公正証書遺言書は遺言者の住所、氏名、生年月日を記載することで、遺言書を作成した本人を特定します。
公正証書遺言書を作成したあと、住所や氏名に変更があった場合、遺言書を修正したり、変更する必要があるのでしょうか?
遺言書の修正の必要性や、遺言書の変更の仕方などを解説します。
遺言書を作成したあと住所や氏名に変更があったとき

公正証書遺言書を作成した後で住所や氏名に変更があったとしても、公証役場に保管されている遺言書の情報が自動的に変わることはなく、作成した当時の住所氏名のままです。
しかし、遺言書を作成したあとに住所や氏名が変わったとしても、変更をする必要はありません。
遺言書を作成した当時の住所氏名などが正しければ、その後変更が生じても戸籍や住民票で変更があったことを証明できるため、こちらから変更や修正を行う必要がないのです。
遺言書を作成した後で変わる可能性があるもの

遺言者の住所、氏名、職業
遺言公正証書には、遺言者の住所、氏名、生年月日のほか職業も記載します。
住所の移転、婚姻や離婚による氏名の変更、職業の変更が生じることがあり得ますが、遺言者が遺言書を作成した当時の情報に間違いがなければ、作成し直す必要はなく、そのままで遺言書は有効です。
公正証書遺言書、自筆証書遺言書ともに遺言者の当時の情報に誤りがなければ訂正や修正の必要がありません。
証人の住所、氏名、職業
公正証書遺言書を作成するとき、遺言者の意思確認及び真正な手続きによって遺言書が作成されたことを担保するために、証人2名が立ち会う必要があります。
遺言書を作成するときに立ち会う証人も、遺言者と同様に住所、氏名、生年月日、職業が遺言書に記録され、署名押印をします。
証人の住所、氏名、職業に変更が生じた場合でも、遺言者のときと同じように変更する必要はありません。
また、遺言者よりも先に証人が死亡していたり、遺言者の死亡による相続手続きの際に音信不通になっていても遺言書は全く問題なく有効です。
自筆証書遺言書の場合
自筆証書遺言書の場合、証人が立ち会うことはありませんので、証人についての住所、氏名、職業が記載されることはありません。
遺言書に記載された相続人等の住所や氏名
財産を相続させたい相続人や第三者を遺言書の本文の中で指定する場合、その方の氏名、生年月日を記載し、相続人等の親族である場合は続柄(例えば、遺言者の妻〇〇、遺言者の長男△△の孫◇◇)、第三者である場合は住所を記載します。
遺言書の本文に記載された相続人や第三者の住所、氏名などに変更が生じた場合も、遺言者自身の場合と同じようにわざわざ遺言書を変更する必要はありません。
これは、公正証書遺言書も自筆証書遺言書も同じです。
遺言書を変更、修正すべき場合

遺言書を作成したあとに変更、修正をすべき場合は次のようなケースです。
遺言作成当時の情報に誤りがあった
遺言書を作成した当時の遺言者の住所、相続人や受遺者の情報、遺言書の内容に誤記があった場合は修正や変更が必要です。
公正証書遺言書の場合
公正証書遺言書に記載間違いがあった場合、それが軽微なミスや明らかな誤記であれば、公証役場から「誤記証明書」を発行してもらうことができます。誤記証明書は無料です。
誤記証明書が発行されるケースは、「太郎」を「太朗」と記載した、住所が「101号」のところ「101号室」と記載したなど、軽微または明らかな記載間違いのときです。
対して、公正証書遺言書の重要な内容に間違いがあるときは、部分的な修正や変更をすることができないため、もう一度作成し直すことになります。
例えば、「甲不動産をAに相続させる」と記載すべきところ「甲不動産をBに相続させる」など、遺言書の内容そのものに影響が生じる誤りの場合は、誤記証明書で対応することはできませんので、一から作成し直します。
自筆証書遺言書の場合
自筆証書遺言書に記載間違いがあった場合、修正や変更の方法は2つあります。
自筆証書遺言書を作成し直す
自筆証書遺言書は公正証書遺言書と異なり、紙とペン、印鑑があればいつでも作成でき費用がかかりませんので、既に作成した自筆証書遺言書を破棄して、改めて作成することで実質的な修正や変更が可能です。
修正、変更の方法に従って訂正する
既に完成された自筆証書遺言書の内容を訂正する場合、その訂正方法は法律で厳格に定められています。もし訂正方法が適切でなかったら、訂正されていないものとしてみなされてしまうため、自筆証書遺言書の訂正はかなり慎重に行う必要があります。
自筆証書遺言書の訂正方法

