相続した財産を期限内に受け取るために、相続手続きについて、正しく理解していくことが重要です。
本記事では、遺産相続手続きの全体スケジュールから、相続人の調査・確認、相続財産の調査、遺産分割協議、単純承認・相続放棄・限定承認の選択、相続税の申告など、期限付で解説します。
本記事を読めば、遺産相続手続きをスムーズに行うことができるでしょう。
ぜひ、本記事を参考にして、期限内に相続した財産を受け取るためのステップを踏みましょう。
遺産相続手続きの全体スケジュール
遺産相続手続きの流れと期限
役所等の手続
1.死亡届と火葬許可
亡くなられた後に必ず、早急にするものが死亡届けの提出と火葬許可の取得です。
一般的には、必要事項を記載すれば故人をお迎えに行く葬儀会社が役所にて手続をしてくれることが多いかと思います。
2.年金の停止など各種届出は14日を目処に
年金の停止を初めとする各種手続は、亡くなられてから10~14日以内に手続をしないといけないことが多いです。
神戸市の場合は役所に「お悔やみコーナー」という窓口があり、該当する手続を一括で案内してもらえるため、漏れの心配がありません。
3.未支給年金などもらえるものは2年以内に
公的年金、各種保険に加入していた方の場合、最後の1~2か月分の未支給年金が受け取れます。また、喪主を行った方は一定の葬祭費を支給してもらえるため、忘れずに請求しましょう。
場合によっては生活をともにしていたことの証明などがいるため、役所に行った際にすぐ手続できない場合もありますが、亡くなった日から2年間以内であれば請求が可能です。
4.相続手続で役所から受け取れるお金
年金加入者は、未支給年金1~2か月分
国民健康保険など保険加入者は、葬祭費
医療費が高額だった場合は、高額療養費の払い戻し
介護サービスが高額だった場合は、高額介護サービス費の払い戻し
一般的には、上に記載したものを受け取れる方が多いかと思います。
そのほか、遺族年金、死亡一時金、労災保険の遺族年金などを受け取れる可能性があります。
神戸市ではお悔やみコーナーで手続をする際に、該当する払い戻しの案内をうけることができますが、そうでない場合は役所で請求書を受け取り、早めに手続きしましょう。
役所以外の相続事務手続
施設、病院などの費用の清算
公共料金の停止(支払い口座の変更)と清算
クレジットカードの解約、清算
その他定期的な支出をしているものの解約(習い事、定期便)
墓地管理料や貸金庫の引落し口座変更
生命保険金の請求
遺品整理
賃貸住宅なら賃貸契約の解約と引渡し
携帯電話の解約
ネット、プロバイダ、新聞などの解約
NHKの解約
火災保険などの解約
固定資産税の支払い、引き落とし口座の変更
車の名義変更
遺言書を発見したら
遺言があるかないかによって相続の形は大きく変わります。そのため、遺言の有無の確認は必須です。
公正証書遺言に関しては、「遺言検索システム」という便利な仕組みがあります。
例)遺言検索 – 神戸公証センター
http://kobe-koushou-center.jp/igonkensaku.html
民法は、遺言書の保管者や遺言書を発見した相続人は、相続開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないと定めています。
また、その遺言書に封印がある場合は、家庭裁判所で、相続人の立会いのもとで開封しなければならないことも定められています。
例外として、遺言が公正証書遺言または法務局で保管されている自筆証書遺言であれば検認は不要です。
相続人の調査・確認
遺産分割を行うために相続人の調査が重要です。
相続人の調査を行わず、自分の親族だけだと思い込み、親族間で相続に関する協議を行いがちです。
しかし、この思い込みは、他の相続人が判明した場合に、複雑な事態を招くことがあります。
遺産分割協議を行う前に、相続人調査を行い、相続人が誰であるかを確認しましょう。
具体的には、相続人を確定させるために次の戸籍を取得します。
亡くなった方:出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、原戸籍と死亡時の住所がわかる住民票の除票または戸籍附票
