遺言が作成できなくなる前に

今回は公正証書遺言作成に関して実際にあったご依頼内容を綴ります。

 

公正証書遺言作成の相談

私がいつもお世話になっている葬儀社さんと、海洋散骨の会社さんからのご紹介で、ある老夫婦とお会いしました。

ご相談内容は、公正証書遺言書の作成と、残された配偶者に関する財産管理や任意後見についてでした。

ご相談者はかなりのご高齢ではありましたが、認知機能はしっかりしており、何の問題もなくコミュニケーションが取れる方でした。

また、お身体も丈夫で、ご自身の足で歩くことができる方でした。

その方には配偶者がおり、配偶者もご相談者と同じくお元気な方です。

2人の間には子供がおらず、ご相談者には兄弟がご自身を含めて6名いましたが、そのうちの2名は腹違いの異母兄弟で、会ったこともない方々です。

ご相談者は、ご自身が亡き後の財産について会ったこともない兄弟が出てくると、残された配偶者に迷惑がかかると考え、なるべく配偶者1人で相続などの手続が出来るようにしたいとのことでした。

ご相談者には子供がいないため、配偶者と兄弟(異母兄弟を含む)が相続人になります。

遺言がない場合では、その相続人全員が話し合わなければいけないため、話し合いが難航し、手続が停滞する可能性があることは明らかでした。

そこで、公正証書遺言書を作成しようという事になりました。

 

 

自筆証書遺言では不十分

 

ご相談者は自筆証書遺言書を作成していました。

しかし、自筆証書遺言書は、自身が死亡したあと、相続人全員が家庭裁判所に集まって検認手続をしなければなりません。

自筆証書遺言でも財産を配偶者に全てあげたいという望みは叶いますが、兄弟には知らせたくない、という望みは叶いません。

ですが、自筆証書遺言でもあるのとないのとでは、その後の相続人同士のトラブルを回避できますし、手続の難度も大きく変わります。

そこで、自筆証書遺言書は大切に保管していただくとして、公正証書遺言書を作成することになりました。

 

 

遺言書作成の中断

遺言書の文案を作成し、相談者と打ち合わせを重ねている途中で、遺言書の内容を変更したいとのご相談がありました。

従来では配偶者の方に全て相続させる遺言書だったのですが、可愛がってきた姉の甥・姪に少しずつ財産を渡したいということでした。

そして、ゴールデンウィーク中に姉と会う予定があるため、そこで了承を得たうえで、遺言書の内容を詰めたいとのことでした。

相談者の方はガンが進行しており、あまり余命も長くないとの診断が出ていましたので、1日でも早く手続をしないといけないと説明しました。

しかし、「ゴールデンウィークぐらいまでは大丈夫だろう」とご相談者が強くおっしゃったため、手続をいったん止めることになりました。

 

公正証書の作成が不可能に

そうして手続を中断している中、ご相談者の配偶者から電話がかかりました。

「かなり容態が悪化して病院に入院している。先日話していた遺言書で良いから早く作成してくれ。」

今日明日がどうなるか分からない状態でした。

公証人に緊急事態であることを伝え、配偶者からの電話があった翌日の午前中に病院に駆けつけました。

先日お会いした時には想像も出来ないほど衰弱し、意識が朦朧としている状態で、まともな会話は不可能でした。

公正証書遺言を作成する際には、証人2人が立会のもと、遺言者自身がどのような遺言を作成したいのか公証人に意思表示しなければなりません。

公証人が何度か意思を確認しようと質問を投げかけましたが、しっかりと回答できる状態になく、意思が確認できないため、残念ながら公正証書の作成は出来ないとの判断になりました。

 

 

もう少し早ければという後悔

相談者の配偶者は弱った声で、「少し遅かった。昨日の夜はまだ会話出来ていたのに・・・」と、取り返しのつかない事態に後悔しておられました。

私はこれまで専門家として数多くの遺言書作成や相続手続に携わってきました。
その中で、今回のようにもう少し早く相談して手続していれば・・・という相談者やご遺族の肩を落とす姿も、何度も見てきました。

そのような方々を減らすために相続専門家として活動してきたので、本当に残念でなりません。

「もっと強く相談者を説得していれば良かったのではないか」と思うこともあります。

 

相続の分野に携わる者として、遺言のことや、もしものこと、ご自身の最期のことを少しでも考えている方がいれば、これだけは断言できます。

「今はまだ元気だからもう少ししたら」と考えないでください。

そう思える余裕がある“今すぐに”作成してください。

いつ何が突然起きるか分かりません。人の死期は選べませんし分かりません。

何もできなくなる前に、想いを形に残す。

言葉にすれば、私たちが形にします。