令和6年4月からの相続登記の義務化に伴い、放置していた相続登記手続きを相談される方が増えています。
令和6年4月以降の施行により、現在相続登記を放置し、亡くなった方名義のままにしている方も義務化の対象になりますので、今後は相続登記の申請を先延ばしにすることが実質できなくなります。
その中で「亡くなった祖父母名義の不動産があり、その子供も50~60代で高齢になりつつあるから、孫世代に直接相続登記をしたい」というご相談が多いため、祖父母名義の不動産を孫世代に直接移転させる方法について解説します。
祖父母から孫に不動産を直接相続登記できる?
亡くなった祖父母から孫名義に土地や建物の不動産を直接相続で移転させることができるか否かは、相続が起きた前後の事実関係により変化します。以下詳しくみていきます。
祖父母と孫の間の方が存命なら不可
祖父母と孫の間の方(祖父母から見て子、孫から見て親)が存命の場合、祖父母から孫に相続によって直接名義を移転させることはできません。
相続はその名のとおり相続人に対する名義変更で用いられる手続であり、孫は祖父母の相続人には当たらないからです。ただし、後述する条件に当てはまれば直接移転することができます。
祖父母と孫の間の方が相続欠格、相続人廃除なら直接移転できる
祖父母の子が相続欠格か相続人廃除に該当する場合は、祖父母から孫に直接移転することができます。
相続欠格や相続人廃除とは、亡くなった方やその相続人を殺害したり、遺言書を偽造、詐欺脅迫により遺言書を作成変更させる、虐待や暴言など著しい非行跡がある場合に、相続人から除外される制度です。
相続欠格や相続人廃除に該当した相続人は相続権を喪失しますが、代わりにその子供に相続権が代襲します。
結果として、祖父母名義の不動産を孫名義に直接移転することが可能になります。
祖父母と孫の間の方が亡くなっているなら直接移転できる
祖父母が亡くなった時点で、既に祖父母の子が死亡している場合は、不動産の名義を祖父母から孫に直接移転することができます。
このケースは、子が持っていた相続権を孫が代襲する(引き継ぐ)ため、孫が祖父母の相続人として財産を受け取ることができます。
また、祖父母が亡くなった時点では子が存命であったものの、その後相続登記をするまでの間に子が死亡した場合も、孫が祖父母名義の不動産を直接相続することができます。
相続分の譲渡をすれば祖父母から孫に移転できる
法定相続人は自分が持っている相続分を他人に譲渡することができます。
祖父母の子が存命である場合は、原則として孫に直接移転できませんが、子が孫に相続分の譲渡を行えば祖父母から孫に不動産を直接移転させることができます。
ただし、相続分の譲渡は正確には相続分を贈与か売買することになるため、贈与であれば受贈者である孫に贈与税が、売買であれば売主である子に譲渡所得税がかかります。
かなり高度な税金のシミュレーションになるため税理士に相談することになりますが、コストが高額になるため活用されることはあまり多くありません。
遺言であれば祖父母から孫に直接移転できる
祖父母の子が存命で、かつ相続欠格や相続人の廃除を受けていない場合、孫は法定相続人ではないため不動産の名義を直接移転させることはできません。
しかし、祖父母が孫に不動産を遺贈する旨の遺言書を作成していた場合は、遺言書によって祖父母から孫に不動産の名義を直接移転させることができます。
この場合の移転は相続ではなく遺贈(遺言による贈与)という扱いになりますが、結果的には相続と同じく不動産の名義が孫に変わることになります。
そもそも相続登記とは?
相続登記とは、亡くなった方の不動産の名義を、相続人などに変更(移転)する手続です。
法務局に戸籍や住民票、遺産分割協議書、印鑑証明書、登記申請書などを提出し申請します。
相続登記はどこの法務局に申請する?
相続登記は、不動産を管轄する法務局に申請します。
神戸市中央区や灘区であれば神戸地方法務局本局が管轄、神戸市須磨区や垂水区であれば神戸地方法務局須磨出張所が管轄といったように、不動産の所在地ごとに管轄が決まっています。
つまり、不動産をいろんな場所に複数所有している方は、管轄ごとに相続登記を申請する必要があります。
不動産の管轄を調べたい場合は、「市区町村 管轄 法務局」などで検索すれば調べることができます。
そのほか、不動産登記事項証明書を取得している場合は、末尾に(〇〇法務局管轄)と記載がありますので、その記載でどこの法務局が管轄なのかを調べることができます。
相続登記は誰が申請する?
相続登記は、新しく不動産の権利を取得する人(相続人)が申請します。
不動産登記は権利を取得する人と失う人の共同で申請する原則がありますが、相続の場合権利を失う人が亡くなっているため、権利を取得する相続人のみが単独で申請することができます。
ただし、相続人以外の、例えば遺言によって血縁関係にない第三者が不動産を取得する場合は、第三者が権利者、亡くなった方の相続人全員が義務者となって登記を申請することもあります。
法定相続分とは?
