認知症や精神疾患が原因で判断能力が低下してしまった方の代わりに代理人が契約などの法律行為や金銭管理を行えるようになる制度として、成年後見制度があります。
成年後見制度を利用すると、判断能力が低下した本人は、財産管理と身上監護を後見人に任せることができるので、本人にとってメリットがある制度です。
しかし一方で、専門職が後見人になった場合には毎月報酬が発生すること、財産を柔軟に管理することが難しくなることから、成年後見制度そのものに拒否反応を示す方や、誤解をしている方もおられます。
成年後見制度の類型、後見人を選任することのメリットデメリット、後見人を選任しておいた方が良いケースをご紹介します。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神疾患など、精神上の障害により事理を弁識する能力が低下した人に対して、家庭裁判所から選任された後見人が、本人の財産と権利を守るための制度です。
成年後見制度の類型
成年後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型があり、判断能力がしっかりしている状態から順に「補助・保佐・後見」と呼ばれます。
補助人、保佐人、後見人はそれぞれ裁判所から選任されますが、与えられる権限は異なります。補助人、保佐人、後見人が単独で行える行為の数や種類が増えると、その分本人の権利を制限してしまうことになりますので、本人の判断能力によって代理権や同意権の有無や内容が変わり、本人が自分でできることは引き続き本人の意思決定を尊重することになっています。
後見人の業務
成年後見人の業務は、大きくわけると財産管理と身上監護です。
財産管理とは、本人の収支を把握し、預貯金、不動産、株式、車などの本人の財産が第三者から侵害されたり、搾取されることを防ぎます。場合によっては本人にとって明らかに不当な金額の契約や物品、浪費などを見直すこともあります。反対に政府からの支援金、給付金などを滞りなく受け取るための申請などを行うこともあります。
身上監護とは、本人の親族、介護看護者、病院施設、近隣の方等と連携して生活状況を把握し、本人が自分の意思にしたがって生活できるようにサポートすることです。
例えば、在宅生活をしている本人に転倒のおそれがある場合は、杖を購入する、住宅に手すりを設置する、介護補助器具をレンタルすることもあります。
後見人を選任するメリット
成年後見制度を利用する場合、本人の判断能力低下により生活に支障を来していることがほとんどです。後見人を選任すると、本人にとって次のようなメリットがあります。
金銭面でのメリット
財産を保護する
判断能力の低下した本人が、多額の現金を引き出して散財してしまうケースがありますが、後見人が財産を保護し、本人が通常の範囲を超える生活費をなるべく持たないようにできます。
収支を見直す
TVが壊れているのに契約しているNHKの受信契約を解約する、受け取れるはずの個人年金の請求ができていないものを請求するなど、本人の収入や支出を見直し、より良い生活水準になるよう整理します。
未払い金を清算する
入院費、施設費が支払えていなかったり、親族知人から借りている金銭がある場合は、後見人が債務を整理し、返済する計画を立てます。
未支給の給付金や臨時金を受け取る
住民税非課税世帯への給付金、定額減税など、市区町村から給付される臨時給付金には申請の期限があるため、本人が受け取れるように後見人が請求します。
管理口座をまとめられる
口座を5~10保有している方がいますが、口座が分散するといま使えるお金、将来使えるお金の見通しが把握しづらく、また管理が煩雑になります。すべての入出金が1つの口座で完結するように、保有する口座は最小限に整理することができます。
詐欺などを防ぐことができる
後見人が本人の財産を管理することで、特殊詐欺や押し売り、不当な定期購入契約など、本人が金銭トラブルに巻き込まれるリスクを下げることができます。
また、後見人に与えられた権限によっては、本人が誤ってしてしまった契約を、事後的に取り消すことができます。
生活面でのメリット
ゴミ屋敷などを整理して衛生面を整える
掃除することができなくなり、いわゆるゴミ屋敷状態で生活している方の場合、ご自宅に清掃業者を呼び、衛生的な環境を整えることができます。
生活用品の購入、補充などを行う
後見人は生活に必要な物、例えば壊れた冷蔵庫の購入、給湯器や排水管の修理、宅配弁当の契約など、生活に必要な物を購入することができます。
適切な医療介護サービスを受給できる
介護サービス契約ができない本人に代わって、必要な介護医療のサービスを導入することで、本人の健康面をサポートすることができます。
病院、施設の入院入所契約を行える
急な怪我や病気で入院する際や、施設に入所する際には様々な書類に記入押印することがあります。後見人がいれば、入退院時、施設入所時の書類を代理で記入することができます。
重要書類の管理を頼める
通帳、身分証、保険証、実印、権利書など本人にとって重要な書類を代わりに管理し、紛失や盗難を防ぎます。
後見人を選任するデメリット
判断能力が低下した本人の権利財産を保護するための後見人制度ですが、デメリットもあります。
裁判所への定期的な報告が生じる
