寄与と贈与は、法律上の定義や適用される状況が異なるため、その違いを理解することは不可欠です。
両者の違いを理解することで、相続の際のトラブルを避け、財産を適切に管理することが可能となります。
本記事では、これらの概念とそれらがどのように適用されるのかを詳細に解説します。
寄与とは?
寄与とは、相続法において特異な役割を果たす重要な概念です。
ある相続人が被相続人の財産の維持や増加に対して特別な貢献をした際に、その相続人が普通の相続分を超える利益を享受することが許容されることを寄与と呼び、寄与をした相続人に認められる利益を寄与分といいます。
中には寄与分が認められたことで、本来より1千万円以上多く遺産を相続されるケースもあります。
具体的には被相続人の事業の運営、財産の管理、看護や介護の提供など、様々な形で被相続人の生前の財産の維持や増加に貢献した場合に、寄与分が認められることがあります。
しかしながら、寄与分が認められるためにはいくつかの厳密な条件を満たすことが求められます。
先ず、寄与行為が相続開始前に行われ、その行為が被相続人にとって不可欠であったこと、特別な貢献であったこと、そして、寄与行為によって被相続人から適切な対価を受け取っていないことなどが必要とされます。
さらに、その寄与行為が一定期間以上続けられ、相応の重荷が伴ったこと、そして寄与行為と被相続人の財産の保存・増大との間に因果関係があったことが確認されなければなりません。
被相続人の生前に1回介護をした程度では、特別な貢献=寄与と呼ぶことは難しく、その回数、頻度、重要性、行為の内容等を総合的に考慮して寄与が認められるかどうかが決まります。
寄与という理念は、すべての相続人にとって非常に重要な意味を持ちます。
というのも、特別な貢献をしてきた相続人からすれば、他の相続人よりも自分こそが被相続人に尽くしてきたのだから相続分が増えて当然だと考えるでしょうし、他の相続人からすると、自身が本来であれば相続人として扶助義務にあったはずの被相続人の世話(負担)を特定の相続人にのみ負わせたのですから、一定の対価をもって相続人同士の均衡を図ることになってもやむを得ないはずです。
寄与分が認められる場合は、すべての相続人の具体的な相続分に影響を及ぼすことになります。
寄与分を主張する:①遺産分割協議
相続人が複数いる場合は、遺産分割協議で具体的な遺産の相続方法を協議します。
その際、一定の貢献をした相続人は、自身の貢献度合いに応じて他の相続人に対し寄与分を主張します。
寄与分の算定方法(1日何時間の介護で〇〇円など)が確立されているわけではないので、まずは相続人同士の自由な協議によって、寄与分の有無、その度合い、具体的な金額等を話し合うことになります・
相続人同士の関係が良好であったり、特定の相続人が行ってきた貢献に対して理解があれば、遺産分割協議は寄与分の主張が通りやすく、最も容易に寄与分が認められるでしょう。
寄与分を主張する:②「遺産分割調停」
相続人同士の遺産分割協議では寄与分が認められなかった場合、次のステップとして遺産分割調停を申立てることが可能です。
遺産分割調停は家庭裁判所に申し立て、裁判所が中立的立場から調停を行います。この段階でも寄与分の主張を続けることが重要です。
ただし、遺産分割調停はあくまで裁判所を介しての話し合いですので、相続人同士が妥協、譲歩しなければ調停不調となります。
寄与分を主張する:③遺産分割審判
遺産分割調停で合意が得られなかった場合は、自動的に遺産分割審判という手続きに移行します。
遺産分割審判は、いわゆる裁判と同じようなもので、相続人の主張を聞いた家庭裁判所が遺産分割の対象となる財産とその分割方法を決定します。
被相続人に対する寄与が客観的に認められる場合は、裁判所が寄与の程度に応じて審判を下します。
贈与とは?
