相続放棄とは
相続放棄は、亡くなった方の財産すべてを放棄し、相続人からも除外される法律上の手続です。
相続放棄をすることで、マイナスの財産を引き継ぐことがなくなり、相続人が故人の借金に苦しめられることがなくなります。
相続放棄は、「マイナスの財産>プラスの資産」か、または実態が把握しきれない絶縁状態の方のほとんどが選択しています。
相続放棄には様々な理由が存在します。どのような理由で相続放棄をするのかを知ることで、ご自身が相続放棄を検討する際の参考にすることができます。
正式に相続放棄をすると、その放棄者は相続人ですらなくなり、放棄を撤回することはできません。
代わりに、次の法定相続人が財産を受け継ぐ権利を取得します。
法定相続人は、被相続人の配偶者、子どもなど法律で指定された順位に従って権利を取得しますが、前の順位の方が相続放棄をしたことで繰り上がりで相続人になった方も、相続放棄をすることができます。
具体的な相続放棄の理由
借金が多く資産が少ない
故人の財産に対して負債の方が多い場合、相続放棄相続放棄を検討する主な理由の一つです。
この状況では、相続を受け入れることで、相続人が被相続人の借金を負うリスクがあります。
相続放棄を行うことで、そのような負担から逃れることが可能となります。
借金の有無が不明で不安がある
故人が生前浪費癖があった、他の相続人にお金を無心していた、怪しい人からお金を借りている噂があったなど、故人の借金の全容が掴めない、後から借金が出てくるかもしれないという方の相続人になることは、精神的に大きな負担となります。
「後から借金が出てきて経済的、精神的に苦しめられるぐらいなら、いっそのこと相続放棄をしてしまおう」という方は、相続放棄を選択されます。
故人との関係が疎遠で相続を避けたい
故人と疎遠または絶縁状態になっている、故人が遠方に住んでいたという理由で相続放棄する方もいます。
借金の有無だけではなく、関係自体を完全に絶ちたい、相続人として関与することすら望まない方は相続放棄することで法的責任や家族間の複雑な関係、または争いのリスクを回避することができます。
法的責任を回避したい
相続放棄は金銭的理由以外でも放棄できます。
相続人になると、その方の財産を相続するだけでなく、法的地位を承継することにもなります。
例えば賃借人としての地位であったり、不動産所有者としての境界確定、家屋の所有者責任などです。
被相続人が違法な行為を犯していたり、上のような未解決の法的問題が残っている場合、これらの問題に巻き込まれるリスクを避けるために相続放棄を選択することがあります。
家族の関係性を優先する
借金がなく関係も疎遠ではないけど、相続人同士の仲が良くない、遺産分割でもめるケースがあります。
それぞれの相続人が自分の権利を主張して、相続争いになってしまうことで問題が長期化し、解決までに多大な時間、労力、精神的疲弊を伴うこともあります。
遺産の分割が困難であったり、相続をめぐる争いが予想される場合、家族の関係を優先する目的で相続放棄を選択することがあります。
相続放棄は、家族間の関係のさらなる悪化や遺産に関する争いを回避する選択肢となりえます。
特定の相続人に相続させたい
例えば、被相続人が地域で家業を継いでいる場合、他の相続人が相続放棄を選択することで、家業を継続する相続人が単独で遺産を受け継ぐことができます。
さらに、家業を継がない他の相続人は、相続放棄を通じて、後に故人が家業に関連する多額の借金を抱えていたことが明らかになった場合でも、その負債を負う必要がないという安心を得ることができます。
このような理由から、相続人間での合意が得られ、特定の相続人に遺産を集中させる目的で、相続放棄の手続きが利用されることがあります。
相続放棄申述書の「放棄の理由」
相続放棄を申し立てるには、家庭裁判所に相続放棄申述書と必要な書類を提出する必要があります。
相続放棄の理由の欄には、次の選択肢があります。
- 被相続人から生前に贈与を受けている
- 生活が安定している
- 遺産が少ない
- 遺産を分散させたくない
- 債務超過のため
- その他
そのほか、相続放棄をする際に知っている財産の概略を記載する欄があります。
- 農地、山林、宅地、建物
- 預貯金
- 有価証券
- 負債
相続放棄の理由は確実に記載を要するものの、相続財産の概略は「不明」でも問題ありません。
相続放棄申述書
相続放棄申述書は、相続放棄の認可を求めて家庭裁判所に提出する申請書になります。
また、相続放棄を行うためには、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所にこの申述書及び必要書類を提出する必要があります。
家庭裁判所に提出する相続放棄申述書は下記からダウンロードできます。
相続放棄記入例
参照元:裁判所
日付、提出先家庭裁判所の名称、申述人の署名及び印
初めに、申請書の作成年月日及び申立書を提出する裁判所の名称を記載し、申述人に署名と印を押します。
