MENU

電話・メールでご相談
メール24時間受付中

お電話はこちらから WEBからのご相談はこちら

株主や会社役員が認知症になったときの問題点

2023 10/28
株主や会社役員が認知症になったときの問題点

厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、2025年、日本では判断能力が低下した認知症患者が700万人を超え、65歳以上の5人に1人が認知症患者になると言われています。

その一方で、人手不足や経済情勢の悪化など様々な原因から、中小企業や個人事業主では、経営者1名のみが株主あるいは取締役であるケースが珍しくありません。

今後は、会社にとって唯一の株主や取締役が、認知症になり会社経営が滞ってしまう事態が予想され、これは会社にとって非常に大きなリスクです。

株主や会社の役員が認知症などで成年後見制度を利用したときの問題点や法的な手続などを紹介します。

目次

成年後見制度とは

認知症などで「事理を弁識する能力(自分の言動によってどのような結果が生じるかを判断し法律行為や事実行為を遂行する能力)」が低下している状態の方が、社会の中で詐欺等に巻き込まれることなく契約や取引ができるように、裁判所から法的な代理人を選任する制度を成年後見制度と呼びます。

民法では成年後見制度の類型として「補助・保佐・後見」の3類型を設けており、判断能力の低下具合によって、程度が軽い順に被補助人>被保佐人>被後見人と分類されます。
どの類型に該当するかによって本人と後見人ができる行為に差異がありますが、どの類型でも売買契約などの法律行為に一定の制限がかかります。

株主が認知症になったとき

株主が認知症などで判断能力が低下し、後見制度を利用し始めたとき、株主としての議決権の行使と配当等の受領権限に関して問題が生じます。

それらの権利を誰が行使するかについては、後見制度の類型によって変わってきます。

(1)株主が被補助人または被保佐人の場合

株主が被補助人または被保佐人の場合、補助人や保佐人が当然に議決権を代理行使できるわけではありません。

被補助人や被保佐人は、一定程度ご自身で判断する能力が残っている状態の方ですので、議決権を行使できる程度の判断能力があれば、引き続き本人が議決権を行使することになります。

仮に補助人や保佐人が議決権を代理行使する場合は、補助人や保佐人の「代理行為目録(補助人や保佐人が本人を代理して行える行為の一覧)」に議決権の代理行使に関する事項が記載されている必要があります。

また、配当の受領権限についても同様に、代理行為目録に定期的な収入(配当)として配当受領に関する代理権が付与されている場合に、補助人や保佐人が配当を代理受領することができます。

(2)株主が被後見人の場合

株主が被後見人の場合、被補助人や被保佐人と異なり判断能力が著しく低下している状態であるため、後見人が本人に代わって議決権を代理行使します。
配当についても同様に、後見人が本人に代わって受領します。

(3)株主が認知症になったときのリスク

議決権の多数を持っている株主によって会社の重要事項が決まる

株式会社は、会社の事業目的、会社名、役員等の決定をする際に株主総会によって決議を取り決定します。

定款に定めのない限り、議決権の過半数を有する株主が絶対的な決定権を持ちますので、議決権の多数を有する株主が認知症などで成年後見制度を利用すると、重要な事項について後見人が決定権を持つことになってしまいます。

後見人は本人の利益を最優先する

後見人は、家庭裁判所から選任された者が就任します。

後見人の候補者を立てることもできますが、最終的に裁判所が判断しますので、まったく見ず知らずの第三者(弁護士か司法書士)が就任することもあります。

そして、裁判所から選ばれた後見人は株主(認知症になった方)の利益を優先して行動します。
会社の唯一の株主が認知症になり、第三者の後見人等が議決権を行使する状態になったとき、会社の役員人事や方針について経営者側と意見や判断が一致するとは限りません。

選ばれる後見人によっては、役員人事等の判断を誤り、持続的な経営が危ぶまれることも考えられます。

取締役が認知症になったとき

取締役は会社の株主総会決議によって選任され、会社の業務を遂行します。
取締役は会社からの委任に基づいて就任するため、会社と委任関係にあります。
取締役が途中で認知症など成年後見制度を利用する方になった場合の法的効果を説明します。

(1)取締役が被保佐人または被補助人の場合

民法の委任契約は法定終了事由があり、法定終了事由に該当する場合には委任関係が終了します。例えば死亡や破産が終了事由に該当します。

被保佐人または被補助人は委任契約の終了事由に該当しないため、取締役が被保佐人や被補助人になったとしても当然に退任するわけではなく、引き続き取締役として会社に残り、業務を遂行する立場となります。

