司法書士と弁護士は同じ法律を専門とする士業ですが、扱える事件には違いがあります。
このページでは相続で生じる一般的な手続の紹介と、司法書士と弁護士が相続に関して行える業務の共通点、違いをご説明します。
相続で必要な手続
相続で必要な手続は今からご紹介する次のような内容です。
実際の相続では遺言書があるかどうか、相続人の数などによって手続の内容が変わりますが、一般的には該当すれば司法書士や弁護士に依頼するかどうかに関わらず行います。
相続人の調査、確定(戸籍収集)
相続が発生したときは、遺言書がある場合など一部の例外を除き、原則として戸籍を収集します。
具体的には被相続人の出生から死亡まで、相続人全員の現在の戸籍を取得し、戸籍、つまり公的な書面によって相続人が誰なのかを確定させます。
被相続人の死亡後、手続が完了するまでの間に死亡した相続人がいる場合、その方の出生から死亡までの戸籍も収集することになります。
財産調査、確定(相続財産の確定)
相続人の調査と同様に、被相続人が亡くなったときの財産を調査し確定させます。
被相続人の不動産、預金、株式、保険などを調査していきます。
不動産であれば各市区町村に対して名寄せや評価証明書の請求を行います。
預金は銀行ごとに請求することになり、通帳がある場合は死亡時点の記帳を確認したり、銀行に現存照会、残高証明書の請求を行います。
株式は証券会社に対して保有財産の明細を発行してもらうことになります。
遺産分割協議書の作成
複数の相続人で「誰が、どの遺産を、どれぐらい相続するのか」を話し合い、合意すれば書面を作成します。
これを遺産分割協議書と呼びます。
複数の相続人が、法定相続分に従わずに相続する場合に必要な書面ですので、そもそも相続人が1名だけのケースや、法定相続分どおりに相続することが決まっている場合、遺産分割協議書を作成しなくても相続手続を行うことができます。
遺産分割協議書を作成する場合、各相続人が署名と実印で押印し、さらに印鑑証明書を添付することで、不動産相続登記や預貯金解約など、各相続手続が可能となります。
相続人の紛争が起きたなら、裁判所に調停申立
相続人同士の話し合いがまとまらない場合は、「遺産分割調停」という方法があります。
遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員が間に入って協議を取り持ってくれます。
このための手続を調停申立と呼び、裁判所に書類を作成して提出します。
遺産分割調停でも相続人同士の話し合いがまとまらない場合、遺産分割審判に進み、強制的に相続する取り分が確定します。
家、土地の名義変更(不動産の相続登記)
被相続人から不動産を相続した場合、相続人に名義を変更するための「登記」が必要です。
不動産の相続登記をしないと、不動産を売却したり、修繕費用を借りるといったことが出来ません。
また、令和6年4月1日からは相続登記が義務化され、3年以内に登記をしないと最大10万円以下の過料(罰金)の対象になります。
預貯金や株式の解約、移管
どの相続人が何を相続するか(遺産分割協議)がまとまれば、実際にその内容に基づいて被相続人名義の預金の解約や株式の移管手続を行います。
相続放棄なら裁判所への申述書類作成
相続を放棄したい場合は、相続が起き、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述書類を提出しなければなりません。
相続放棄をする場合、はじめから相続人ではなかったことになり、プラスの財産とマイナスの財産すべてを相続することが出来なくなります。
相続放棄をすれば相続に関する手続は終了し、遺産分割協議書への署名押印、相続登記、銀行解約などは行いません。
自筆証書遺言書があるなら裁判所への検認
自筆証書遺言書がある場合は、遺言書の改ざん防止のため、家庭裁判所に「検認」という手続をする必要があります。検認手続のために、先ほど述べた戸籍関係の書類を集めて裁判所に提出します。
自筆証書遺言書に封がされている場合、家庭裁判所で開封し、内容を確認します。
検認手続を経た自筆証書遺言書の後には「検認済み証書」が合綴され、遺言書の内容が改ざんされないように措置がなされます。
自筆証書遺言書は、この検認済み証書がないと相続手続に利用することができません。
相続人に認知症や未成年者がいる場合の申立
相続人の中に認知症や未成年者がいる場合、親や他の相続人に言いくるめられ、自分自身が良く理解しないまま不利な合意をしてしまうことがあり得ます。
そのような危険から保護するために、相続人の中に認知症や未成年者がいる場合は、その方の代わりに遺産分割協議を行う代理人を選任する必要があり、家庭裁判所に対して後見人や未成年者特別代理人を選任してもらうことになります。
家庭裁判所から選任された後見人や特別代理人が、認知症または未成年者の代わりに遺産分割協議に参加し、ご本人の権利が保護されるように努めます。