提出先の裁判所は、亡くなった方の死亡時住所を管轄する家庭裁判所です。
添付書類
提出する添付書類にチェックと通数を記載します。
相続放棄は一般的に次の書類を提出します。
亡くなった方の除籍
亡くなった方の最後の住所を証明する住民票または戸籍附票
相続人の戸籍
相続人の住所を証明する住民票または戸籍附票
申述人の詳細情報の記入
申述人の情報欄には、本籍地、住所、氏名、生年月日、平日日中に連絡のつく電話番号、そして被相続人との関係を記載します。本籍地は「自分の戸籍謄本」を、住所は「自分の住民票」を確認して正確に記入します。
法定代理人の記入(申述人が未成年の場合)
申述人が未成年の場合には、法定代理人である親が「法定代理人」の欄に記入します。親の住所、電話番号、そして氏名を記載します。
申述人が被後見人・被保佐人・被補助人の場合は、成年後見人・保佐人・補助人が法定代理人の欄に記入します。
被相続人の情報の記入
被相続人の情報欄には、本籍地、最終住所、氏名、および死亡年月日を記載する必要があります。
申述書を提出すると家庭裁判所で審査が行われます。
相続放棄の手続きは、被相続人の最終住所の管轄内の家庭裁判所にて相続放棄の申述を行う必要があります。
申述は、相続人が相続が開始される原因となる事実(被相続人の死亡)並びに、法律上の相続人となったことを認知した時点から3か月以内に行う必要があります。
手続きには費用が発生します。申述書と収入印紙800円分×申述人数と返信用切手を入れて、家庭裁判所に申請を行ってください。
必要書類一覧
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 申述人(相続放棄する方)の戸籍謄本
- 収入印紙(800円)
- 切手
※注意点
申述書は、被相続人が亡くなった際の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。
(相続人の住所の管轄する家庭裁判所ではありません。)
また、相続放棄の必要書類である「被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本」「住民票除票(又は戸籍の附票)」なども一緒に提出します。
家庭裁判所からの「照会書」に回答する
相続放棄の申述書を提出した後、おおよそ早ければ10日~14日ほどで家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送られてきます。
この照会の目的は、申述が自分の意思によるものか、法定単純承認事由(=相続放棄が認められない条件)が存在しないかを確認することです。相続放棄の承認を得るためには、適切な「回答書」を作成し、それを提出する必要があります。
現に故人の財産を取得したり処分していると「相続を承認した」とみなされて相続放棄出来なくなります。
相続放棄の受理書と受理証明書について
相続放棄が認められると、家庭裁判所から「相続放棄の受理書」が送られてきます。
また、家庭裁判所に正式に相続放棄を証明してもらうには、別途「相続放棄の受理証明書」を申請する必要がありますが、金融機関、債権者、不動産登記手続に対しては証明書までを取得しなくても、「相続放棄の申述受理書」だけで対応できることがほとんどです。
相続放棄の受理書や受理証明書が必要になるのは以下のような場面です。
債務者から催促を受けた
債権者から催促を受けた際には、相続放棄の受理書や受理証明書を提示することで、それ以上の請求を受けることはありません。
不動産の名義変更
他の相続人が単純承認して不動産を名義変更する際には、相続放棄者の「受理証明書」が必要です。
ただ相続放棄者が自分で請求しなくても、登記申請をする本人(他の相続人)自身が請求できるので、わざわざ取得する必要はありません。
預貯金払い戻しなどの相続手続き
他の相続人が単純承認を行い不動産の名義変更をする場合には、相続放棄者の「受理証明書」が必要となります。
しかし、相続放棄者が個別に申請する必要はなく、名義変更を申請する本人(他の相続人)がこれを請求できるので、特別な手続きは不要です。
相続放棄をよりスムーズにおこなうために
相続放棄の過程は個々の状況により異なりますので、法律の専門家に相談し、適切な申述書の作成を行うことが重要であります。さらに、放棄する理由を明確に理解し、必要な書類を正確に提出することで、手続きはよりスムーズに進行する可能性があります。
なにより、相続放棄は自分が手続すれば終了ではありません。他の相続人の相続分に影響を与えますし、今まで相続人ではなかった順位の方が新たに繰り上がりで相続人として借金を相続するリスクがあります。
しかも、相続放棄は期限がありますので、放置していたり、誰にも相談せず悩んでいるだけでは解決するどころか事態を悪化させてしまう事もあり得ます。
相続放棄をする際は、必ず専門家に相談し、適切に手続をすすめていきましょう。