(1)訂正箇所に二重線を引く
(2)二重線を引いた部分に押印する
(3)訂正箇所を示し変更等の旨を付記する(第〇条につき□字削除、△字加入など)
(4)付記した部分に署名する
自筆証書遺言書は公正証書遺言書と異なり気軽に作成できるため、相続人や悪意をもった第三者が偽造する可能性があります。
自筆証書遺言書の偽造を防止するために、訂正方法も上記のような形式で行わなければ無効(訂正がされていない)になります。
公正証書遺言と自筆証書遺言のメリットデメリット

公正証書遺言書と自筆証書遺言書は、変更や訂正の方法も上述のように違いがあり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。
公正証書遺言書と自筆証書遺言書のメリットデメリットを比較します。
各遺言のまとめ
自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書をまとめると、次のようになります。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
遺言作成時の費用 | ◎かからない | ×かかる |
遺言作成時の手間 | ◎かからない | △かかる |
相続開始時の費用 | △かかる | ◎かからない |
相続開始後の手続 | ×かかる(裁判所) | ◎かからない |
紛失・盗難・改ざん | ×リスクあり | ◎なし |
無効のリスク | △やや高い | ◎ほぼない |
相続人の負担 | ×大きい | ○小さい |
自筆証書遺言書は先にかかるお金を減らす代わりに、相続人に後から裁判所で検認という手続をしなければならず、裁判所手続のために時間とお金がかかることになります。
公正証書遺言は先にお金がかかる代わりに、相続人は家庭裁判所での検認手続をせずに済むため、相続人にとっての負担が小さい遺言書作成方法です。
自筆証書、公正証書はどんな人にオススメ?

自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書は、こんな方にオススメです。
オススメの方 | |
---|---|
自筆証書遺言 | 遺言書作成時の費用をとにかく安くしたい 相続人が少ない 内容が極めてシンプル(ex全財産を妻に相続させる) 遺言書の内容を何度も変更する可能性がある |
自筆証書遺言の 法務局保管制度 | 相続人が少ない 内容がシンプルで、変更する可能性が低い 法務局に行って手続するための時間・気力・体力に余裕がある |
公正証書遺言 | 遺言作成に費用がかかっても、相続人の負担を少なくしたい 改ざん・紛失などのリスクを減らしたい 財産を複数の人間に渡したいor渡す条件をつけたい 死亡の順番で相続人に渡す財産が変わる可能性がある 相続人が多い |
遺言書作成を相談できる専門家は

自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書をまとめました。
最後に、遺言書作成を相談できる専門家をご紹介します。
司法書士 | 行政書士 | 弁護士 | 税理士 | |
---|---|---|---|---|
遺言書の作成相談 | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
預貯金の解約 | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
相続登記(不動産の名義変更) | ◎ | × | △ | × |
遺言書作成だけの相談であれば、司法書士、行政書士、弁護士、税理士などに相談できます。
しかし、遺言書の中に不動産が含まれる場合は、司法書士に相談されることをオススメします。
なぜなら、相続登記(不動産の名義変更)は司法書士にしかできないからです。
弁護士も登記申請代理をすることはできますが、登記に精通している弁護士は多くありませんので、司法書士に相談する方が確実です。
相続を専門とする当事務所では、自筆証書遺言書、公正証書遺言書などすべての遺言書作成に対応しており、適切なサポートが可能です。
法律の専門家に事前に相談することで、遺言書が無効になるリスクや、相続が起きた後の税金、手続リスクをしっかり対策し、紛争などを回避することができます。
初回相談無料ご予約はこちらのフォームから。お気軽にご相談ください。