高齢の親が認知症になり、預貯金の管理が難しくなると、本人や親族による財産管理の問題が発生することがあります。
特に、「本人が認知症になり何度も同じ物を購入する」「本人が不要な通販の定期購入を契約してしまう」「同居している親族が預金を自由に引き出したり、自分のために使っている疑いがある」といった問題が生じやすくなります。
本人による無意識な浪費や度重なる契約、親族による財産の使い込みが疑われるときに検討されるのが「成年後見制度」と「審判前の保全処分」です。
成年後見制度自体をご存知の方でも、審判前の保全処分を知らない方が意外と多くおられます。
この記事では、審判前の保全処分の内容や利用条件、注意点などを司法書士の視点から解説します。
成年後見制度とは?
成年後見制度の概要
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分になった方を保護・支援する法的な制度です。
本人の判断能力の程度によって類型が「後見・保佐・補助」の3類型に分類され、家庭裁判所によって選任されます。(注※)
(注※2026.6.1時点の情報です。成年後見制度の改正により後見保佐補助の3類型から補助人に一本化されることが見込まれています。)
家庭裁判所から選任された成年後見人等は、判断能力が低下した本人に代わって、預貯金の管理、介護施設や病院の契約、不動産管理や不動産処分、介護サービスの導入や福祉用具のレンタル契約、役所への各種手続などを行います。
成年後見制度の利用開始までに時間はどれぐらいかかる?
成年後見制度は、家庭裁判所へ申立てを行ってすぐに開始されるわけではありません。
家庭裁判所に対して医師の診断書を始めとする各種必要書類、申立て書の提出をしたのち、家庭裁判所調査官による本人面談を経て審判がなされます。
地域や家庭裁判所の混み具合にもよりますが、成年後見制度の利用を検討してから後見人が決定するまでおよそ6か月程度の時間を要します。
審判前の保全処分とは
成年後見人選任の審判が確定するまでの間、親族による預金の引き出しや財産処分が続く可能性があり、待っていると本人が将来的に生活するための充分な財産がなくなってしまうおそれがあります。
そこで、成年後見開始の審判が確定する前に、本人の財産を守るため家庭裁判所が一時的な措置を命じる制度が「審判前の保全処分」です。
審判前の保全処分を利用できる条件や手続の流れは?
審判前の保全処分の利用条件
審判前の保全処分は、成年後見申立てを行えば必ず認められるわけではありません。
成年後見制度とは別の制度であるため、保全処分が必要な場合は後見申立てとは別に手続をすることになりますが、利用には条件があります。
1 家庭裁判所は、後見開始の申立てがあった場合において、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護又は財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができる。
家事事件手続法第126条(後見開始の審判事件を本案とする保全処分) ※一部筆者による修正加筆抜粋あり
2 家庭裁判所は、後見開始の申立てがあった場合において、成年被後見人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、成年被後見人となるべき者の財産上の行為(民法9条但し書き(日用品の購入その他日常生活に関する行為)を除く。)につき、前項の財産の管理者の後見を受けることを命ずることができる。
審判前の保全処分を利用するためには、具体的には次のような事情が必要になります。
①成年後見開始の申立てがなされていること
審判前の保全処分はその名のとおり「後見開始の審判がされる前」に限って財産を保全する手続ですので、成年後見開始の申立てがなされていることが前提条件です。
②成年後見開始の審判がなされる可能性が高いこと
審判前の保全処分は、成年後見開始の審判がなされる可能性が高い場合に行うことができます。
つまり、例えば「成年後見利用開始が相当」である旨の医師の診断書がないケースや、本人が成年後見制度利用を強く拒絶していることが明らかなケースでは、利用することが難しくなります。
③保全の緊急性・相当性があること
審判前の保全処分は、成年後見開始の審判を待っていては、本人の財産が失われる危険が高く、あるいは本人の生命に危険が迫るおそれがあるために、早急な対応が必要である場合に利用することができます。
保全処分の申立ては、具体的に保全の必要性を裏付けるだけの疎明資料を提出することになります。
審判前の保全処分申立ての流れ
審判前の保全処分申立ての流れは、次のとおりです。
①成年後見開始の申立てをする
まず大前提として、成年後見開始の申立てを行います。
そのために、医師の診断書、本人の戸籍謄本や財産目録、収支状況がわかる資料を用意しましょう。
②審判前の保全処分申立てをする(後見開始と同時でも可)
審判前の保全処分を行う緊急性、相当性が求められますので、例えば親族による財産の使い込みが一定程度推認できる資料、本人が散在していることがわかる契約書や領収書などの疎明資料を用意します。
③家庭裁判所が保全審判or後見命令
家庭裁判所は、申立て又は職権で、財産管理者を定めたり、管理に関する指示を行うことができます。
あるいは申立てに基づき、後見開始の審判がなされるまでの間、財産の管理者による財産管理や取消権の行使を認めること(後見命令)ができます。
審判前の保全処分の注意点
審判前の保全処分には、いくつか注意点があります。
必ず認められるわけではない
家庭裁判所は、本人の権利制限につながるため審判前の保全処分を行うか慎重に判断します。相当性、緊急性がない場合は認められないことがあります。
申立てには迅速な対応が必要
使い込みが進行している場合、対応が遅れると財産回復が困難になることがあります。
異変に気づいた時点で早めに専門家へ相談し申立てを行うことが重要です。
成年後見申立てを同時に行う
審判前の保全処分のみを先行して申し立てることはできませんので、医師の診断書をもらい、早急に成年後見開始申立てを行いましょう。
親族間の対立が深刻化することがある
親族の使い込みが疑われるケースでは、親族が使い込みの証拠を残していないケース、使い込みだと考えていたが実は使い込みではなかったケース、本人が親族に言いくるめられて(あるいは能動的に)親族に財産を渡してしまっているケースがあり、保全処分を申し立てることで、親族間の感情対立が激しくなるケースもあります。
そのため、法律面だけでなく、今後の親族関係も考慮した対応が必要です。
後見人が希望どおり選任されるとは限らない
家庭裁判所は中立性を重視するため、親族を候補者として成年後見開始申立てを行ったとしても、親族間のトラブル防止の観点から、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されることもあります。
成年後見申立てを司法書士に相談するメリット
成年後見申立てや審判前の保全処分は、迅速な手続はもちろんのこと、専門的な知識と書類作成、準備が大切です。
司法書士は家庭裁判所への後見開始申立てに精通しているだけでなく、専門職後見人の中で成年後見人に就任している数が多い専門家です。
司法書士にご相談いただければ、申立書類作成、必要資料の整理、財産調査、家庭裁判所対応、保全処分申立てをまとめて任せることができます。
また、親族間トラブルがあるケースでは、客観的な第三者として手続を進められる点も大きなメリットです。
認知症高齢者の財産管理問題は、放置すると深刻な親族紛争に発展することがあります。
「使い込みかもしれない」と感じた段階で、早めに司法書士など専門家へ相談することが重要です。









