遺言の種類は?(自筆証書と公正証書の違い)

よく利用される遺言として、自ら自署して書き残すタイプの「自筆証書遺言」と、公証役場で公的な書面として残すタイプの「公正証書遺言」があります。
自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを利用すべきですか?とよくご相談をいただきます。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違いやそれぞれの特徴、専門家としてどちらがオススメなのかを、ご紹介したいと思います。

1.自筆証書遺言とは

(1)要件

自筆証書遺言とは、自分で自署(手書き)して作成した遺言のことです。おそらく遺言といえばこの自筆証書をイメージされる方も多いと思います。

法的に有効な自筆証書が成立するためには、①遺言の内容全文、②氏名、③日付を自署し、④押印することが要件とされています。
①遺言の内容全文は必ず本人の手書きを要し、ワープロで作成したものは無効です。偽造・改ざんされるおそれがあるためです。
また②氏名とは通常は名字と名前を指しますが、確実に誰が書いたか特定できるなら、皆から呼ばれている愛称や通称名でも良いとされています。
次に③日付は確実に特定できる書き方でなければならず、「○月吉日」は特定できないため無効となります。反対に特定できる書き方であれば、「2020年東京オリンピック開催日」のような書き方でも良いとされています。
最後に④押印は、一応実印は要求されていませんが、認印だと簡単に改ざんされてしまうため、通常は実印を押印することになります。
また、封筒の中に入れる場合は、封をしたあと同じ印鑑で封の箇所に押印することになります。


(2)特徴

自筆証書遺言の最大のメリットは、お金をかけずに気軽に作成できる点です。
また、自分だけが関与するので、内容をいつでも変更でき、他人に知られることがない点も大きな特徴です。

一方、デメリットとして、自筆証書としての要件をクリアできていないと無効になってしまう点です。この場合、遺言書がないものとして扱われしてしまいます。

また、自筆証書遺言が有効に成立していても、遺言者本人の没後、相続人全員が裁判所に集まって法的に有効な遺言だと認めてもらう(=検認)必要があります。

相続人全員が裁判所に集まらなければならないため、全員が集まれる日を調整したり、連絡を取って遠方から来て貰う必要があり、相続人全員に負担がかかります。
この検認手続は遺言を残した人が死んだ後でないと出来ないため、自分の死後にどうしても相続人に面倒をかけてしまうことになります。
さらに、自分で作成して保管しているだけのため、せっかく書き残しても見つけてもらえない、ある相続人が周りに隠して都合の良いように改ざんする、捨ててしまう、偽造するおそれもあります。


(3)良い点・悪い点
良い点お金がかからない、気軽に作成できる、いつでも変更できる
悪い点要件をクリアしていないと無効になる、改ざん・紛失・隠蔽のおそれがある、自分の死後発見されないおそれがある、相続人全員が裁判所に集まり検認してもらう必要あり


2.公正証書遺言とは

(1)要件

公正証書遺言とは、公証役場という場所にいる公証人に遺言を作成してもらう方法です。
公正証書の要件としては、①遺言の内容を公証人に伝え、②公証人がそれを書面として作成し、③証人(立会人)2人が証明して、④全員が記名押印することが要件となります。

①遺言の内容を伝える方法は基本的に口頭になりますが、それが難しい場合は筆談や、事前に聞いている内容を公証人が読み上げて、返事をしてもらう方法もあります。
②公証人は本人から聞いた内容を書面として作成します。
③証人(立会人)2人は本人か公証役場が用意することになりますが、未成年者、相続人、遺産を受け取る人(受遺者)、その配偶者や直系血族などは証人になることができません。
④全員の記名押印については、公証人の面前で行います。


(2)特徴

公正証書遺言最大の特徴は、公証人によって法的に有効な遺言書を作成してもらえるという点です。

もし遺言書を紛失してしまっても、公証役場にデータが保管されているので、再度交付してもらうことが可能ですし、相続人によって改ざんされる心配もありません。
さらに、自筆証書遺言と違い作成時点で既に法的に有効な書面になっているため、自分の死後ただちにその遺言の内容どおりに権利が確定し、相続人にとって負担がかなり少ないことも大きな特徴です。

一方で、公証人に作成してもらうことになるため、公証人手数料がかかってしまいます。また、司法書士に依頼した場合、その専門家への報酬がかかってしまいます。 さらに、公証役場で作成した遺言の内容を再度公正証書によって変更する場合、費用がかかります。

詳しい公正証書の費用については遺言作成にかかる費用をご覧ください。


(3)良い点・悪い点
良い点自分の死後裁判所での手続がないため相続人の負担がかなり少ない、改ざん・紛失・隠蔽のおそれほぼ無し
悪い点公証人と司法書士への費用がかかる、公正証書を公正証書で内容変更する場合費用がかかる


3.どちらの遺言を利用すべきか

当事務所としては、公正証書遺言での作成を強くすすめています。

自筆証書遺言では、せっかく書いた遺言が達筆で読めずに裁判所の検認ができなかったり、専門家が介入しないため内容がめちゃくちゃだったりというケースが数多くあります。
また、法的な要件を満たしていない自筆証書遺言が残ることでかえって話がややこしくなってしまい、相続人がモメて遺産分割協議がまとまらないケースもよくあります。

自筆証書遺言だと本人の死後に相続人に費用や精神的な負担をかけてしまううえに、法的な有効性についても争われてしまうこともありますが、公正証書遺言は、作成する際に費用がかかる分、相続人たちへの負担はかなり抑えられますし、法的に有効な書面となるので争いになる可能性もグンと低くなります。

極端な話ですが、費用に関しては自筆証書と公正証書はほぼ同じで、誰がいつ負担するかの違いだと考えてください。
自筆証書遺言書は遺言者の負担は軽く、相続人の負担が大きくなります。
反対に、公正証書遺言は遺言者の負担は大きいですが、相続人への負担はかなり軽くなります。

せっかくご家族や大切な方のために残す遺言ですから、安心確実に残せて、かつ相続人たちの負担が軽い方が良いですよね。
以上のことから当事務所では公正証書遺言の作成をお勧めしています。これまで数多く遺言作成の手伝いをしていますから、安心してお任せください。