遺産分割協議とは、相続が起きたときに相続人の全員で「どの遺産を誰がどのように相続するのか」を話し合うことを言います。
遺産分割の協議は相続人全員が合意することが成立要件ですので、合意に至るまでに何度も相続人同士が話し合い、納得して協議を成立させます。
しかし、遺産分割協議が成立した後、新たな財産がでてきたり、事情が変わったり、気持ちに変化が生じて遺産分割協議自体をやり直したいと思うこともあります。
相続人全員が合意に至った遺産分割協議を後日取り消すことが出来るの?法的な効果はどうなる?やり直す際の注意点や遺産分割協議や登記の流れを解説します。
遺産分割の成立要件
まずは遺産分割協議の成立要件から見ていきましょう
①相続人全員が合意すること
遺産分割協議とは、相続人全員が「被相続人の財産について、誰が何をどの割合で受け取るか」を話し合うことを指します。
相続人全員が合意することが絶対条件ですので、相続人10名の中でたった1名だけが協議に反対している状態でも、遺産分割協議は成立しません。
相続人全員とは、遺産分割協議に加わることのできる法定相続人を指しますので、例えば相続放棄をした人、相続欠格により相続権を喪失した人は遺産分割協議に加わることができず、当該人物を除いた相続人が遺産分割協議を行います。
また、実務の場ではあまり多くありませんが、「相続分の譲渡」「相続分の放棄」をした相続人は、遺産分割協議をする立場から外れます。
②口頭でも成立するが実務上は書面が必須
遺産分割協議は口頭でも成立します。
しかし、実務上は遺産分割協議が成立したことを証明するために、合意に至った内容を記載した「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書として書面に残すことで、「相続人がどのような合意をしたか」が明確になり、後日の紛争防止にも役立ちます。
金融機関、不動産登記手続などの際には、書面の遺産分割協議書に、相続人が遺産分割協議書に押印した実印の印鑑証明書を添付することになります。
遺産分割協議をやり直すことができる?
相続人全員が同意すれば再度の分割協議が可能
遺産分割協議が成立した後でも、相続人全員が再度の協議に合意している場合は、遺産分割協議自体をやり直すことが可能です。
相続分の過半数、相続人の過半数が合意していれば良いわけではなく、あくまで相続人全員が合意していれば遺産分割協議のやり直しが可能となります。
この場合、法的には成立した遺産分割協議を合意解除し、再度遺産分割協議をするということになります。
分割協議の合意解除は遺産分割協議の全部についてだけではなく、一部についてのみの解除も認められます。(最判平2.9.27)
当初の遺産分割協議の結果に基づき財産を処分しているときは対抗できない
最初の遺産分割により決まった内容をもとに相続人が取得した財産を第三者に処分していた場合、遺産分割をやり直したからといって財産を取り戻せるわけではありません。
例えば最初の遺産分割協議に基づいて不動産を相続した相続人が、取得した不動産を既に売却してしまっているとき、遺産分割協議を合意解除したからといって不動産を取り戻すことはできません。
このような場合は既に権利関係が複雑になっていることが多いので、当事者だけで解決するより、専門家に頼った方が安全です。
相続が起きる前の話し合い(遺産分割協議)は有効?
相続が起きる前にご家族が集まり、相続が起きたときの財産をどうするかについて先に話し合われることも多々あります。
相続が起きる前に話し合いをすることはもちろん大切なことですが、相続開始前にされた話し合いは遺産分割協議ではなく、相続開始前に遺産分割協議をすることはできません。
なぜなら将来の相続人が誰になるのか、そして相続財産が何であるのかは、亡くなる瞬間まで確定しない(できない)からです。
例えば、高齢の親が入院し先が長くないと思っていたら、その子供が先に亡くなってしまうこともあり得ます。そのほか、相続対策としてお亡くなりになる前に財産を処分したり、孫や甥姪と養子縁組をして相続人が増えることもあります。
遺産分割協議はあくまで相続が発生した後の話し合いですので、事前に取り決めや覚え書きを残していたとしても、(心情的な問題やその後の関係に影響があるのは別として)その内容に拘束されません。
相続開始前に推定相続人間で合意ができている場合は、相続が発生した後に改めて当時の合意内容で問題ない旨を確認し、相続発生日以降に作成する遺産分割協議書に署名押印をすべきです。
遺言があるときはどうなる?