相続人:現在の戸籍と住民票または戸籍附票
仮に亡くなった方の相続人のうち、死亡した方がいる場合は、その方の出生~死亡までの戸籍を取得しなければいけないこともあります。
相続が複数回発生すると、取得する戸籍が膨大になるだけでなく、権利関係も複雑になり、相続手続が長期化、紛争化する可能性が高くなります。
相続財産の調査
相続が開始した場合、相続人はすべての財産を相続(単純承認)、すべての財産を放棄(相続放棄)、あるいはプラス財産の範囲内でマイナス財産も相続(限定承認)の相続方法を選択する必要があります。
相続財産調査を行わないと、正しい選択が難しく、手続きを進めることができません。
遺言がなく、相続人が複数いて財産を受け継ぐ場合は、一般的に相続人全員で遺産の分割について話し合う遺産分割協議を行うことになります。その際も、協議後に新たな財産が判明するなど、後でトラブルにならないように注意が必要です。
遺産分割は、預貯金や土地などの積極財産であるとされており、負債は相続放棄などをしない限り、債権者の同意がなければ原則として相続分に応じて分割されます。
相続放棄手続きをせず単に遺産分割協議をしただけだと意図せぬ借金を負うことがありますので、注意が必要です。
プラスの財産となるものの具体例
土地・土地の上に存在する権利
土地としては、宅地、農地、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地、雑種地等です。土地の上の権利としては、借地権、借家権、定期借地権、地上権などです。
家屋・設備・構築物
戸建住宅、共同住宅、マンション、店舗、工場、貸家、駐車場、庭園設備等の付属設備などです。
預貯金・現金・貸金庫の中にある財産
預貯金には、被相続人名義の預貯金だけでなく、いわゆる名義預金(第三者の名義ではあるが、実質的には被相続人に帰属するもの)も該当することがあります。
具体的には、祖父が孫名義で通帳を作り、その通帳に多額の財産を入れている場合などです。
株式
証券会社が管理する上場株式、投資信託が該当します。
また、自営業で法人成りしている方は自社の株式や合同会社の出資持分も財産です。
有価証券
国債、地方債、社債、上場株式、非上場株式、受益証券(貸付信託、証券投資信託、不動産投資信託、抵当証券)などが該当します。証券会社、銀行、商工中金、労働金庫、農林中金、信託銀行、信託金庫、信用組合、ゆうちょ銀行、生命保険会社、損害保険会社などで取扱されています。
債権
貸付金債権や、税金の還付金債権、未収報酬債権、損害賠償請求権、慰謝料請求権、株式の未受領配当金請求権などです。
知的財産権
たとえば、著作権、所有権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)です。
事業用財産
機械器具、棚卸資産(商品、製品、原材料)、売掛債権などは、相続財産となります。
家庭用財産
自動車、貴金属、骨董品などがあげられます。
その他
ゴルフ会員権、占有権、形成権などです。
マイナスの財産となるものの具体例
借入金
住宅ローン残高債務、自動車ローンなどの割賦契約月割賦金、クレジット残債務などです。
未払金
土地や建物の賃借料や水道光熱費、通信費、管理費、リース料、医療費などです。
敷金・保証金・預り金・買掛金・前受金
第三者に土地を貸している場合は、預かっている敷金や預り保証金、建築協力金などがあり、事業の買掛金、前受金などです。
保証債務、連帯債務
通常の保証債務は相続されます。被相続人が連帯保証人になっているケースはよくあるのでご注意ください。法人の連帯保証など注意深く確認しましょう。
公租公課
所得税、消費税、住民税、固定資産税、土地計画税、相続税、贈与税、国民健康保険料です。
単純承認・相続放棄・限定承認の選択
遺産の全てを引き継ぐ「単純承認」
単純承認とは、相続方法の1つで、借金などのマイナスの財産も含めて相続財産を全て承継する方法です。 単純承認は原則的な相続方法になり、限定承認や相続放棄をしない場合には、単純承認をする扱いになります。
プラス財産の範囲に限りマイナス財産を引き継ぐ「限定承認」