成年後見制度を利用し始めると、少なくとも年に1回、裁判所に本人の収支を報告する義務があります。それ以外にも本人の財産、生活などに大きな変化が生じる場合、事前に裁判所に報告や相談をすることも必要になってきます。
専門家ではない後見人にとって、裁判所への報告は負担が少なくありません。
後見人への報酬が発生する
後見人は業務として本人の財産管理等を行いますので、報酬が発生します。
後見人の報酬は、後見人の一存で決定するわけではなく、本人の財産額、業務内容に応じて裁判所が決定しますが、おおよそ月2~3万円の報酬額になることが一般的です。
また、資力のない方については、裁判所が後見人の報酬を無報酬とする場合もあります。
一度後見人が選ばれると、原則として制度の利用中止ができない
成年後見制度は、判断能力の低下した本人を保護するための制度ですので、本人の判断能力が回復しない限り、原則として制度の利用を中止することができません。
後見人でない親族が金銭を管理することができない
成年後見人が本人の財産管理を行いますので、例えば親族が本人の通帳を管理し、入出金を行っている場合は、後見人が親族から通帳を預かることになります。
成年後見制度の利用にあたり、この通帳の管理者変更の際に親族が拒絶反応を示すことが多いのですが、親族だから、親子だからという理由で無意識に本人の財産の使い込みをしていることがありますので、本人の財産を保護するために後見人が通帳の引き渡しを受け、管理することになります。
本人の利益にならない金銭の支出や権利放棄はできない
親族による使い込みと類似していますが、本人の財産から本人にとって直接の利益にならない支出がなされていることが散見されます。
例えば、本人がまったく動画配信サービスを利用していないのに、同居している成人した子供が本人(子供にとっては親)の預貯金から支出をしている場合などです。
後見人を選任する方が良いケース
後見人の選任にはお伝えしたようなメリットデメリットがありますが、特に後見制度を利用した方が良いケースを6つご紹介します。
頼れる親族が身近にいない
同居する親族が本人をサポートできる状態であれば問題ありませんが、日常的に頼れる親族が近くにいない場合、日常的な生活支援、本人財産の管理、介護医療サービスの導入、医療機関や介護施設の選定など、第三者では対応できないことが多くあります。
このようなお困りごとがある場合は、後見制度を利用することで本人の生活が安定するため、メリットが大きいでしょう。
サポートする親族の負担が大きい
親族が本人の支援をしている場合、第三者に気軽に相談したり頼めるような性質の問題ではないため、1人で抱え込んでしまい精神的、身体的に限界を迎えている場合があります。
このようなケースでは、専門職後見人が本人の支援をすることで、親族の負担を大きく減らすことができ、本人と親族が共倒れになってしまうような事態を避けられます。
財産が多岐、多額にわたる
本人の財産が多岐、多額にわたる場合、本人や親族も財産の全体像を把握しきれていない場合があります。
実際に当事務所が受け持ったケースでは、個人年金保険と呼ばれる、隔月に保険会社から支給される保険を10件契約している方がいました。
それぞれの保険の支払時期、額が異なる上に、自動で一定期間だけ支払われるタイプの保険と、生存していることを条件に給付される保険が混在していたため、本人はとても管理できず、将来に向けた収支プランがまったく見通せない状態でした。
このように、財産が多岐、多額にわたる場合は、現在の生活の見通し、将来の収支や税金の問題を正確に把握しにくくなるため、後見人を選任して財産を整理してもらうメリットが大きいでしょう。
親族による使い込みが疑われる
親族が自分の遊興費を本人の財産から引き出している場合、単純に本人が施設や医療費などに使用する財産が減ることになりますので、早急に本人のために第三者が財産を管理する必要があります。
散財、浪費、高額な契約などがある
判断能力の低下した本人が、必要以上に物品を購入したり、生活ができなくなるほど浪費してしまうケースでは、日常生活の収支を見直し、財産基盤を立て直す必要があります。
親族が言っても聞かない、いつの間にかどこかで散財しているケースもありますので、専門家である後見人を選任し、公的な権限のある代理人が財産を管理するメリットが大きいでしょう。
暴言暴力など問題行動がある
本人が精神的な疾患等で他者に対する暴言暴力行為がみられる場合、適切な医療介護サービスを受けたり、必要に応じて入院することもあります。
問題行動がみられる本人に対応することは簡単ではありません。時には強い態度をもって接することもありますし、今後の財産管理や将来の在宅施設復帰などに向けた長期的な支援も必要となります。
周囲に対する暴言暴力行為がみられる人には、後見人が法律上の代理人として長期的に本人をサポートしていくことが必要かと思います。
後見人選任申立を相談するならどの専門家?
成年後見制度を利用するためには裁判所に書類を提出する必要があります。
裁判所に成年後見の申立をすることができるのは、弁護士と司法書士です。行政書士や税理士は申立てすることができません。
また、弁護士と司法書士であれば、すべての事務所が成年後見制度を理解し、業務として扱っているわけではありません。
成年後見制度を検討している場合は、後見制度に強い弁護士か司法書士に相談しましょう。
フォームはこちら初回相談料無料。お気軽にご予約ください。