いま現在お元気な方が将来に備えて対策を考えたとき、任意後見契約と家族信託が選択肢に上がることがあります。
任意後見契約と家族信託制度は、ともに財産を保護する制度であり、共通点もありますが、内容や実際の活用の仕方は異なります。
任意後見契約と家族信託の制度を比較しながら、それぞれの要件やメリットデメリット、実際の活用ケースなどをご紹介します。
任意後見契約とは?
任意後見契約とは、今はお元気な方が、ご自身の判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ自分の代わりに意思表示、契約、金銭管理を行ってくれる代理人(=任意後見人)を決めておく契約です。
任意後見契約の目的
任意後見は、ご本人の判断能力が低下したあとでも、本人のために金銭の管理、契約、本人の意思に沿った各種手続や意思決定支援を行うための制度です。
任意後見人は本人の代理人として、本人の身上監護、金銭管理を行うことを目的としています。
任意後見契約の利用方法
任意後見契約は、2段階の利用方法があります。それが「任意後見契約」と「任意後見契約の発効」です。
任意後見契約
契約時点ではお元気なご本人が、自分の代理人になってほしい人(=任意後見受任者)と契約をします。この契約は、公正証書で行います。
この時点では、任意後見契約が発効していないため、任意後見受任者には本人を代理する権限はありませんし、専門家に対する報酬が発生することもありません。
任意後見契約の発効
ご本人の判断能力が低下していると疑われる場合、本人をサポートしている親族、ケアマネ、任意後見受任者らは、医師に診断をしてもらいます。
ご本人の判断能力が低下していると医学的に証明され、診断書がでた場合、任意後見受任者は家庭裁判所に対して「任意後見監督人」の選任申立を行います。
任意後見監督人が裁判所から選任されると、そこから任意後見契約は発効し、任意後見人が本人の財産管理、身上監護などを行い、報酬が発生します。
※本記事執筆時2026.4.24の情報であり、任意後見契約の発効に監督人が不要となる可能性があります。
家族信託契約とは?
家族信託とは、自分の財産(不動産、預貯金、有価証券など)の管理や処分を、信頼できる家族に託すための財産管理制度です。
従来の「成年後見制度」や「遺言」を補完・代替する柔軟な仕組みとして利用されることが多く、主に認知症対策や円滑な資産承継のために利用されます。
家族信託契約の目的
家族信託契約の目的は、委託者(=財産を託す人)が受託者(=財産を託される人)に財産を託し、管理運用処分などの権限を与え、受託者は財産の管理等を通じて資産の円滑な承継、活用をすることを目的としています。
家族信託契約の利用方法
家族信託契約とは、民事信託の一種であり、実務上はほぼすべての家族信託契約が公正証書で作成されます。
家族信託契約を公正証書で作成した場合、契約が発効する時期についての条件が付されていない限り、契約時に直ちに効力を生じます。
不動産であれば委託者から受託者への名義変更が生じますし、金銭であれば受託者名義の信託口座に預け入れることになります。
任意後見契約と家族信託の制度の比較
任意後見契約と家族信託の制度の目的や利用方法以外の共通点、相違点は、以下のとおりです。
任意後見契約と家族信託の比較
| 任意後見契約 (任意後見制度) | 家族信託 (民事信託) | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 本人の生活・療養看護および財産管理 | 特定の財産の柔軟な管理・運用・承継 |
| 対象範囲 | 原則として全財産および身上監護 | 信託契約で定めた特定の財産のみ |
| 身上監護 | 可能(施設入所や医療契約の代理など) | 不可能(別途、委任契約等が必要) |
| 運用処分の自由度 | 低い (本人の利益保護のため保守的) | 高い (契約の範囲内で運用や売却が可能) |
| 契約方法 | 公正証書 | 公正証書 |
| 契約時の本人の 判断能力 | 一定の事理弁識能力が必要 認知症でも締結可能性あり | 高度な判断能力が必要 認知症では締結不可 |
| 開始時期 | 判断能力が不十分になった後(監督人選任後) | 契約締結時から即時開始が可能 |
| 監督・公的関与 | 家庭裁判所・任意後見監督人が必ず関与 | 原則、裁判所は関与しない(身内等で監督) |
| イニシャルコスト | 約18万円 (契約書作成15万、公証人3万) | 約60~100万(信託財産による) 契約書作成及び登記報酬約45万 公証人約10~20万 登録免許税5~20万 |
| ランニングコスト | 監督人選任後、任意後見報酬(月3~4万) と監督人報酬(月1~2万)が継続的に発生 | 原則なし(専門家を信託監督人にしない場合) |
| 取消権 | なし(本人の契約行為を後から取り消せない) | なし(受託者に取消権はない) |
対象となる財産の範囲
任意後見契約はご本人名義の全財産が対象となり、さらに本人の身上監護の責任もあります。
家族信託は特定の財産(信託財産)を管理活用承継することが目的であり、対象財産は一部に限られます。また、家族信託には身上監護の権限はありません。
財産の管理活用処分
任意後見契約は、ご本人の生活の安定を図り財産を保護することを目的としていますので、必要でない限り財産を処分することはありません。また、例えば空き家を賃貸に出したり、金銭を投資に回すといった資産運用も行いません。
