MENU

電話・メールでご相談
メール24時間受付中

お電話はこちらから WEBからのご相談はこちら

古い仮差押登記を抹消する方法

2023 11/06
古い仮差押登記を抹消する方法

不動産の登記事項証明書(登記簿)に、昔の仮差押登記がなされていることがあります。

この仮差押登記は、昔の古い抵当権や買戻し特約と異なり、抹消するためにかなりの労力を要することが多く、手続きがとても複雑です。

昔の古い仮差押登記を抹消するための方法、費用、注意点を解説します。

目次

仮差押登記とは

仮差押登記とは、ある債権者が自分の債権を保全するために、債務者の不動産に対して行う登記です。

金銭債権を有している債権者が、債務者から確実に回収するため、債務者の不動産などをいったん差し押さえておき、その財産を債務者が勝手に処分できないように裁判所に申し立てを行うことで、裁判所が債務者の不動産などに仮差押登記をなします。

なぜ昔の古い仮差押が残っているの?

昔の所有者に対する債権者が申し立てをしてなした仮差押登記は、その後所有者が変わっても(所有権移転しても)、ずっと残ったままになります。

仮差押登記は、債権者または債務者が裁判所に申し立てをしたり取り下げないかぎり、自動的に消えることはありません。

とりあえずの暫定措置として債権者が不動産を仮差押した後に債務者と和解し、金銭的な問題は消滅したことで取り下げること自体を失念してしまった、あるいは面倒だから放置してしまった可能性が考えられるほか、債権回収を断念して放置されていることもありえます。

なぜ昔の古い仮差押の抹消が難しいの?

昔の仮差押登記を抹消することが難しい理由はいくつかあります。

(1)当時の債権債務を証明する資料がない

仮差押登記がなされているということは、つまり仮差押権者として不動産登記簿に記載のある債権者が、当時の所有者に対して何らかの金銭債権を有していたことは間違いありませんが、その当時の契約書や関係資料が残っていないことが多く、仮差押にかかる債権が存在しているのかがわかりません。

さらに、仮差押は不動産登記簿上だと単に仮差押決定がなされた日付と裁判所しか記載されていないため、古い抵当権のように債権額や利息、弁済期を知ることができません。

(2)当事者が死亡しているなどで詳細が分からない

仮差押がなされた当時の所有者から相続や売買などで権利が転々としているケースでは、所有者側が当時の状況を知っていることは稀です。

また、債権者に関しても調査の結果既に死亡しており、相続人に尋ねても事実関係が全くわからないということもあり得ます。
仮差押を抹消するにあたり、当時者が1人もいないまま手続きをしなければいけないことが良くあります。

(3)裁判所での手続きが必須

仮差押の登記は、抵当権や買戻し特約と異なり当時者が登記申請をして抹消できるような比較的簡単な手続きではなく、裁判所に何らかの申し立てをすることになります。

裁判所への書類提出は知識がまったくない方が行うにはあまりにもハードルが高く、司法書士や弁護士の専門家に依頼するとそれなりに費用がかかりますので、手続きをせずに放置することがあります。

仮差押登記を抹消する方法

不動産に付着した仮差押を抹消する方法はいくつかありますが、いずれも裁判所の手続きを要します。

(1)債権者からの取り下げ

もっとも確実かつ簡単なのは、債権者が裁判所に仮差押を取り下げる方法です。

これは債権者が債務者と同意して、任意で取下書を提出する方法ですが、当然ながら債権者の金銭債権が残っている場合は弁済をするか別の担保を提供しなければ取り下げに応じてくれません。

(2)債務者からの事情変更による取り消し

債務者から、仮差押の原因たる事情が変更した書類を提出して取り下げる方法です。

事情変更により取り消しができるのは、仮差押登記を置いておく意味(必要性)がなくなった状態のことで、

①債務が弁済、解除などにより消滅した
②建物が取り壊しなどで存在しなくなった
③債務の不存在が判決で確定した
④債務者に十分な弁済資力があり、隠匿のおそれがなくなった
などがあります。

(3)仮差押解放金の供託

債務者が供託所に対して仮差押解放金を供託したときは、仮差押を抹消するように申し立てることができます。

つまり、債務者が供託所にお金を入れることで仮差押えを消してもらう手続であり、債権者からするとお金の回収さえできれば仮差押えをしておく必要性はなく、これは形を変えた弁済とほぼ同じ意味をなします。

(4)起訴命令→保全取消による抹消

起訴命令とは、債務者が、裁判所から債権者に対し一定期間内に訴訟を提起しないと仮差押えの効力を失わせる旨の決定をするように申し立てる手続です。

仮差押えとは、訴訟をする前段階の暫定的な措置であり、本来は仮差押えの後に金銭債権についての訴訟がなされることが通常です。

にもかかわらず、長年仮差押えだけをしている状態で放置することは、債務者の地位を不安定にさせるだけでなく、仮差押えの入った不動産の流通(経済活動)を阻害してしまうことになるため、一定期間内に訴訟がなされない場合は仮差押えの効力を失わせることができるのです。

