遺産分割協議書とは
法定相続人の間で「誰が・何を・どれぐらい」相続するかを協議することを「遺産分割協議」と呼び、合意した内容を書面にしたものを「遺産分割協議書」や「分割協議書」と呼びます。
遺産分割協議書は相続手続きのために作成する書類です。
遺産分割協議書は相続手続きに必須?
遺産分割協議書は、すべての相続手続きで必須になるわけではありません。
相続のケースによっては遺産分割協議書を作成しなくても手続きできることがあります。
遺産分割協議の要件、様式、実際の書き方
遺産分割協議書は様式が決まっていませんが、一般的には次の内容を記載します。
被相続人の表示
亡くなった方(被相続人)の死亡時住所、死亡時本籍、氏名、死亡年月日を記載します。
亡くなった方を特定し、その方についての協議が成立したことを示します。
協議が成立した旨
「上記被相続人の死亡により発生した相続に関し、共同相続人全員は、被相続人名義の財産につき次のとおり遺産分割の協議を行い、成立した。」のように記載します。
相続人と相続財産の内容
第1 相続人Aは、次の財産を相続する。
不動産 所在 〇〇市〇〇区〇〇町
地番 1番1
地目 宅地
地積 100㎡
持分2分の1
具体的に相続人がどの財産を相続したかを特定します。
不動産であれば、「所在・地番・地目・地積・持分であれば持分」を記載します。
地番や地積、地目は固定資産税の納税通知書や市役所の評価証明書を取得することで確認することができます。
本書作成の旨
「以上のとおり遺産分割協議が成立したので、その証として本書を作成し、共同相続人が署名または記名押印する。」のように記載します。
日付
遺産分割協議が成立した日付を記載します。
共同相続人の情報
共同相続人の住所、氏名を記載します。
氏名欄は署名である必要はありませんが、後日の紛争防止と相続人が確実に確認した意味を込めて署名することが望ましいでしょう。
実印
相続人の氏名横に実印で押印します。
相続手続きでは遺産分割協議書と共同相続人全員の印鑑証明書の原本をセットで提出します。
遺産分割協議書はどこで使う?
銀行の解約
不動産の名義変更(相続登記)
株式の承継
など、相続手続きのあらゆる場面で要求されることになります。
遺産分割協議書はなぜ作成する?
法定相続分以外の割合で相続したいときに作成します。
民法では、法定相続人と法定相続分が規定されています。
法定相続人と法定相続分の割合
子 | 親 | 兄弟姉妹 | |
配偶者 | 配偶者1/2 子1/2 | 配偶者2/3 親1/3 | 配偶者3/4 兄弟姉妹1/4 |
子のみ | 1 | ー | ー |
親のみ | ー | 1 | ー |
兄弟姉妹のみ | ー | ー | 1 |
この割合は、「相続財産の金銭的価値の1/2相当」という意味ではありません。
配偶者と子1名の合計2名が法定相続人であるとき、素直にこの割合に従うと、家や預金、株式もすべて1/2ずつの名義になることを意味します。
預貯金や株式など分けることが容易な財産であれば良いですが、家や貴金属なども1/2ずつの名義になってしまうと、将来的に売却したり、どちらが保有しておくか等で手続きが難儀してしまうこともありえます。
この法定相続分ではなく、例えば家はAさん、預金はBさんといったように、法定相続分以外の割合で分割したいときに、遺産分割協議書を作成することになります。
遺産分割協議書が必要になる具体的なケース
遺産分割協議書が必要になるケースは、遺言書の有無によって変わります。
遺言書がある
相続人全員が遺言書に従わずに分割する
遺言書が存在する場合は、原則として遺言書が優先します。
しかし、相続人全員が遺産分割協議書の内容ではなく、別途協議した内容や割合をもって
合意したときは、遺産分割協議書を作成して相続手続きをすることになります。
遺言執行者がいるときは?
