不動産、銀行預金、株式、自動車、いわゆる財産と呼ばれるものを相続するとき、ほとんどの場面で遺産分割協議書を要求されます。
遺産分割協議書とはどのような書類なのか、遺産分割協議書の作成が必須なのか、ネットに掲載されている遺産分割協議書をそのまま流用しても問題ないのか、遺産分割協議書が不要な相続のパターンを解説します。
相続で遺産分割協議書はほぼ必須
亡くなった方が不動産、銀行預金、株式、自動車など財産を保有していた場合、相続人がその財産を承継するためには相続手続が必要です。
相続人が複数いる場合は、原則として相続人同士の話し合いが必須となり、話し合いで合意できた内容を書面にする必要があります。この書面を「遺産分割協議書」と呼びます。
遺産分割協議は書面じゃないとダメなのか?
遺産分割協議は書面でないと成立しないのか?というと、法律上は口頭でも成立します。
ただし、不動産の登記手続、銀行預金の解約などは、故人の重要な財産を相続人に承継する行為であり、書面が存在しない状態での手続は、相続人同士の「言った言わない」トラブルに巻き込まれるリスクがあるため、手続先の法務局や金融機関に相続人全員が行って説明をしても、通じません。
つまり、法律上は遺産分割協議は口頭で成立しますが、実務上は書遺産分割協議と呼ばれる書類を作成することが必須となるのです。
事前に書面を取り交わしていた場合は遺産分割協議書として使える?
当事務所に相談に来られる方の中に、ときどき「誓約書」「合意書」「覚書」「放棄書」などの題目で、他の相続人から一筆もらっている方がいます。
まず、その書面を故人が亡くなる前に作成しているのであれば、それを遺産分割協議書として使用できる可能性はほぼ0です。
遺産分割協議は、相続が実際に発生してから相続人が協議し合意し作成する書面です。
そのため、故人が亡くなる前に作成した書面は使用ができません。
次に、故人が亡くなった後に、他の相続人から書面をもらっている場合(あるいは相続人全員で署名押印がされている)です。
この場合、当該書類の内容を実際に精査すれば、遺産分割協議書として活用できる可能性があり、遺産分割協議書として活用ができなくても、趣旨から考えてその他の書類として、例えば相続分の譲渡や相続分の放棄証明書として活用できる可能性はあります。
しかし、遺産分割協議書や遺産分割協議書に類似した相続手続で使用する書類は、実印で押印と印鑑証明書の提出が必要です。
作成した書類に押された印鑑が実印でない場合は、相続登記や金融機関の解約手続に使用することができません。
口約束だが合意はできているし録音記録もあるので、遺産分割協議書は不要?
口約束で合意ができている場合、法律上は遺産分割協議が成立しているといえます。
しかし、先に述べたように、実際の相続登記手続や金融機関の解約の際には、書面としての「遺産分割協議書」の提出を求められます。
仮にボイスレコーダーなどで録音が残っていても、それを法務局や銀行に提出できるわけではありません。
ネットで見つけた遺産分割協議書のひな型を流用しても有効?
近年は多くの専門家事務所がインターネット上に遺産分割協議書のひな型を掲載しております。また、Chat GPTやgoogle geminiといったAIツールを用いて、遺産分割協議書のフォーマットを出力する方法もあります。
これらの遺産分割協議書をそのまま流用できることも当然ありますが、亡くなった方の財産や相続人の状況などによっては遺産分割協議書の記載内容を変更する必要があるため、せっかく相続人全員で署名押印した書面が使用できないこともあります。
また、ネットやAIで発見した遺産分割協議書が必ずしも正しいとは限りません。
もしこれらの書面を活用するのであれば、相応のリスクがあると考えておきましょう。
遺産分割協議書がいらない相続パターンは?
