5分の2)は実体と合致しないため、EはDに対して別途更正登記を求める訴訟を提起するか、EとDが共同してE持分5分の1とする更正登記の申請をしなければならない

その後、共同相続人全員による遺産分割協議を経て、年月日遺産分割を原因として、~持分全部移転登記等を申請する。

ということでした。

 

 

③添付書類

更正登記申請の添付書面は
1.登記原因証明情報として確定証明書付き判決原本
2.新たな登記権利者ABCの住所証明書
3.ABCからの委任状

でした。遺産分割調停で相続人であることは明らかなので、相続があったことを証する書面は不要。

 

続いて更正登記後の持分移転登記の添付書類は通常の遺産分割協議による移転と同じなので割愛。

 

結論

共同相続人の1人が相続を原因として自己単独所有とする所有権移転登記を申請した場合に、他の共同相続人の一部が自己の相続分に相当する持分への更正登記を請求し確定した判決に基づき、訴訟に参加しなかった(訴外)相続人の持分に関わらず、更正登記を申請することが出来る。

その後、遺産分割などで権利変動があった場合には、前提として訴外相続人の持分が登記に反映されていない状態を解消するため、訴外相続人は別途更正登記請求訴訟を提起するか、共同により自己持分への更正登記を申請しなければならない。

登記が法定相続人全員の共同相続登記と同じ状態になった後の共有状態解消の協議性質は遺産分割でOK

 

 

つづく・・・

登記手法としては一応解決したものの、相談の事例は最終的にABCEは自己の持分をDに売る(遺産分割でD単独所有にする代わりに代償金もらう)つもりだったので、それなら一連の登記するだけ無駄?というか、結局今のD単独名義の状態に戻るのだから、登録免許税が無駄になりますよーという話をして、今の状態のまま遺産分割協議をすることに。

実はこれが後でさらに混乱を招いたのですが論点が変わるのでいったん切ります。