遺言執行者が指定された遺言書の場合、相続人は遺言執行者の同意を得て遺言書以外に従わない割合で遺産分割をすることができます。
遺言に特定の財産を承継した受遺者(相続人ではない人)がいるときは?
この場合、受遺者は遺言によって遺贈を受けた立場です。
受遺者が放棄をしない限り、共同相続人全員が同意したからといってこの遺言の内容を反故にすることはできません。
遺言書に記載のない財産を分割する
遺言書の中でも自筆証書遺言書は、本人が誰にも相談することなく作成することが多く、作成時点で想定していない財産(新しい預金や不動産)や、作成に不備があって書き漏らしをしていることも珍しくありません。
遺言書に記載のない財産は、共同相続人全員が遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成することになります。
遺言書がない
相続人が複数おり、法定相続分以外の割合で分割する
相続人が複数いて、かつ上で説明した法定相続分以外の割合で相続したい場合は、遺産分割協議書を作成することになります。
遺産分割協議書なしでできる手続
預金の一部払い戻し
民法改正により、法定相続人は一定の金額であれば遺産分割協議書がなくても銀行の預金から金銭を受け取ることができるようになりました。
保存行為
相続財産を一定の状態に保つための行為(保存行為)については、相続人全員が協力したり遺産分割協議書を作成しなくても、相続人の一人が行うことができます。
Ex)亡くなった方の隣地のブロック塀がこちらの土地に倒れそうになっているときに、その倒壊を防止するように請求すること
法定相続分での相続
原則どおり法定相続人が法定相続分に従って相続手続きを進める場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続開始前に遺産分割協議することや遺産分割協議書を作成することができる?
遺産分割協議は、相続が確定してからでないと行うことができません。
したがって、被相続人が存命の間に財産を分割する予約として遺産分割協議書を作成しておくことはできません。
仮にそのような書面を作成していたとしても、あくまで参考資料ということになります。
遺産分割協議書の注意点
未成年者がいる場合
18歳未満の未成年者がいる場合、その方は自分自身が意思表示することができても、法定代理人(親や未成年者後見人)が分割協議に参加して遺産分割協議書に署名押印します。
さらに、法定代理人とその未成年の子供がともに相続人になる場合は、法定代理人と子供は利益相反する立場となりますので、家庭裁判所に特別代理人選任の申し立てをすることになります。
後見制度を利用する人がいる場合
補助・保佐
相続人の中に後見制度のうち補助・保佐を利用する人がいる場合、補助人や保佐人の代理権に「遺産分割協議」の文言があれば補助人や保佐人が遺産分割協議に参加し署名押印します。
代理権がなければ、別途代理権付与の申し立てを行うか、原則どおり本人が遺産分割協議に参加することになります。
後見
後見制度のうち後見を利用する人がいる場合、後見人が本人の法定代理人として遺産分割協議に参加し署名押印します。
さらに、未成年者のときと同じように、法定代理人(補助人・保佐人・後見人)と後見制度利用者(被補助人・被保佐人・被後見人)がともに相続人になる場合は、法定代理人と子供は利益相反する立場となりますので、家庭裁判所に特別代理人選任の申し立てをすることになります。
相続放棄者がいる場合
相続放棄者ははじめから相続人ではなかったことになりますので、遺産分割協議に参加することはありません。
債務がある場合
遺産分割協議は相続財産についての協議ですが、財産とはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含みます。
被相続人の債務を特定の相続人のみが相続する場合、遺産分割協議書にその旨を記載することになります。
ただし、債務は本来相続人が法定相続分に従って相続することになっているため、相続人が勝手に債務承継者を指定しても、債権者が同意しない限り債権者に対して効力を主張できません。
相続開始から10年経過
近年の民法改正で、相続発生日から10年を経過した相続については、寄与分や特別受益を主張することができず、原則法定相続分どおりで相続する旨の規定が設けられました。
相続発生日から時間が経過している相続については、より迅速な手続きが求められることになります。
分割の禁止
被相続人が、遺産分割を禁止する遺言書を作成していた場合や、相続人全員が遺産分割を禁ずる合意をしたときは、最大で5年間遺産分割をすることができません。
遺産分割の禁止は、例えば相続人の中に未成年者がいて、5年以内に成年になる場合や、財産調査に時間がかかる場合、相続人間で協議が成立しないので冷却期間をおきたい場合に活用することがあります。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の違いは?