相続における司法書士と弁護士の業務の比較
上で述べた相続の手続はご自身がすることもできますが、平日に役所で戸籍を取得する必要があったり、法務局や銀行窓口で時間を使うなど大変な労力です。
相続手続をご自身がすることが難しい場合は、司法書士や弁護士に依頼することができます。
司法書士と弁護士はそれぞれ相続の手続で行える業務に共通点があり、反対に司法書士、弁護士いずれかにしか出来ない業務もあります。
司法書士、弁護士の扱える相続手続を比較していますので、ご自身がどちらに依頼するべきかの参考にしてください。
業務内容 | 司法書士 | 弁護士 |
---|---|---|
相続人の調査 | ○ | ○ |
財産調査 | ○ | ○ |
遺産分割協議書の作成 | ○ | ○ |
調停の申立 | ○ | ○ |
紛争解決、仲裁 | × | ○ |
相続登記(不動産の名義変更) | ○ | × |
預金の解約など相続手続 | ○ | ○ |
相続放棄の申立て | ○ | ○ |
自筆証書遺言書の検認 | ○ | ○ |
認知症や未成年者がいる場合の裁判所の手続 | ○ | ○ |
弁護士にしかできないこと
相続手続において弁護士にしかできないことは、「紛争が起きたときの仲裁や解決」です。
紛争が起きたときに、相続人の代理人として矢面に立ち、他の相続人と協議できるのは弁護士だけです。
そのほか、相続人の代理人として遺産分割に介入したり、具体的な助言を行う行為も弁護士にしか出来ないとされています。
司法書士にしかできないこと
相続手続において司法書士にしかできないことは、「不動産の相続登記(名義変更)」です。
不動産を相続し、相続人に名義が変わる場合は「登記」が必要です。
不動産の相続登記をしないと、不動産を売却したり、修繕費用を借りるといったことが出来ません。
※厳密には弁護士も登記申請業務ができますが、実体的に登記業務を行っている弁護士はほとんどいませんので、ほぼ司法書士の独占業務となっています。
司法書士と弁護士の費用の比較
案件によって費用が変わるため単純な比較はできませんが、一般的には弁護士よりも司法書士の方が安価になることが多い印象です。
これは、弁護士が紛争の際に代理人として対応することも想定した金額の設定になっているからだと思われます。司法書士は弁護士と比較すると費用が安価ですが、紛争が起きたときは申立書類を裁判所に提出するまでしかサポートできませんので、相手方との交渉や裁判所への出頭などを代理人に行ってもらうには弁護士に依頼することになります。
司法書士に依頼する方が良いケース
相続財産の中に不動産がある
相続財産の中に不動産がある場合は、相続人がご自身で申請する場合を除いて司法書士に依頼することになります。
弁護士に依頼し、後から司法書士に再度依頼するよりも、始めから司法書士に依頼する方がスムーズな手続が可能ですし、費用も1士業に依頼するだけなので割安になります。
相続人の紛争がない
相続人の紛争がない場合は、司法書士と弁護士が行える業務内容に差はありませんので、司法書士に依頼する方が一般的には割安になります。
弁護士に依頼する方が良いケース
相続人の紛争がある
相続人同士がもめてしまっている場合、仲裁したり相続人の代理人として対応できるのは弁護士だけです。
この場合は、ご自身で相続人との紛争を解決するか、弁護士に相談することになります。
使い込みや使途不明な相続財産がある
一部の相続人が被相続人の生前に財産を勝手に使っていたり、管理する中で使途不明な金額がある場合は、相続人の紛争に繋がる可能性が高く、その財産額の確定にかなりの労力を要します。
また、使い込みではありませんが、被相続人が特定の相続人に多額の金銭援助を行っていた場合や、相続人の親族(たとえば長男の配偶者)が介護をしていたケースなども、相続財産の確定で紛争になる可能性が高くなります。
このような場合は、司法書士よりも弁護士に相談する方が良いケースです。
司法書士と弁護士どちらに相談するべきか
司法書士と弁護士がともに行える業務の相談の場合でも、その難度や依頼者の性質などから判断するため、どちらが良いと言い切ることは難しいですが、相続に関する相談の窓口としては、
- 当事者でもめている→弁護士
- 裁判所で訴えなどを起こしたい→弁護士
- 当事者がもめていない→司法書士
- 不動産がある→司法書士
- なるべく費用を抑えたい→司法書士
となります。
司法書士、弁護士ともに、自分のできない業務であれば提携している専門家を紹介することになります。
当事務所は相続に特化した事務所です。
完全個室で守秘義務は順守していますので、安心してご相談ください。
万が一当事務所では対応できない場合でも、税理士や弁護士など各専門家と密接に連携していますので、スムーズにご紹介が可能です。
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