起訴命令、保全取消による古い仮差押え抹消の流れ

当事務所が実際に行った、昭和初期の古い仮差押え登記を起訴命令及び保全取り消しにより抹消した流れを解説します。

(1)債権者調査

登記簿上の住所氏名からまず債権者の現在を調査します。
債権者が現在も存命であれば交渉をすることになりますが、昭和初期など昔に設定された仮差押えは債権者が死亡しているケースが大半です。
債権者が死亡していることが判明した場合は、相続人を確定するために戸籍を収集していきます。

(2)当時の記録の調査

不動産に登記された仮差押えが、どのような債権に基づいてなされたものなのかを調査します。

不動産の登記簿謄本には「仮差押命令を発した裁判所名」「仮差押え命令を発した日付」「債権者の住所氏名」ぐらいしか有益な情報が載っていません。

まずは債務者の手元に仮差押え命令の決定正本や当時の債権債務を証明する契約書、領収書が残っていないか確認しますが、現在の所有者が事情を知らない債務者の相続人であったり、債務者から不動産を買い受けた他人のケースの方が多く、当時の記録が残っていないことの方が多いでしょう。

そこで、仮差押え命令を発した管轄裁判所に対して当時の事件記録の閲覧を請求しますが、事件番号さえ分からず、さらに相当期間が経過しているために事件記録が残っていないこともあります。

法務局には、裁判所から仮差押登記を嘱託された当時の記録が残されていますが、30年以上経過しているケースでは法務局にも残っていないため、事件番号不詳として進めていくことになります。

(3)債権者の相続人に対して通知

債権者の相続人が判明した段階で交渉に入ります。
当事務所が請け負った仮差押抹消は相続人が18名いることが判明しました。

債権者からの取り下げや起訴命令申立てなど、どの手続きを選択するにせよ債権者の相続人全員に協力をしてもらわなければならず、1人でも協力できない方がいると任意で取り下げることはできません

しかしながら、裁判所の手続きは時間と費用がかかるため、最初は事情を説明し、当時の契約書や資料を持っているかどうかの確認、資料をもっておらず全く知らない場合はなるべく任意で協力を仰ぐために債務者から債権者の相続人に対して手紙を送付します。

全員が協力に前向きであれば取下書を作成して署名押印いただきますが、相続人が増えれば増えるほど音信不通であったり認知症などで任意での取下に協力できない方が出てくるため、結果的に債務者が裁判所に申し立てを行う流れとなることがほとんどです。

(3)起訴命令の申立

債権者の相続人を相手方として、現在の所有者が申立人となって裁判所に対して起訴命令の申し立てをします。

管轄裁判所は、登記簿謄本に記載されている仮差押命令を発した裁判所です。

起訴命令の申し立てが決定すると、裁判所から各債権者相続人に対して一定期間内に訴訟の提起をしなければならない旨の決定通知を送ります。

なお、古い仮差押の抹消は現在の法律ではなく旧法が適用されるため、手続きが現行法と若干異なります

当事務所が手続した昭和初期の仮差押抹消のケースも、旧法が適用されたため申立書の記載などが変わりました。

(4)相当期間経過後に送達証明の取得

裁判所から各債権者相続人に対して一定期間内に訴訟の提起をしなければならない旨の決定通知を送り、債権者相続人全員に到達した後訴訟がされないまま一定期間が経過すれば、やっと保全取り消しの手続に進むことになります。

保全取り消しでは送達がなされたことを証明する書類として、送達証明書を裁判所から取り寄せます。(裁判所に提出する証拠を裁判所から入手するとは何とも非効率ではありますが、形式的にこうせざるを得ないようです)

(5)保全取り消しの申立

上記の手続きを経て、やっと保全取り消しの申立に進みます。

保全取り消しの申立では、通常の訴訟のように申し立ての趣旨や理由を記載した申立書と疎明資料を裁判所に提出します。

なお、旧法が適用される仮差押の抹消手続きでは、民事訴訟と同じように期日を開き、申立人は最低1回裁判所に出廷することになります。

(6)裁判所から抹消登記の嘱託

保全取消が認められると、裁判所から法務局に対して仮差押の抹消登記を嘱託し、法務局が仮差押登記を抹消します。これでようやく手続き完了です。

(7)仮差押抹消の期間

仮差押抹消は、債権者債務者が存命であったり、権利関係を証明する書類が手元にあれば比較的数か月程度で手続できますが、相続が発生しているケースでは相続人調査から進めることとなり、調査から抹消完了まで1年程度の期間を要することがあります。

仮差押登記の抹消は司法書士に相談を

仮差押登記の抹消は登記に関する知識だけでなく、相続、裁判所、相手方との交渉など横断的な知識を要します。

仮差押は法律知識のない方が行うと無用な期間や費用を要する可能性がありますので、必ず司法書士に相談しましょう。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

目次
閉じる