遺産分割協議書とよく似た書面として「遺産分割協議証明書」があります。
どちらも広義の遺産分割協議書です。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の違いは、主に次のようなものです。
相続人全員が1枚の協議書に連名で署名押印している
→遺産分割協議書
相続人が複数いるが、それぞれが各自署名押印する個別の協議書を作成し署名押印している(相続人ABがそれぞれAのみ署名押印の協議書、Bのみ署名押印の協議書を作成)
→遺産分割協議証明書
遺産分割協議書は必ずしも全員が1枚の用紙に署名押印する必要はありません。
相続人2名が遠方に住んでいる場合などに、内容はまったく同じで署名押印欄のみ個別にA、Bの協議書を作成することがあります。
この場合、遺産分割協議(をしてその場で成立し書面を作成した)ではなく、あくまでそれぞれが「私たちはこのような協議が成立していますよ」という証明をすることになりますので、この場合に遺産分割協議証明書と作成することになります。
数次相続のある時点で遺産分割が成立していたことを証明する
→遺産分割協議証明書
相続が何度も発生しているケースでは、遺産分割協議書を被相続人ごとに作成することもありえます。
複数回相続が発生しているある時点の相続の段階で、遺産分割協議が成立していたものの、協議書を作成するまでの間に新たな相続が発生してしまったようなケースでは、遺産分割協議証明書を作成することがあります。
遺産分割協議書は原本を提出したら返ってこない?
遺産分割協議書は預金解約、不動産の相続登記、株式の承継手続きなどで使用しますが、どれも原本を還付する旨を申し出ることで、原本の返却を受けることができます。
一度提出したら返ってこない、というわけではありません。
遺産分割協議書は何枚も作成する?
遺産分割協議書は本来1通あれば相続手続ができますが、相続人が複数いる場合は紛争防止のため相続人の人数分作成してそれぞれの相続人が持つこともあります。
遺産分割協議のやり直し(再度の遺産分割)できる?
一度成立した遺産分割協議に基づいて遺産分割協議書を作成していたとしても、相続人全員が合意すれば新たに遺産分割協議をやり直すことができます。
ただし、既に作成した遺産分割協議書に基づいて相続手続きを終えてしまっていたり、相続した相続人が第三者に権利を譲渡してしまっているときは、新たに協議し直しても主張することができません。
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するメリット
1.複雑な権利関係の整理をしてもらえる
複数回にわたり相続が発生しているケースや、相続人が兄弟姉妹の子供や孫に及ぶケースでは、遺産分割協議書の作成だけでなく、複雑な権利関係を正確に把握し整理する必要があります。
相続に強い専門家であれば、遺産分割協議書の作成と並行して、相続人の権利関係を整理することができますので、協議自体が無効になる心配がありません。
2.法的に正確な財産の記載をしてもらえる
遺産分割協議書の記載方法に様式はないものの、ある程度財産を特定できるような定型の記載方法は存在します。
専門家であれば預金、株式、不動産、自動車、債務など、財産の種類に応じた正確な記載をすることができますので、書き方で悩む心配がなくなります。
3.相続手続き全般を任せられる
遺産分割協議書は、相続手続きを行うために作成します。
相続の専門家であれば、遺産分割協議書の作成だけでなく、相続人の調査、財産の調査、預金の解約など相続手続きを一括して依頼することができます。
4.相続登記をそのまま行ってもらえる
不動産がある場合、遺産分割協議書を作成したあと相続登記をする必要があります。
令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。
相続の専門家の中でも司法書士であれば、遺産分割協議書を作成した後そのまま相続登記をすることができますので、相続登記を放置して過料が課される心配がありません。
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