家族信託契約は、委託者がどういう目的で財産を信託するのかに大きく左右され、資産運用が目的に入っていれば、受託者が自己の判断で財産を運用したり処分することができます。
契約時の判断能力
任意後見契約も家族信託契約も、どちらも契約行為ですので、本人に判断能力が備わっていることが前提です。
そして、任意後見よりも家族信託契約の方が、より高度な契約行為に位置付けられています。契約時点で本人の判断能力が低下している場合、任意後見は契約できる余地がありますが、家族信託の場合は契約ができません。
契約時の費用
任意後見契約の公正証書を専門家に依頼した場合、約15万~20万円程度の費用が発生します。
家族信託の場合、契約内容が非常に高度になるため、専門家報酬だけで約40~50万円単位になります。さらに、不動産の名義変更の際に登録免許税がかかるため、全体として100万円単位の費用になることもあります。
任意後見契約のメリットデメリット
任意後見契約のメリット
①身上監護ができる
任意後見契約のメリットは、身上監護権限があることです。
本人や親族でないと手続きや契約ができないようなことでも、任意後見契約を締結していれば、第三者である任意後見人が代理で各種手続や契約を行うことができます。
②裁判所の監督機能がある
任意後見契約は裁判所と任意後見監督人が関与するため、任意後見人による不正が生じにくい仕組みができています。
任意後見契約のデメリット
①発効まで時間がかかる
任意後見契約をしたあと、本人の判断能力が低下している場合には、裁判所に監督人の選任申立を行います。
裁判所から後見監督人が選任されるまで数か月を要すため、本人の金銭管理や身上監護など差し迫った対応が必要な場合でも、すぐに任意後見人が行動できないことがあります。
②毎月の報酬がかかる
専門家に任意後見人を依頼すると、毎月3~4万円程度の報酬が発生するほか、裁判所から選任される監督人に対しても毎月1~2万円程度の報酬を支払わなければなりません。
※本記事執筆時点の情報であり、監督人が不要になる法改正が検討されています
任意後見契約を利用した方が良いケース
任意後見契約は、家族信託と異なり「本人の身上監護」「すべての財産についての権限」「財産を保護する(運用はしない)」ことが特徴です。
つまり、任意後見契約は、身寄りがなく、判断能力が低下したときに身の回りのことや支払をしてくれる人がいない、親族への協力が望めないような方が利用した方が良い制度です。
家族信託のメリットデメリット
家族信託のメリット
①自由な制度設計ができる
家族信託は目的に従って財産を管理運用処分活用します。
委託者が望むのであれば、「不動産を売却して介護費に充てる」「孫に毎月贈与する」など、目的に合わせた柔軟な管理・運用が可能です。
②即効性がある
家族信託は、契約を締結したその瞬間から効力が発生し、判断能力があるうちから、管理権限を信頼できる家族に移転させることができます。
③倒産隔離機能がある
家族信託した財産は、委託者や受託者の個人的な財産とは切り離された「信託財産」という性質になります。
そのため、委託者や受託者が万が一破産したり、高額の負債を背負ったとしても、信託財産は個人の負債とは切り離され、差し押さえや競売のリスクから守られます。
家族信託を利用した方が良いケース
家族信託は、特定の財産の管理運用処分を親族に託す制度であり、「特定の財産だけ」「ある程度裁量のある管理運用ができる」「信じて託せる親族がいる」ことが特徴です。
つまり、家族信託は、次のような方に向いている制度です。
・貸土地など賃料収入がある不動産を所有しているが管理が大変なので、家賃収入は自分が受け取りつつ管理を親族に任せたい。
・自分の財産から少しずつ親族に財産を分与していき、自分が亡くなったら財産を子、孫や甥姪など親族に相続してほしい。
・自分が元気な内は家に住み続けるが、判断能力が低下したり空き家になった場合は、自分の関与なく息子娘の判断で家を貸したり売却できるようにしたい。
任意後見契約、家族信託契約は司法書士に相談しましょう
任意後見契約、家族信託はどちらも契約であり、司法書士に依頼することでスムーズな手続、財産承継が可能です。
確実な不動産登記
家族信託では、不動産の名義を「受託者」へ変更する「信託登記」が必須です。
司法書士はこの手続きのプロであり、契約書の作成から登記完了までワンストップで任せられるため、手続きの漏れを防げるうえ、登記のみを第三者に依頼する必要がないため、費用を抑えることができます。
後見実務経験が豊富
司法書士は「成年後見」や「任意後見」の分野で非常に多くの実績があります。
後見業務を行っている専門家(弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会福祉士等)の中で、最も多いのは司法書士です。
任意後見は契約して終わりではなく、実際に発効してからが大切です。
後見業務に長けた司法書士に依頼いただくことで、安心で確実な身上監護、財産管理が可能となります。
弁護士と比較して費用を抑えやすい
一般的に、同様の書類作成や申し立て手続きにおいて、司法書士の報酬は弁護士よりも低く、
親族間に争いがない「円満な相続・対策」であれば、コストパフォーマンスの面で司法書士が優れていることが多いといえます。
裁判所・法務局への書類作成能力
任意後見の開始には家庭裁判所への申し立てが必要です。
裁判所への書類作成業務は弁護士か司法書士しか行うことができませんが、司法書士はこれらの裁判所提出書類の作成も専門業務として数多く行っています。
ご相談はこちらから初回は相談料無料。お気軽にご相談ください。