遺言書がある場合に、遺言書を差し置いて遺産分割協議が出来るかどうかはケースによります。
(1)相続人以外の受遺者がいる
遺言で相続人以外に相続財産を譲り受ける者(受遺者)がいる場合、その遺言に反して遺産分割協議を行うためには受遺者の承諾が必要になります。
相続で財産を取得する人が、財産を受け取れないことに同意すれば遺産分割の協議ができます。
(2)遺言執行者が選任されている
遺言で遺言執行者が選任されている場合、その就任前であっても遺言の内容に反する遺産の処分は禁止され、無効になります。
ただし、遺言執行者が遺言と異なる内容の遺産分割をすることについて承諾をしている場合、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行うことは可能とされています。
(3)遺言で遺産分割が禁止されている
多くはありませんが、遺言の中で、遺産分割を禁じている場合があります。
そのような場合は、共同相続人全員の合意があったとしても、遺産分割をすることは出来ません。
禁止期間の経過後に相続人全員で遺産分割協議をすることも出来ますが、そうすると禁止期間中に遺産の相続ができず、塩漬け状態になってしまいます。
また、近年は相続人が高齢であることも多いので、禁止期間中に相続人が死亡し数次相続が起きてしまう可能性もあります。
遺言で遺産分割を禁止されている場合は、素直に遺言の内容通りに遺産相続手続をした方が良いかもしれません。
遺産分割協議をした後、相続手続きをしないまま相続人が死亡したらどうなる?
相続人全員による遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書を作成のうえ署名押印をし印鑑証明書を添付したものの、不動産の相続登記や預貯金の解約名義変更をする前に協議をした相続人が死亡した場合でも、遺産分割協議が無効になるわけではありません。
口頭で遺産分割協議が成立し、さらに遺産分割協議書に署名と実印で押印され印鑑証明書も添付されているのであれば、その後に遺産分割に参加していた相続人が死亡していても当初の遺産分割協議書を用いて各種相続手続きをすることができます。
遺産分割協議をやり直したときの相続登記はどうなる?流れ
成立した遺産分割協議をやり直す場合において、既に相続登記がなされているときの対応方法は次のとおりです。
相続登記を「合意解除」で抹消
遺産分割協議により被相続人から当初の相続人に所有権移転登記をなし、登記が完了しているときは、所有権移転登記を「合意解除」を原因として抹消登記申請します。
この場合の登記権利者は抹消前の所有者=被相続人(の相続人)となり、登記義務者は抹消により権利を失う相続人です。
抹消した後、改めて相続登記を申請
所有権移転登記の抹消により相続登記をする前の状態、つまり被相続人の名義に戻りますので、その後改めて成立した遺産分割協議に基づいて相続登記を申請します。
所有権更正登記はできない?
所有権更正登記は、遺産分割協議による相続登記をする際に、AとBが相続人であるはずが誤ってAだけの相続登記をした場合や、AとBの持分2分の1ずつの登記をするはずが誤って異なる持分を申請したような場合に行います。
つまり、遺産分割協議のやり直しではなく遺産分割協議を登記に正しく反映できていない「誤記」の状態であるときに、更正登記を用います。
課税関係に注意
相続税
最初に成立した遺産分割協議に基づいて相続税の申告をしているケースは、遺産分割協議のやり直しによって相続税の課税関係が変更となることがなく、当初の課税が維持されます。
つまり、最初の遺産分割協議で多くの税金を払った方が、後の遺産分割協議で少ない財産を取得したとしても、税金が戻ってくるなどの措置はありません。
贈与税、所得税など
民法上は相続人全員が合意していれば一度成立した遺産分割協議をやり直すこともできますが、税法上は新たな財産の移転と捉えられ、贈与税や所得税の課税対象になってしまうことがあります。
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