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成年被後見人、被保佐人、被補助人死亡後の死後事務手続と財産引継ぎ、どこまでが元後見人の仕事なのか

2024 3/22
成年被後見人、被保佐人、被補助人死亡後の死後事務手続と財産引継ぎ、どこまでが元後見人の仕事なのか

成年後見制度を利用していた本人が死亡すると、後見人(保佐人・補助人)としての業務は終了し、法定相続人に対して引継ぎを行い後見業務が終了します。

本人に配偶者、子供がおり、本人のご存命時から連絡を取れる関係性であれば問題にはなりませんが、近年では核家族化や少子化により、本人が未婚または離婚、子供がいない、子供と絶縁状態、相続人が同年代の高齢兄弟姉妹、相続人が名前も覚えていない甥姪、といったケースが珍しくありません。

このようなケースでは、本人に関して死後の事務を行う人間がおらず、元後見人がやむを得ず死後事務を行うことがあります。また、元後見人が相続財産を相続人に引き渡したくても事実上出来ないことが多々あり、元後見人の精神的、身体的、経済的負担が大きくなっています。

目次

成年被後見人・被保佐人・被補助人死亡後、後見制度は当然に終了する

後見人、保佐人、補助人は本人の代理人です。

本人が死亡した瞬間に、代理人=後見人等ではなくなります。
つまり、後見人等としての地位(代理権限)は本人死亡により消滅します。

本人が死亡した後は、元後見人として裁判所への管理計算報告をし、相続人への管理財産の引継ぎを行い業務が終了します。

つまり、本人が死亡した後に生じる「病院への駆けつけ」「入院費や施設費の清算」「葬儀会社の手配や火葬」「残置物の撤去」などは、本来は元後見人がやるべき業務ではありません。

本人が亡くなると後見人ではなくなるので、遺体の引き取りや残置物(遺品)の撤去、葬儀会社の手配などは本来であれば親族や相続人が対応します。

しかし、現実問題として、本人の生前に親族と関わりがないケースでは、本人死亡後から相続人への財産引き渡しまでの間、元後見人、元保佐人、元補助人が対応せざるを得ないこともあります。

そこで法律上は、後見人に限り、

成年被後見人(以下「本人」)が死亡した場合において、必要があるときは、本人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、

  1. 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
  2. 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
  3. 本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(上記1,2の行為を除く。)

を行うことができるとされています。

(3)に該当する行為、例えば下の行為は、家庭裁判所の許可が必要です(民法873条の2)。

  1. 本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く。)
  2. 債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し(振込により払い戻す場合を含む。)
  3. 本人が入所施設等に残置していた動産等に関する寄託契約の締結
  4. 電気・ガス・水道の供給契約の解約 など

後見人は、本人の死亡後も元後見人として上述のような一定の行為をできることがありますが、これは義務ではありません。

誰かがこの手続きをしなければならないけれど、親族や法定相続人がその責任を放棄してしまっている(あるいは親族や相続人がいない)ために、やむを得ず元後見人が善意でやらざるを得ないことがあまりにも多いため、上述する法を制定して法的根拠を持たせたとも言えます。

注意しなければならないのは、保佐人、補助人には上述の規定が適用されません。
保佐人、補助人は、本人の死後は「事務管理」や「応急処分義務」に基づいて最低限の行為が出来るにとどまります。

法律上の義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い、もっとも本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければならない。

事務管理

委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。

応急処分義務

本人死亡後すぐに対応しなければならないこと

死後の緊急対応、遺体引き取り

本人死亡後まず要請されるのが遺体の引き取りです。

施設や病院で亡くなった場合、遺体の引き取りと残置物の処分、そして費用の清算を求められます。特に、人が亡くなるタイミングは予期できないため、緊急連絡先の親族がいない、または応答しないときは、休日だろうが夜中だろうが後見人に連絡があり、対応を迫られます。

実際に当事務所が受け持っていた件では、12月30日の夜中2時に連絡がきたこともあります。

本人が亡くなった後、元後見人として病院や施設に駆けつけても、できることはほとんどありません。それでも病院や施設の都合(安心材料)のために、何の権限もない元後見人が呼ばれるのです。

葬儀会社の手配、火葬

本人死亡で上の対応と同時に問題になるのが、葬儀会社の手配です。

本人が生前に葬儀会社契約をしている場合は、契約先の葬儀社に連絡をします。

本人が死後事務委任契約を締結している場合は、死後事務受任者が契約に基づいて葬儀会社の手配をします。

本人がこれらの契約をしていない場合でも、親族や相続人と連絡が取れ、葬儀会社の手配ができれば良いのですが、それすら難しいとなると、問題が生じます。

先ほど紹介したように、元後見人は家庭裁判所の許可を得て、「火葬・埋葬に関する契約」をすることができますが、「葬儀」に関する契約はすることができません。

つまり、元後見人が葬儀会社に連絡し契約すること自体が後見人としての職務、そして元後見人としての死後事務の範囲外なのです。法律上葬儀契約について規定がない以上、本人の財産から葬儀費用を支出した場合、その正当性に疑問が生じます。