(2)取締役が被後見人の場合

取締役が被後見人になることは委任契約の終了事由に該当するため、後見開始の審判確定により退任します。

会社の登記を申請しなければならない

取締役が被後見人になると委任契約の終了により退任しますので、退任日から2週間以内に取締役退任の登記を申請しなければなりません。

(3)取締役が認知症になったときのリスク

会社の登記事項証明書には後見のことは記載されない

取締役が途中で認知症になり補助人や保佐人が就いた場合でも、会社の登記簿に成年後見制度を利用しているといった記載はされません。
つまり、第三者からはその他の取締役と同じく正常な判断能力を有している者として見られます。

会社の唯一の取締役が被後見人になったとき、委任契約の法定終了事由に該当し、取締役から退任してしまうため、会社に業務執行者が存在しなくなり、新たな取締役が選任されるまで権利関係が複雑になってしまいます。

また、取締役が被保佐人や被補助人になったとき、委任契約が終了するわけではないため取締役として残りますが、被保佐人や被補助人が取締役として行った行為は、制限行為能力を理由として取り消すことができないため、正常な判断能力ではない状態で第三者と契約や取引をしてしまうことも考えられ、業務執行に問題がないか注視する必要があります。

既に認知症の方を取締役に選ぶことはできる?

既に認知症になり補助人、保佐人、後見人が選任されている方を取締役に選ぶこともできます。
この場合、本人及び法定代理人がともに就任に関する承諾をすることで取締役になることができます。

ただし、この場合でも当該取締役が認知症であることは第三者から分からないため、取締役として行った行為は認知症であることを理由に取り消すことができません。

株主や取締役が認知症になる前の対策

株主や取締役が認知症になるリスクの対策として、任意後見制度の利用、信託、議決権に関する種類株式の発行、役員や株主を複数名にするなど、様々な方法が考えられます。しかし、このような対策は司法書士だけでなく、税理士、社労士など多数の専門家の意見を総合的に取り入れ、対策を講じることが重要です。

成年後見制度の利用の仕方

認知症などで「事理を弁識する能力(自分の言動によってどのような結果が生じるかを判断し法律行為や事実行為を遂行する能力)」が低下している状態の方のために、裁判所に対して後見制度利用の申し立てをし、後見(保佐・補助)開始の審判がでることで後見制度が開始されます。

医師の診断書が前提

後見制度を利用するためには、前提として「判断能力が低下しており、第三者の援助支援がなければ法律行為や財産管理が難しい」と医師から診断を受けることが必要です。

周囲の人間がたぶん認知症だろうと考えているだけでは制度を開始することはできず、医師の客観的な診断書が必要です。
なお、医師であれば誰が診断書を作成しても良いので、主治医である必要はなく、精神科などの後見制度や認知症に長けた医師である必要もありません。

医師の診断書がある=必ず後見申立てではない

後見制度の利用のためには医師の診断書が必須ですが、反対に医師の診断書があるからといって成年後見制度を必ず利用しなければならない訳ではありません。

成年後見制度はあくまで申し立てによって始まりますので、認知症と診断されているものの様々な事情で申し立てをしない出来ない場合もあります。

後見制度を申し立てるケース

認知症の方が既に施設や病院に入っており、親族の方が常にサポートできる環境であれば成年後見制度の必要性はあまり感じないかもしれません。

しかし、認知症になった方について法律行為や財産管理が迫られたとき、法的に代理できる人間として成年後見人を選任することになります。例えば次のケースです。

(1)認知症の方が相続人の1人になったとき
(2)認知症の方の預金通帳からお金を引き出す必要があるとき
(3)親族がおらず、認知症の方ご本人が入院や施設の契約をできないとき
(4)認知症の方名義の不動産を売却等するとき

後見制度を司法書士に相談するメリット

後見業務に長けている

成年後見業務は裁判所に申し立てを行う必要がありますが、この申し立てができるのは司法書士か弁護士だけです。

そして、司法書士や弁護士で後見業務の実務に精通している者はあまり多くありませんが、当事務所であれば後見業務を常に10件以上行っており、実務に精通しています。

申立て時の費用、期間から注意点など不安な点を安心してご相談いただけます。

後見人になることができる

後見人になること自体に特別な資格はいりませんが、就任後は裁判所への連絡報告、許可の申立、不動産の売却や相続手続など、様々な法律行為の必要性に迫られます。

司法書士であればこれらの契約や手続に詳しいためサポートが可能で、しかも専門職後見人として就任することもできます。

後見だけでなく会社の登記も可能

株主や取締役が後見制度を利用した後、会社との取引や契約、登記の問題が生じますが、司法書士は会社法、商業登記法の専門家であり、会社の登記を行うことができます。

会社の登記は2週間以内の期限がありますので、後見制度の相談からそのまま登記にスムーズな移行ができる司法書士であれば、登記が遅れる心配がありません。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

目次
閉じる