法務省の法制審議会において、「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案」が公表されました。
今回の改正案では、デジタル技術を活用した新たな遺言制度の創設や、自筆証書遺言・秘密証書遺言の方式要件の見直しなど、遺言制度全体に大きな変更が予定されています。
特に注目されているのが、新たに創設が検討されている「保管証書遺言」です。
これは、既に制度が開始している「自筆証書遺言書の法務局保管制度」と名称こそ似ているものの、内容はまったく別の新しい方式による遺言書です。
本記事では、改正案の概要と相続対策への影響について、司法書士の視点からわかりやすく解説します。
※本記事は令和8年6月時点の情報をもとに作成しており、最新の情報を反映していない可能性があります。必ず最新の情報や法改正をご確認ください。
新たな遺言方式「保管証書遺言」とは
現行の遺言書制度は、自宅で作成し保管する「自筆証書遺言書」、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらう「自筆証書遺言書の法務局保管制度」、公証役場で作成し公証役場で保管する「公正証書」、内容は伏せつつ遺言書の存在及び作成を公証人に認証してもらう「秘密証書遺言書」の主に4つの遺言書作成方式があります。(危急時遺言等を除く)
改正案では、現在の遺言書作成制度に加え、新たに「保管証書遺言」が創設される予定となっています。
保管証書遺言は、遺言書を法務局の遺言書保管制度の中で管理することを前提とした新しい遺言方式です。
保管証書遺言の作成方法
保管証書遺言書は次の方式に従って作成するものとされています。
①遺言者が、遺言の全文(電磁的記録に記録された証書にあっては、遺言の全文及び氏名)が記載され、又は記録された証書について、署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるものを講ずる(=PCやタブレット上でサイン。サインできない方の場合は遺言書保管官が遺言者の氏名を記名し、かつサインができない旨を付す)こと
民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案。一部筆者の加筆修正あり
②遺言者が、遺言書保管官(法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)(以下「遺言書保管法」という。)第3条に規定する遺言書保管官をいう。以下同じ。)の前で、その証書に記載され、又は記録された遺言の全文を口述すること
保管証書遺言書のポイント
①電子データでの作成が可能=全文を自署しなくてOK
従来の自筆証書遺言書は、財産目録を除く全文、日付及び氏名を自署する必要がありましたが、保管証書遺言書は電子データで作成されたものを利用可能となっております。
②押印が不要
自筆証書遺言書は、財産目録を除く全文、日付及び氏名を自署し押印することが義務づけられているところ、保管証書遺言は押印が不要となる予定です。
③遺言書の全文を口述する
遺言書を作成する遺言者は、法務局の遺言書保管官の面前で遺言書の内容を口述することになっています。
口述することができない方の場合は、通訳者を介して遺言書の内容を伝えるか、筆談により遺言書の内容を遺言書保管官に伝えることでも足ります。
④テレビ電話等で作成が認められることがある
原則として、遺言者が保管証書遺言を作成しようとするときは、法務局の遺言書保管官と直接対面することとなっていますが、保管官が相当と認めるときは、Web会議などの方法で、本人確認書類や必要書類の提示をうけ遺言書を作成することができるとされています。
※ただし、遺言書の作成は相続人による介入がないこと、判断能力が低下していないことを充分に確認する必要がある性質上、テレビ電話による作成が認められるケースは限られることが予想されます。
⑤遺言者死亡後の検認が不要
通常の自筆証書遺言書は、遺言者が死亡したあとに家庭裁判所で遺言書検認申立てをする必要があります。
対して、保管証書遺言書による作成方式は、公正証書遺言書と同様に遺言者が死亡したあと家庭裁判所で検認申立てが不要になる予定です。
司法書士から見た今回の改正のポイント
今回の改正案は、遺言制度のデジタル化と利用促進を大きな目的としています。
これまで、「方式が複雑で作成が難しい」「押印漏れや訂正方法のミスが心配」「公正証書遺言は費用負担が大きい」といった理由から遺言書の作成をためらっていた方にとって、利用しやすい制度へと変わる可能性があります。
そのほか、自筆証書遺言書の現実的なデメリットであった「検認手続」「遺言書本文の自署と押印」「遺言書の紛失や改ざんリスク」が解消され、相続人の方にとっても安心な遺言書制度が構築されつつあります。
一方で、制度が新しくなっても、相続人間のトラブル防止や円満な財産承継を実現するためには、遺言書の作成方法はもちろんのこと、遺言の内容そのものが重要です。
ご自身に最適な遺言方式の選択や内容の検討については、相続に詳しい司法書士へご相談されることをおすすめします。
遺言書は、大切なご家族への最後の意思表示です。
相続トラブルを未然に防ぎ、ご自身の想いを確実に実現するためにも、早めの準備をご検討ください。