相続手続きにおいて、書面としての遺産分割協議書がほぼ必須であることを説明しました。
しかし、特定の相続パターンでは、遺産分割協議書が不要になることがあります。
遺産分割協議書が不要になる具体例を解説します。
①法定相続人が1名のみ
遺産分割協議書が必要になるときとは、複数いる相続人が協議をする場合です。
法定相続人が1名だけの場合は、その唯一の相続人がすべての財産を取得することになるため、遺産分割協議書を作成する必要がありません。
②他の相続人全員が相続放棄をした
他のすべての相続人が相続放棄をした結果、相続人が1名だけになった場合は、先ほどの例と同じく遺産分割協議書を作成する必要がなくなります。
なお、相続放棄とは家庭裁判所で行う申述手続を指し、単に話し合いで「いらない」とか「放棄します」などの言質を取っただけの場合は、ここでの相続放棄には該当しません。
③遺言書がある
遺産分割協議書が不要になるもっともポピュラーな例は、「遺言書がある場合」です。
遺言書があれば、あらかじめ「誰がどの相続財産を取得するか」を指定されている状態といえるため、遺産分割協議書が不要になります。
遺言書があれば相続人が行方不明でも、認知症になっていても、どんなに仲が悪くても、遺産分割協議書が不要になります。この点が、遺言書を作成する最大のメリットとも言われています。
ただし、遺言書に記載のない財産がある場合、当該財産については遺産分割協議を行わなければならないため注意が必要です。
④相続分の譲渡、放棄がある
遺産分割協議や相続放棄と少し似ている書面に、「相続分譲渡証明書」「相続分放棄証明書」があります。
これは、相続人がもっている法定相続分を、他の相続人に譲渡したり、自己の持分を放棄して他の相続人に帰属させるための書面です。
遺産分割協議書ではなく相続分譲渡証明書や相続分放棄証明書を作成している場合、別途遺産分割協議書を作成することなく手続きが可能になりますが、遺産分割協議書と同じく署名押印及び実印での押印と印鑑証明書を提出することになるため、遺産分割協議書ではなくこれらの書面をわざわざ作成することは、実務的にはあまり多くありません。
⑤法定相続分どおりに相続する
相続人には法定相続分と呼ばれる持分が存在します。
配偶者は相続財産の2分の1の法定相続分、子供がいる場合は子供も2分の1の法定相続分(子供が複数いる場合は頭数で按分)を持ちます。
この法定相続分に基づいて不動産を相続したり預金を解約する場合は、遺産分割協議書を作成しなくても手続きが可能となります。
ただし、法定相続は「すべての財産を法定相続分で共有する」状態になってしまうため、家は配偶者、預金は子供が相続するといった相続を望む場合は、遺産分割協議書を作成することになります。
⑥財産が僅少(一部の預金に限る)
ゆうちょ銀行、信用金庫、地方銀行など一部の預金解約に限りますが、口座に残っている預金残高が僅少である場合は、遺産分割協議書を作成せずに、解約手続きができることがあります。
⑦相続預金の仮払い制度
故人名義の預金は、相続が発生すると原則として解約が完了するまで口座凍結されます。
口座解約を完了させるためには、相続人が複数いて遺言書がない場合は遺産分割協議書が必要となるため、書面作成までに時間を要する場合は、その間預金が凍結されたままとなってしまいます。
相続税の支払、生活費の確保など、完全に預金が凍結されたままでは相続人にとって不測の支出や負担を強いることになってしまうため、相続預金については一定額までなら遺産分割協議書がなくても払い戻しができる制度「相続預金の仮払い制度」があります。
この制度があれば、法定相続人は、金融機関が指定する一定の金額までであれば他の相続人の同意を得ることなく引き出すことができます。
ただし、相続預金全額を引き出すことはできないため、最終的には遺産分割協議書の作成が必要となるでしょう。
相続手続きを司法書士に相談するメリット

必要な書類と情報収集、調査、手続が素早く正確
相続専門の司法書士が、相続手続きに必要な情報、書類の調査や収集を素早くかつ正確に行いますので、相続財産の詳細がわからない、数が多いという方も安心してお任せいただけます。
余計な時間、労力を減らして心身に余裕ができる
相続はただでさえ心労に大きなご負担がかかります。
葬儀や親族への連絡、役所への手続など、頭が真っ白の状態で次から次へとやるべきことに追われます。
そのうえ、相続手続きは相続人の数、状況、相続財産の金額によって行う内容、集める書類等が大きく変わります。しかも、必要な書類は平日の日中にしか開いていない役所や法務局で集めなければならず、お仕事やお忙しい方にとっては大変な負担です。
相続の専門家にご依頼いただれけば、相続人の事務的なご負担を減らしますので、心身に余裕が生まれます。
法的なリスク、対策などを聞ける
相続手続きは順序や方法を間違えると、相続トラブルとなってしまう可能性があります。
ご相談いただくことで、法的なリスクだけでなく、将来的な対策を踏まえた相続手続きが可能です。
疎遠な相続人の住民票住所がわかる
相続人の戸籍収集をする過程で住民票を取得しますので、住民票住所を把握することができ、相続人が他の相続人と交渉する余地が生まれます。
長年音信不通になった相続人同士だと気が進まないかもしれませんが、相続手続では避けて通れないことが多いため、手続の一環と考えて粛々と対応しましょう。
他の専門家にまとめて依頼できる
相続の手続きの中で、相続した不動産を売りたい、相続税の相談をしたい、もめている相続の代理人になってほしい、家を取り壊したいなど、ご相続の状況に応じて様々な専門家に横断的な依頼が必要になることがあります。
相続の専門家である当事務所にご依頼いただければ、信頼できる他の専門家を紹介し、まとめて手続きを進めることができますので、「誰に何を相談すれば良いのだろう」といった悩みが解消し、他の専門家を探す必要がありません。
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