経緯
当事務所が保佐人となっている本人(被保佐人)は、当事務所が保佐人となる前から競馬や競艇に生活費を使い込む浪費癖があり、生活費を圧迫していました。
そのため、食料等を購入する金銭がなく、コンビニで万引き窃盗をして捕まり実刑判決を受け、出所後に財産管理を目的として成年後見制度を利用し、当事務所が保佐人につきました。
当事務所は1週間に1回、本人に対し必要な生活費だけ手渡しすることで、浪費を抑えようとしていたところ、その生活費を持ったままコンビニで再度窃盗をし、常習的であるとして2年6か月もの実刑判決を言い渡されます。
財産管理のため辞任ができない
本人が刑務所に服役している状態なのでいったん辞任すべきかとも思いましたが、そもそも当事務所が辞任すると判断能力が低下している本人の財産を管理する人がいない(親族は疎遠で身寄りがない)、家賃を支払っている住宅の管理をしなければならない等、辞任できる状況ではありませんでした。
収容先の刑務所が分からない
保佐人として本人の体調や判断能力の確認、出所日の確認をするために面会する必要がありましたが、問題が起きました。
被保佐人が収容された刑務所の場所がどこか分からないのです。
割愛しますが、諸事情により国選弁護人や私選弁護人は付けていません。
逮捕後に連絡をしてきた警察によると「拘留後拘置所に移送され、その後裁判になる。詳しい日程は分からない」ということでした。
その後検察から保佐人である当事務所に聴取の電話がかかってきましたが、裁判の場所、日程等は知ることができませんでした。
その後検察から12月に2年6か月の実刑判決である旨、兵庫の刑務所に移送される旨の連絡がありましたが、具体的な移送先は不明でした。
被保佐人が収容されている刑務所を突き止めた方法
当事務所が成年後見制度を利用している被保佐人が刑務所に移送されたとき、その刑務所を調べた方法です。
近隣地の刑務所を調べる
まず近隣の刑務所を調べます。
「刑事施設一覧」などで検索すると出てきますし、Google Mapで「刑務所」と検索する方法でも出てきます。
ちなみに、兵庫県及び近隣の刑務所は
神戸刑務所
加古川刑務所
播磨社会復帰促進センター
大阪刑務所
大阪医療刑務所
京都刑務所
姫路少年刑務所
奈良少年刑務所
ですが、当事務所が保佐人を務める本人は高齢者なので少年刑務所以外のどこかにいるだろう、ということになります。
参考
刑務所に手紙を郵送
ある程度本人のいる刑務所の目星がついたところで、手紙を郵送します。
宛名は本人(受刑者)様宛、住所のところに刑務所の住所と刑務所名を記載します。
本人の氏名は正確に記載しなければならない
本人の氏名は戸籍のとおり、正確に記載する必要があります。
例えば「髙橋」を「高橋」と記載すると、別人物とみなされることもあります。
本人が在所しているなら届く
手紙を送ったあと、本人が刑務所に在所しているならそのまま手紙は本人に届きます。
反対に、本人がその刑務所にいないのなら、「宛名人不在」として返送されます。
つまり、複数の刑務所に手紙を送り「宛名人不在」として返送されなかった刑務所にいることがわかります。
刑期や本人の状態に応じて刑務所に移送される
収容される刑務所は、本人の状況、性別等によって決まります。
当事務所が保佐人を務める本人(被保佐人)は、精神的な疾患等が原因で判断能力が低下している人です。
判断能力低下により成年後見制度を利用している方を受け入れる刑務所は、兵庫近辺では大阪医療刑務所または播磨社会復帰促進センターのどちらかですが、播磨社会復帰促進センターは初犯かつ心身に著しい障害がない人が対象と記載されているので、当事務所の担当する被保佐人は、大阪医療刑務所にいるだろうと推測できます。
念のため近隣の刑務所も含めて4~5箇所に一斉に手紙を郵送したところ、大阪医療刑務所から返送がなかったので大阪医療刑務所に在所していることが分かり、本人に面談することができました。
どこの刑務所にいるかを調べる方法、番外編
このケースは手紙を郵送する方法で判明しましたが、その前に他の手段ではどうなのかと試していました。
刑務所へ電話
兵庫県の刑務所は神戸刑務所と加古川刑務所がありますので、2箇所の刑務所にそれぞれ電話をしてみました。
法定代理人(保佐人)として本人が刑務所にいるかどうか確認できるのか尋ねましたが、口頭での回答はせず、根拠法を明示したうえで書面により通知してくださいと言われ、電話で収容されている刑務所の場所を確認することはできませんでした。
ちなみにどの刑務所にいるかを確認することは家族であっても難しく、刑務所に収容された本人が家族に対して手紙を郵送するか、先ほどの例のようにこちらから複数の刑務所に手紙を郵送するしかなさそうです。
刑務所収容後に弁護士から照会
弁護士は正当な理由があれば、被収容者の刑務所を調査することができます。(23条照会)
正当な理由は、例えばお金を貸している債権者が訴訟の前提として収容先の刑務所を調べる必要がある等の場合です。
しかし、保佐人である当事務所は本人に対して金銭を貸している債権者の立場ではないため、この理由はつかえません。
また、保佐人は事務の対価として定期的に本人の財産から報酬を受領する権限があるのですが、報酬請求権が発生するタイミングが当分先であったこと、報酬請求権が発生しても保佐人が管理する本人口座から引き出せるため、正当な理由に当たりうるのか微妙でした。
そこで、保佐人が身上配慮義務の履行(本人にその履行を受領させること)を理由として弁護士照会によって刑務所に収容された被保佐人の居場所を突き止めることができるのかを弁護士に確認しましたが、あくまで事実調査の形での23条照会となるために認められない可能性が高く、身上配慮義務の履行を理由に照会をすることも難しそうとのとのことでした。
法定代理人として照会
保佐人は本人の法定代理人であり、財産管理と身上配慮義務があります。
法定代理人とは親子のように法律上定められた代理人ですので、法定代理人の立場から直接照会ができないかと思い、照会書を郵送しました。親が子の居場所を知れるとするならば、法定代理人である保佐人も照会できるだろうという見立です。
全国のどの刑務所に収容されているかは、東京の府中刑務所が管理していますので、府中刑務所に対して照会書を郵送したところ、10日ほどして府中刑務所庶務課から「司法書士会を通して照会をしてくれ」という連絡がありました。
その後当事務所は別の方法で知ることができたので、司法書士会を通じて照会をしていませんが、これがもし出来るのであれば後見業務をされていて本人(被後見人・被保佐人・被補助人)が捕まった刑務所を調べる手段としてはこれが確実かつ有効なのかもしれません。
結論
後見制度を利用している人が刑務所に収容された際に、後見人、保佐人、補助人など法定代理人であることのみを理由として収容先の刑務所を調べることは難しそうです。
(司法書士会経由で照会をする方法もあるのかもしれませんが、このケースは自力で探し出しましたので可否は不明です)
確実な方法は、隣接県を含む刑務所を検索し、医療刑務所など精神上の疾患がある受刑者を対象とする刑務所や周辺刑務所に手紙を郵送する方法です。
宛名人不在として返ってこない刑務所=本人のいる刑務所です。