清算型遺贈とは、遺贈の内容に応じた分類のうちの1つです。
清算型遺贈の特徴、注意点などを解説します。
遺贈とは
そもそも遺贈とは、「遺言による贈与」のことで、相続人ではない第三者に対して相続財産を承継させる形の遺言書を遺贈と呼びます。
相続人に対する遺言の場合、「相続させる」という遺言になり、基本的に「遺贈」とは呼びません。
清算型遺贈とは
清算型遺贈とは、遺贈の種類の内の1つで、「相続財産を換価処分し、処分後の金銭を遺贈する」内容の遺贈を指します。
清算型遺贈の記載内容
清算型遺贈の遺言書は「遺言者が死亡時に有する不動産、動産、有価証券、投資信託、その他一切の財産を適宜換価処分し、相続税や公租公課等一切の債務を控除した残金を、〇〇に遺贈する」といった内容になることが一般的です。
清算型遺贈を利用する場面
不動産や株式など保有にコスト、手間がかかる財産が多い
不動産や株式などはそのまま承継させることができますが、不動産の管理は固定資産税や管理費、修繕費などのコストがかかります。
また、株式は承継する際に証券会社の口座を開設しなければならない点、常に価値が上下しているため、相続時の価格から大きく下落してしまう点で、株式投資に不慣れな方は保有すること自体をためらう場合があります。
このように管理にコストや労力がかかる財産が多いケースでは、清算型遺贈を用いれば財産をすべて金銭に換えてから承継させるため、財産を渡す側ももらう側も負担が少なくなります。
分かりやすく金銭を分配したい
不動産や株式は市場価格が常に変動しているため、複数の相続人に対してなるべく不公平がないように財産を承継させたい場合に、その価格の判断が難しい財産です。
さらに、遺言書を作成した当時から価格が大きく上昇、または下落していることがあり、公平に財産を分配したつもりが、不動産や株式を取得する相続人のみが大きく得をする、損をする可能性があります。
このように複数の相続人に対してなるべく公平に財産を分配させたいケースでは、清算型遺贈を用いることで、相続開始時の価格を基準に不動産や株式を換価し、金銭を公平に分配させることができます。
NPOなどに寄付したい
市区町村、NPO法人や慈善事業に寄付をするケースでは、清算型遺贈が多く用いられます。
生前にする寄付と異なり、死亡時に行う寄付は「遺贈=相続人ではない第三者に対する贈与」として扱われます。
寄付というと、善意なのだから何でも好きに渡すことができ、タダでもらえるのだから何でも受け取ってくれると思われるかもしれませんが、そうではありません。
市区町村等の公的機関やNPOなどの団体は「管理が複雑」「コストがかかる」「リスクがある」財産の受け取りに非常に難色を示します。
不動産は管理コストがかかる上に、土地家屋の状態によっては近隣とのトラブルになるリスクがあります。
不動産がすぐに有効活用できるようなものでない限り、せっかく寄付をしても受け取ってくれないこともあります。
そのため、寄付をするケースではまず相続財産をすべて金銭に換えて、金銭を受け取ってもらう形式の清算型遺贈が活用されます。
清算型遺贈は誰が金銭に換える?
清算型遺贈は、財産を特定の人が受け取る前提として「金銭に換価する」必要があります。
その換価処分は「遺言執行者」が行います。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実現するために相続手続を行う人のことを指し、相続人全員の代理人という立場になります。
遺言執行者は未成年者と破産者以外であれば誰でもなることができます。
最終的に財産を取得する人自身が遺言執行者になることができますし、司法書士や弁護士などの相続に強い法律専門職に依頼することもできます。
遺言執行者は誰がどうやって決める?
遺言執行者は遺言書を作成する人が直接遺言書に氏名を記載する方法のほか、遺言執行者の指定方法を記載することで決めておくことができます。
遺言執行者が書かれていない遺言書の場合は、相続人や利害関係人が遺言者の死後に遺言執行者の選任を家庭裁判所に申し立てることができます。
換価した財産(金銭)はどこでどうやって保管する?
