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【相続・後見 事例紹介】遺言書を作成した被後見人の居住用不動産を後見人が処分許可申立てするケース

2025 5/12
【相続・後見 事例紹介】遺言書を作成した被後見人の居住用不動産を後見人が処分許可申立てするケース

団塊世代が後期高齢者に該当するようになり少子化が進む日本では、後見人となる親族がおらず、司法書士や弁護士を専門職後見人(法定代理人)として選任するケースがますます増えていきます。

最近では成年後見人として本人(被後見人)を支援するための「意思決定支援に関するガイドライン」が策定されたり、これまでは各裁判所での独自の書式、報告様式であった後見業務報告書式を全国的に画一化するなど、後見業務を取り囲む環境は日々変化しています。

当事務所が関与した本人で、後見人として今後も直面するであろう事例を紹介します。

目次

後見事例の概要

後見事例の概要

本人:A(成年被後見人)
財産:預貯金800万円、居住用不動産(単独所有、空き家)
推定相続人:Aの甥姪など5名
遺言書:公正証書遺言書あり

個人が特定されない程度に実例の内容を一部修正していますが、当職が関与したご本人Aは成年被後見人であり、簡単なイエスノーであれば回答できるものの、ご自身で明確に意思を表示することが難しい方でした。

Aさんには配偶者と子供がおらず、将来の相続人となる推定相続人はAさんの甥や姪です。
Aさんは約5年前に入院し、リハビリを経て2年前から特別養護老人施設に入所、日常生活のほぼすべてを介助してもらう必要があり、在宅復帰の可能性はほぼ0に近い状態です。

事例の難点

事例の難点

Aさんにはかつて居住していた不動産がありました。
居住用不動産の管理費は年間約80万円、固定資産税が年間20万円とかなり高額で、Aさんの預貯金の10%以上を毎年費消してしまう額です。Aさんは在宅復帰の可能性が低いことから、全体の財産を保護する観点からみれば、不動産を早期に処分することが望ましく思えます。

一方で、Aさんは成年被後見人になる以前に公正証書遺言書を作成しており、その遺言書の中には不動産の処分方法についても記載がされているものでした。そして、仮に不動産を金銭に換価処分してしまうと、その行為によって相続する相続人の割合、額等に大きく影響を与えるものでした。

Aさんにとっては作成した遺言書の内容こそが本意であり、不動産を早期(生前)に処分することは想定していなかったのでしょう。

しかし、Aさんが今後も施設で不自由なく生活していくうえである程度預貯金に余裕があることは必須であるところ、不動産があることで預貯金が毎年100万ずつ目減りしていくこともまた想定していなかったのかもしれません。

この事例の大きな難点は、①本人の現在の意思決定が明確でないこと、②本人の遺言書(意思)を優先すれば財産を著しく減少させることになり、反対に財産保護を優先すれば本人の意思を翻すことになることでした。

さらに、将来本人が死亡したときに、後見人が不動産を処分していれば、遺言書によれば不動産を取得するはずだった相続人からのクレームが想定できますし、反対に後見人が現状のまま不動産を保持し続ければ、遺言書によれば金銭を取得するはずの相続人から、管理費が膨大な不動産を保有し続け必要な財産保護を怠ったとしてクレームが想定でき、後見人として慎重な対応を要求されるケースでした。

事例への対応と結論

事例への対応と結論

本人の意思

後見人である当事務所は、Aさん本人に、複数の日時にわたり不動産の処分と遺言書について質問をしましたが、ある時は「不動産は住まないから処分してほしい」という意向を示し、またある時は「いずれは帰る予定だからそのままにしてほしい」という意向を示し、Aさんの明確な意思を汲み取ることはできませんでした。

本人の将来の金銭を確保するために財産保護を優先

後見人である当事務所は、日本人の平均寿命や本人の健康状態から考えても、今後施設で生活していくための資金を確保する必要があると考え、不動産を処分する決定をしました。

Aさんの甥姪はAさんの遺言書の内容を知りませんが、Aさんの財産状況等を考慮し、不動産を処分する意向である旨を伝えると、全員が納得していました。

裁判所からの却下決定

Aさんの後見人である当事務所は、不動産の処分にあたり、買主との間で裁判所の処分許可決定を条件とする条件付売買契約を締結し、裁判所に居住用不動産処分許可の申立を行いました。

その後、裁判所と複数回の協議を重ね、結果として、裁判所から不動産処分許可申立ての却下処分が下されました。

裁判所の判断基準

裁判所の却下審判によると、却下に至った主な理由は次の3点です。

1.本人が遺言書を撤回する必要がある

裁判所は、民法では、遺言書を作成した成年被後見人が当該遺言を撤回するには、判断能力を回復した後、医師2名立ち合いのもとにする必要があり(民法第973条)、法定代理人たる後見人が遺言書と抵触する生前行為をおこなったとしても、民法第1023条第2項の撤回の効果は生じない、つまり、本人が明確な意思をもって本件の不動産処分行為を行わないないかぎり、遺言書の撤回ではないため、後見人が代理で売買を行ったとしても効果が生じないというものです。

2.紛争可能性

裁判所は、仮に後見人が本件の不動産売却処分をし、その金銭を別途保管して、将来不動産を相続するはずだった相続人に金員を交付したとしても、他の相続人らとの間で紛争になる可能性があるとして、不動産処分の申立を却下しました。
不動産処分許可をすることで、処分を許可した裁判所が紛争の間接的な当事者になることを危惧しているのだと思います。

3.本人の年齢

裁判所は却下審判に記載こそしなかったものの、当事務所との複数回の協議の中で、本人の年齢も考慮したと話していました。

Aさんは日本人の平均寿命から考えると、これから10年お元気に過ごされるかどうか、それとも数年後に万が一の時が訪れるのか、正直なところわかりません。裁判所としては、ご本人の預貯金がまさに0円に近くなり、不動産を処分しなくては施設費用を賄えなくなったその瞬間までは、現状維持が望ましいという方針のようでした。

まとめ

まとめ

今回紹介したケースでは、当事務所としては当初こそ本人の全体の財産管理のために不動産を処分する意向だったものの、最終的に裁判所からの却下審判という結果になりましたが、その間に何度も本人Aさんの意思を確認し、裁判所と何度も協議を重ね、将来の紛争可能性を抑制する観点から、あえて裁判所に却下審判を下してもらう結論に至りました。

後見人は善管注意義務が課せられており、ご本人の財産を守る義務があります。同じく、ご本人の意思を尊重し決定支援する身上監護の義務もあります。ご本人の意思の尊重と財産管理が相反するとき、何を最優先して考えるべきなのか、今後の後見業務においても大変教訓になる事例でした。

当事務所は成年後見業務、遺言書作成業務や相続手続など、高齢者の方を法律で支援する業務を専門におこなっております。

後見手続や遺言書など、お困りのことがあればいつでもご相談ください。

初回相談無料ご予約はこちらのフォームから。お気軽にご相談ください。

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