法律上の相続人に認められた法律上の取り分のことです。
相続人同士の話し合いにおいては、一般的に法定相続分をベースに行うことになります。
法定相続人とは?
法定相続人とは、ある方が亡くなったときに、法律上相続人になりうる立場の方を指します。
もっとも一般的な法定相続人は配偶者と子供です。
この法定相続人は民法によって順位が決まっており、法律上誰が相続人になるのかを規定しているだけでなく、その相続人が亡くなった方の財産をどれだけ承継する権利があるのかをも規定しているのが「法定相続分」です。
法定相続分は、法定相続人が確定して初めて検討されます。
具体的な法定相続分
具体的な法定相続分は以下のように表すことができます。
子 | 親 | 兄弟姉妹 | |
---|---|---|---|
配偶者あり | 配偶者:子 =1/2:1/2 | 配偶者:親 =2/3:1/3 | 配偶者:兄弟姉妹 =3/4:1/4 |
配偶者なし | 1 | 1 | 1 |
配偶者がいる場合
配偶者
配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人になります。
子
亡くなられた方(被相続人)に子がいる場合、配偶者と子は2分の1ずつの割合で法定相続分を有します。
子供が2人以上の場合、子供は2分の1を頭数で割りますので、例えば子供が2人いる場合、配偶者は4分の2、子供は4分の1ずつの法定相続分となります。
注意点
ここで注意すべきことが、子供は今の配偶者との間の子供に限らない、という点です。
典型的なのは前配偶者との間に子供がおり、再婚相手との間に子供がいないケースです。
この場合、再婚相手の配偶者は、相続が発生すると前妻との子供と遺産分割協議をしなければならなくなります。
こうした事態を避けるために、生前に遺言書を作成するなどしてトラブルになることを極力避ける必要があります。
孫
亡くなった方から見て子供がいたけれど、子供は先に亡くなっており、かつその子供に子供(亡くなった方から見て孫)がいる場合、孫は相続人になります。
孫が相続人になる場合、もともと孫の親が持っていた相続分を承継し、孫が複数いる場合は頭数で割ります。
例
被相続人:X
相続人:配偶者Y、子供A、子供Bの子(Xの孫)C、D
法定相続分 Y:8分の4、A 8分の2、C 8分の1、D 8分の1
親
子供がおらず親がいる場合は、親が法定相続人になります。
この場合、配偶者と親はそれぞれ3分の2、3分の1の割合で法定相続分を有し、両親が存命の場合両親は法定相続分を頭数で割ります。
例
配偶者と両親が
被相続人:X
相続人:配偶者Y、親AとB
法定相続分 Y:6分の4、A 6分の1、B 6分の1
兄弟姉妹
子供、両親がおらず、自分の兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹が法定相続人になります。
配偶者と兄弟姉妹はそれぞれ、4分の3、4分の1の法定相続分を有します。
兄弟姉妹が複数いる場合、兄弟姉妹は4分の1を頭数で割ります。
例
被相続人:X
相続人:配偶者Y、兄弟姉妹のABCD
法定相続分 Y:16分の12、ABCDは各16分の1
甥姪
先に亡くなっている兄弟姉妹がおり、かつその子供(亡くなった方の甥姪)がいる場合、甥姪は法定相続人になります。甥姪が相続人になる場合、もともと甥姪の親が持っていた相続分を承継し、甥姪が複数いる場合は頭数で割ります。
例
被相続人:X
相続人:配偶者Y、兄弟姉妹のABC、兄弟姉妹Dの子EとF
法定相続分 Y:32分の24、ABCは各32分の2、EFは各32分の1
配偶者がいない場合
配偶者がいない場合、子(孫)>親(祖父母)>兄弟姉妹(甥姪)の順に相続権が優先します。
同じ準備の相続人がいる場合は頭数で割ります。
例えば配偶者がおらず子供が2名いる場合、子供の法定相続分は2分の1ずつとなります。
相続登記手続きや遺言を司法書士に相談するメリット
不動産に特化した専門家である
司法書士は不動産登記に精通した法律の専門家であり、不動産登記法については弁護士よりも司法書士の方が知識を有しています。
名寄せ台帳の請求や相続登記手続については司法書士に相談することで、短期間に有益かつ確実なアドバイスを受けることができます。
二次相続や遺留分リスクなどを相談しながら手続きができる
相続手続きや遺言書の作成はその手続だけが出来ればOKという訳ではなく、将来の二次的な相続や、相続人同士のトラブルなどのリスクを考えながら対策して手続することが大切です。
相続の専門家である司法書士に相談すれば、将来的なリスクや対策を踏まえて相続登記や遺言書作成が進められます。
法務局への書類作成や申請ができる
法務局に提出する書類(所有不動産証明制度や登記申請)ができるのは司法書士と弁護士です。
その中でも、先ほど紹介したように不動産に関しては弁護士より司法書士の方がより詳しい知見を有していますので、司法書士に相談する方が安心です。