清算型遺贈により換価した金銭は、通常は遺言執行者名義の口座に集約し、その後遺言書に従って金銭を分配します。
遺言執行者が司法書士や弁護士などの専門家である場合は、遺言執行専用の「預かり金口座」を作成し、預金の解約金、不動産の売却代金、株式の売却代金、投資信託の解約金などを集約していきます。
遺言執行者が専門家ではない場合は、遺言執行者自身のプライベートなお金と遺言執行によるお金が混同しないように、新しい口座を開設するか、まったく利用していない残高0円の口座を利用することが推奨されます。
不動産の換価処分方法
不動産を換価処分するには、大きく分けて「相続登記」と「売却処分」の2つのステップを要します。
(1)相続登記
不動産は、死者の名義のまま他人に売却することはできないため、まずは相続登記により名義を現在の相続人名義にする必要があります。
清算型遺贈による換価処分の過程では、まず被相続人(遺言者)から法定相続分での相続登記をすることになります。
この相続登記は、遺言執行者が遺言執行業務の一環として単独で申請することができます。
法定相続分による相続登記が完了すると、相続人名義で権利書(今は登記識別情報と言います)が発行されます。
(2)相続人名義から他人への売却処分
法定相続分による相続登記が完了したあと、第三者に対して不動産を売却します。
買主と売買契約を締結したあと、買主から売買代金を受け取り、代わりに権利書や印鑑証明書などの不動産名義変更(所有権移転登記)に必要な書類を買主側の司法書士に交付するか、一緒に申請します。
ちなみに、この時不動産登記記録上の所有者は法定相続人になっており、所有権移転登記の際の権利書は相続人名義の権利書(登記識別情報)を使用しますが、押印書類への署名押印は遺言執行者が遺言執行者の氏名で行い、かつ遺言執行者の印鑑証明書を添付します。
(3)譲渡所得税の申告
不動産を取得したときよりも売却したときの方が価値が高い、もしくは購入時と売却時の価値が変わらない場合は、不動産の売却によって経済的利益を受けていると扱われ、譲渡所得税が発生します。
相続によって不動産を取得した場合は、亡くなった方(被相続人)が売買などで取得した当時の価格を参考にしますので、当時の売買契約書や諸経費の領収書が重要な証拠になります。
万が一当時の書類が見つからない場合は、売却代金のほぼすべてが利益とみなされ、強制的に譲渡所得税が課税されてしまいます。
譲渡所得税の申告が必要な場合は、売却した翌年の2月~3月ごろに申告と納税をします。
この申告納税手続きは遺言執行者が行います。
清算型遺贈の注意点
遺言執行者を選任
清算型遺贈は不動産や株式を金銭に換価し、金銭を相続人などに承継させる遺言です。
その換価手続きのためには遺言執行者の選任が不可欠です。
遺言による相続手続きは役所で戸籍を集める、法務局に申請をする、証券会社や金融機関で解約手続きをする、税務署に申告するなど日中にしか開いていない機関で様々な手続を同時並行で行わなければならず、不慣れな方には非常に大きな負担となります。
できれば遺言書に基づいて適切かつ迅速に手続きを行える司法書士や弁護士などの遺言執行者を予め指定しておくことが望ましいでしょう。
換価処分のタイミング
不動産や株式は常に価格が変動するため、換価処分する時期によってはタイミングが悪く価値が下がっている可能性があります。
遺言執行者が時期を見て売却するようにするか、もしくは処分するタイミングがたまたま悪く損失が生じても遺言執行者の責任を免除する旨を遺言書に記載しましょう。
寄付の場合は事前に相談
清算型遺贈のような金銭のみの寄付の場合は、受け取ってくれないことはあまり考えられませんが、遺言する人に本来の相続人がいて、その相続人と遺贈を受ける公的機関や団体がトラブルになってしまう可能性は0ではないため、できれば寄付を検討している団体に事前に相談することが推奨されます。
譲渡所得税など税金がかかる可能性がある
不動産や株式を換価処分する際に、取得時の価格よりも価値が上昇しているケースでは譲渡所得税などの税金が発生します。
そのほか、株式の場合は特定預かりではなく一般預かり扱いになるため、別途納税の必要性が生じます。
清算型遺贈によっては税金が生じる可能性や、税額などを考えるようにしましょう。
遺言書作成を司法書士に依頼するメリット
公証役場との打合せを任せられる
専門家に公正証書遺言の作成を依頼すれば、専門家が公証役場との連絡や打合せまですべて行いますので、遺言者の負担を減らすことができます。
法的に有効な遺言書を専門用語を使用して作成してもらえる
どんな遺言書を作成したいか伝えるだけで、専門用語を使用した法律的に有効な遺言書案を作成してもらえます。
二次相続、遺留分、相続関係など今後の法的リスクも相談できる
遺言書を残すことで相続人同士の相続関係や二次相続、遺留分にどのような影響があるかまで、将来のことを見据えた専門的なアドバイスを受けることができます。
税金対策に着手できる
相続税がなるべくかからないように、税理士などの専門家と協力して有益な税金対策に着手できます。
相続の専門家である当事務所なら、公正証書遺言書の作成について、適格に法的なアドバイスができます。また、税金の問題点については税理士とともにアドバイスできますので、安心してご相談ください。
遺言執行者を任せられる
遺言書作成のご相談だけでなく、そのまま遺言書の保管、遺言執行者としての指定を受けることができます。
遺言執行者に指定していただくことで、実際に相続が起きた際にスムーズな相続手続きが可能となります。