相続手続の注意点

相続が起きたとき、多くのことに追われて、大事なことをうっかり見落としてしまったり、何も考えずに手続をしてしまい、後から費用的・時間的に損をしてしまうことがあります。
また、思わぬトラブルの原因にもなりますので、相続が発生したときは注意が必要です。



1.銀行口座の凍結(ロック)

相続が発生すると、遺言がない限り相続人の全員で話し合い(遺産分割協議)、誰が何をどのくらい相続するかを決めます。この協議がまとまらない内に、他の相続人に処分される危険が最も高いのが現金と預貯金です。

預貯金口座は、相続が発生したことを伝えると、正式な相続人が決まるまで凍結されることになりますが、生前から被相続人のお世話をしていた相続人の1人が、被相続人の日用品の購入などのために通帳とキャッシュカードを預かり利用している場合が多く見られます。そして相続が起きたあとも、何かとお金が必要だからと、勝手に引き出して利用していることが多いのです。

この問題点は、2つあります。1つは、利用している人=預貯金の相続人であればまだしも、遺言や協議により預貯金を相続するのが別の相続人になっている場合、その人の財産が勝手に使われ失われている点です。これは金額以上に、心理的なトラブルになる可能性が非常に高くなります。

そしてもう1つは、相続財産の一部を処分(利用)した場合は、マイナス財産も含め相続したことになってしまうので、預貯金を勝手に引き出し利用したあとに大きな借金が見つかったとき、相続の放棄をしたくても出来なくなってしまう点です。
これらを防ぐためにも、相続が起きたときは窓口や電話で預貯金口座の支店に連絡して、口座を凍結してください。


2.自動引き落とし先の変更

1の凍結の前に確認すべきことが、凍結する通帳からの自動引き落としの有無です。
口座凍結により支払いも出来なくなるので、夫婦で暮らす実家の光熱費などが被相続人の口座からの自動引き落としになっている場合、引落しがされず、水道や電気を止められてしまうおそれがあります。

自動引き落としがある場合は、凍結の手続の前に引落し会社に連絡をして、相続人の口座に変更するか、一時的に現金での払い込みに変更してもらうようにしてください。


3.遺言書があるか確認する

相続が起きた場合に、遺言書があるのとないのとでは、その後の手続の流れや費用が大きく変わりますので、必ず遺言書の有無を調査する必要があります。遺言書は主に、ご自身で書いて保管している「自筆証書遺言」と、公証役場で作成して保管してもらっている「公正証書遺言」の2つがあります。

自筆の場合は、通帳や実印、家の権利書と一緒に自宅に保管されているか、もしくはよく使う銀行の貸金庫に預けている場合が多いです。

公正証書の場合、自筆と同じく自宅や銀行で保管している場合に加え、公証役場で公的に保管してもらっているので、もし遺言書が見あたらなくても公証役場に問い合わせをすれば遺言の有無の調査や、再交付の請求も可能です。


4.相続税がかかるか税理士に相談する

近年の税法改正で相続税の基礎控除額が下がり、相続税のかかる家庭が増えました。相続財産に不動産が含まれる場合、それだけで基礎控除を超える=相続税がかかる場合があり、相続税がかかるのに申告していないと、あとで余分な税金を払うおそれもあります。

相続税がかかるかどうかの診断までは無料で行ってくれる税理士もいますので、相続が起きたとき、明らかに相続税がかからないような場合でなければ、必ず税理士に相談しましょう。


5.葬儀代などの領収書はきちんと管理する

葬儀代やお墓代など、相続後に起きた被相続人にかかる費用がいくつかあります。それらは法律上では誰が負担するか等は規定されていませんが、相続人で折半するか、被相続人の財産から捻出する場合がほとんどです。そのとき、例えどれだけ親しい間柄であったとしても、後日の紛争を防ぎ、しっかりと清算できるように、祭祀にかかった費用の領収書は残すようにしましょう。

面倒ですがその都度領収書を残していれば、後日何かあったときに無用な疑いをかけたり、かけられたりせず、トラブルになる可能性が低くなります。また、自分のために使用したのではない、という明確な証拠にもなりますので、1で書いた放棄が出来ないなどの問題もクリアできます。


6.財産=プラスだけではない

相続と聞いたとき、多くの方はプラスの財産ばかりを思い浮かべますが、マイナスの財産も相続することになるので注意が必要です。

このマイナスの財産の有無や、金額が不明な内に被相続人の財産を使用してしまうと、あとで放棄できなくなり、多額の借金を背負うことになりかねませんので、マイナスの財産について調べてから相続するかどうかの判断をしましょう。

なお、マイナスの財産が不明なとき、差し引きしてプラスになれば相続、マイナスなら放棄と選択できる「限定承認」という手続もありますが、これは相続人全員が共同して行わなければならないため、マイナスがありそう(借金の存在を示唆していた、ギャンブル癖があった、請求書や通知書を見たことがある)などの事情があるうちは、勝手にプラスの相続財産を処分せず、専門家にご相談ください。


7.特別受益と寄与分を考える

特別受益と寄与分はどちらも難しい言葉ですが、簡単に言うと「特別受益」とは被相続人から生前にもらった財産のことで、例えば不動産の購入費用を一部工面してもらった、事業や生活のためにお金を借りた(事実上もらった性質のもの)、結婚資金の贈与が当てはまります。

相続財産の先渡しのようなものと考えて頂くと良いかと思います。これが本来自分が相続できる金額より多くなっていると、その人は特別受益があると考えられるので、さらに相続が起きたときの財産を受け取れなくなります。

続いて「寄与分」とは、特別受益とは反対に、相続人が被相続人の生前にかなりのお世話をしていたことを言います。金銭的なこともそうですし、後見人として長年看護に当たっていたことも寄与分として考慮される可能性があります。特別受益は金額を判定基準としておきますが、寄与分は相続人の話し合いで決まることもあるので、「相続人の1人が生前にお金を工面してもらっていた」、「あの相続人がずっと被相続人のお世話をしていた」等の事情があれば、専門家にお伝えください。