贈与とは、簡単に言えば自分の財産を譲る契約のことです。
これは生前に行われる行為で、相続とは本質的に異なります。贈与は具体的には、財産を有している者(贈与者)がその財産を自己の所有から解放し、それを受け取る者(受贈者)の所有に移転することを意味します。
贈与は、自分が亡くなる前に、子供や孫に資金を提供したい場合や、家を譲りたい場合に有効です。
また、相続と異なり、自身の財産が譲りたい人に渡るところを見届けることができるため、安心感もあります。
ですが、相続時に発生する相続税より、贈与時に発生する贈与税のほうが税率が高く、非課税枠が低額であるため、節税対策をしなければ高額な贈与税を支払うことになるので注意が必要です。
贈与の法的な背景
贈与は、生前の贈与者が意図的に他人に財産を譲渡する行為であり、その行為は法律により規制されます。具体的には、贈与税法に基づき、この贈与行為には贈与税が課せられます。これは、財産の無償の移転により生じる富の再分配を税制上公平にするための措置です。
贈与の重要性とその影響
贈与は、財産を次世代に移転する手段として、また資産管理や相続税対策の一環として重要な役割を果たしています。資産を生前に次世代に分け与えることにより、相続による財産分割や相続税の問題を避けることができるため、戦略的な資産管理の一つとして多くの人々に利用されています。
寄与と贈与(死因贈与)の違い
寄与と贈与は、どちらも個人間での資産移動を表す法律用語です。
どちらも一見似ているように見えるため、混同しやすいですが、実はその性質と結果は大きく異なります。
寄与と贈与の間の類似性と違いを理解することは、資産管理や相続、税務などの観点から重要です。
これらの概念の違いについてみていきましょう。
寄与と贈与の違い
①適用される瞬間
寄与は、相続人が生前に行った貢献を相続開始後に認めてもらうための制度で、相続時に存在する財産から寄与分が認められるか検討されます。寄与が問題となるのは相続開始後です。
贈与は、贈与者が自分の意思で特定の人に自分の財産を積極的に移転する法律行為です。贈与が問題となるのは相続が起きる前(遅くとも相続と同時)です。
②適用される税
寄与は相続の一部として認められる利益であり、死後の財産分配に影響を及ぼします。そのため、寄与分によって相続税に影響を及ぼします。
それに対し、贈与は生前に行われるものであり、その財産移転は贈与者の明確な意思によって実行され、贈与を受けた人は贈与税の問題が生じます。
③財産を受け取る人の性質
寄与は、特別な貢献をした相続人に対して認められるので、第三者が主張することはできません。
贈与は、贈与者が自由な意思によって財産を移転させる法律行為ですので、相続人以外の第三者に対しても贈与することができます。
これらの違いにより、寄与と贈与は法的な手続きや税制上の取扱い、そしてそれぞれの行為がもたらす結果に大きな差異を生じさせています。
寄与と贈与に関する注意点
適切に寄与や贈与を行うためには、それぞれの特性と制約を理解し、注意深く行動する必要があります。
それでは注意点を見てみましょう。
寄与の注意点
寄与を主張するためには、寄与の程度がわかる客観的な証拠とその証明が不可欠です。
他の相続人からすると、寄与を行ってきた相続人の苦労の度合いは実際に目の当たりにしていない限りわかりませんし、自分の相続分に影響があることから過小評価する傾向にあります。
他の相続人との不公平さを感じている、寄与を主張したい相続人は、まず寄与の程度をメモや日記でも良いので客観的にわかるようにしておきましょう。
また、近年の法改正により、相続の開始時点から10年を経過した場合は寄与分を主張することができなくなりましたので、寄与分を主張したい場合は速やかに遺産分割協議あるいは調停に進みましょう。
贈与の注意点
贈与には贈与税がかかるうえ、贈与税は相続税など他の税金よりも税率が高いので、贈与額と実際の受取額が大きく乖離することがあります。
また、非課税枠を超える贈与を受けた場合は申告が必要となり、税理士に依頼すると報酬が別途かかります。
さらに、相続開始3年(2023法改正により7年)以内にされた贈与は相続財産の一部とみなされる可能性もあるため、贈与の着手はなるべく早く、長期的な計画をもって行うことが重要です。