ましてや、家庭裁判所の許可を得て火葬する規定がない元保佐人、元補助人の立場はもっと不安定です。

葬儀~火葬を行う権限のある親族や相続人がいないケースでは、市町村長がこれを行うことができることになっていますが、かなり時間がかかりますし、市役所の職員が病院や施設からの遺体搬出手配をしてくれるわけではありません。

病院、施設、元後見人、役所、そして関わりを拒否する相続人や親族の間で責任や労力の押し付け合いが起き、最終的にやむを得ず元後見人が対応しているのが現状です。

遺骨の回収

元後見人は遺骨を回収する権限も義務もありません。

元後見人が火葬を行わなければならない状況、つまり親族や相続人がいないか、いるけれど関係を拒絶しているケースでは、元後見人が遺骨を回収したとしても親族は引き取ってくれません。

元後見人として、回収されない他人の遺骨を保管し続けなければならないとすると、心身の負担があまりにも大きいため、このような場合は遺骨を回収せずに火葬のみを行います。

裁判所への報告

本人が死亡すると、後見人・保佐人・補助人であった人は、管理の計算をして、裁判所に報告を行い、相続人に対して相続財産の引継ぎをして業務が完全に終了します。

相続財産とは、通帳、保険証券、現金、家の鍵、不動産の権利書や契約書などの重要書類などです。

これら相続財産の引継ぎが出来れば元後見人のお役御免となるのですが、この引継ぎが上手くいかないことが多々あります。

相続人が判明している場合の引継ぎ

相続人が判明している場合、もっとも良い方法は相続人全員と一斉に面会し、面前で相続財産の説明と計算書を提示し、相続人全員に署名押印をしてもらったうえで引き渡す方法です。

次に、相続人の中で相続財産を引き継ぐ代表相続人1名を選定してもらい、その代表相続人に財産を引き渡す方法です。複数の相続人と連絡が取れている場合はこのような方法を取ることがありますが、連絡が取れる相続人が1名しかいないときは、その方に財産を引き継いでもらうように依頼します。

ただし、これらは正解があるわけではないため、相続人との関係性、相続財産の性質、物理的な距離などを考慮し、裁判所に相談しながら引き渡すこともあります。

相続人が不明な場合

財産を引き渡すべき法定相続人が不明な場合、法定相続人の調査をすることになります。

通常、成年後見制度利用の際には、戸籍を取得して本人の推定相続人を調査し、親族関係説明図を作成したうえで家庭裁判所に提出しますので、相続人の氏名や住所はある程度把握できていますし、連絡の取れる親族や相続人から聞き取りを行うこともあります。

しかし、後見申立て時から推定相続人が住所を移転していたり、死亡などで相続人に変更がある場合、または何らかの事情で申立て時に推定相続人調査を行わない場合など、本人の相続人を元後見人が把握できていないことがあります。

本人の相続人を元後見人が把握できていないときは、本人が死亡した後に元後見人として相続人調査を行います。なお、本人の存命中に成年後見人が相続人調査をすることはできないとされていますので、あくまで本人死亡後に相続人調査を行います。ちなみに、この調査費用や後の相続財産清算人申立費用は元後見人が負担します。

相続人がいない場合

相続人がまったくいない状態とは、元々天涯孤独の身である方のケースと、当初は相続人がいたものの、その全員が相続放棄をしたことにより相続人が存在しなくなったケースがあります。

相続人がまったくいない場合は、裁判所への申立により相続財産清算人を選任し、相続財産清算人に財産を引き渡して業務を終了させます。

法定相続人が相続放棄をするか否かは自由です。

しかし、後見人が相続財産を引き継ぐために連絡をとった時点で相続放棄が完了しているならまだしも、相続放棄をする予定だから相続財産を受け取らない(元後見人に面倒を押しつける)となると、血縁関係にすらない元後見人が何の権限もなく財産を保管し続けることになります。

相続放棄をすれば初めから相続人ではなかったことになりますので、相続財産を引き継ぎできなくなるのは理解できますが、かといって元後見人が面倒ごとを引き受け、最終的に費用負担をして泣きをみる現状を良いとは思いません。少なくとも、費用負担や手続きの簡略化など制度を改善していかなければ、これからますます増加する認知症の数に対して専門職後見人の成り手が減る一方だと思います。

ちなみに、元後見人から相続財産の引継ぎをしたとしても、それを消費(処分)しないかぎり、つまり単純に保管しているだけの場合は法定単純承認にも該当しませんので、相続放棄をすることができます。

このように、被後見人、被保佐人、被補助人である本人が死亡したとき、元後見人として行える内容は限りがあります。

いざというときの対応方法については、必ず事前に親族、相続人、病院施設と話しておくべきです。

元後見人がいつまでも際限なく対応を迫られることもありますし、法的な権限なく安易な同意や手続で相続人等とトラブルになることもあり得ます。

元後見人として、本人のためにできる限りのことはしたいですが、出来ないことは出来ないと線引きしないと無用なトラブルや対応に追われるリスクもあるのです。

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