限定承認は、相続した財産で負債を返済できる、住居などの重要な財産を残せるなどのメリットがありますが、共同相続人全員の合意で家庭裁判所の手続をしなければならず、裁判手続きが煩雑などのデメリットもあります。この項目では、限定承認のメリットとデメリットを詳しくまとめました。
【メリット1】
相続財産を超える債務は相続しなくてよい
限定承認を選択すると、相続財産を上回る債務は返済する必要がなくなります。
財産や借金の詳細が不明なときは、限定承認を選ぶことでリスク回避できます。思いもよらない借金を引き継がずにすみます。
【メリット2】
「先買権」を使って自宅を残すことができる
相続人が先祖代々の住居の不動産を守る必要がある際、マイナスの財産が多いけど残しておきたいなどの希望がある場合「先買権」を使って自宅を残すことができます。
鑑定人が出した不動産評価額よりも高い金額で購入できるのであれば、競売を止めて相続財産を取得できます。
【メリット3】
後日プラスの財産が発見された場合でもその財産を相続できる
相続放棄を選択した場合は、「はじめから相続人ではなかった」と見なされるため相続はできません。対して、限定承認であれば、相続人に該当するため、プラスの財産を相続することができます。
【デメリット1】
共同相続人全員の同意がいる
相続人が複数人いる場合は、共同相続人の全員が同意したときのみ限定承認を選択できます。
【デメリット2】
手続きが複雑
限定承認では、相続財産の清算が必要です。清算までには公告や競売など、多くの法的な手続きを取る必要があり煩雑になります。
手続きの複雑さの為、限定承認はあまり利用されていません。
【デメリット3】
譲渡益の準確定申告が必要になる
資産を譲渡することで生じる「譲渡益」に対し、みなし譲渡所得として所得税が課税されます。
相続人は相続開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告が必要になります。
限定承認を選択すべき場合
限定承認を選択したほうが良いケースは、家業や土地など、引き継がなくてはいけない財産がある場合になります。
一切の財産を受け取らない相続放棄
相続放棄とは、被相続人の財産に対する相続権の一切を放棄することです。
放棄の対象となるのは被相続人のすべての財産であり、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産も含まれます。
相続税の申告
相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地の税務署に申告して納税します。
課税対象となる相続財産額
課税対象になるのは、現金・預貯金、株式、債券等の有価証券、土地・建物等の不動産、書画骨董等亡くなった人が所有していた財産です。 これに加えて、亡くなったことによって入ってくる死亡保険金や死亡退職金等の「みなし相続財産」、相続開始前の一定期間内に贈与された財産や相続時精算課税制度を適用して贈与された財産も課税対象となります。
仮に債務がある場合は、上述の財産から債務を控除した残額が課税対象となります。
相続税の特例
相続税には、納税猶予の特例(農地等納税猶予制度)、小規模宅地等の特例などの例外規定があります。後者は、相続税が払えないために住居を失うことを防ぐため、一定の要件を満たせば、被相続人から取得した土地を最大80%割り引いてくれる制度です。
それでは詳しくみていきましょう。(税法上の一般論をご説明します。)
相続税で利用できる主な特例2つ
1.小規模宅地等の特例
2.納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)
納税猶予の特例
1.小規模宅地等の特例
相続財産には金銭だけでなく、土地や建物なども含まれます。土地を相続するときには「小規模宅地等の特例」という仕組みを利用できます。亡くなった人が住んでいた土地、事業をしていた土地、貸していた土地について、一定の要件を満たす人が相続したときに土地の評価額を最大80%減額できる仕組みのことです。
なぜこのような特例があるかというと、土地を相続したことで相続税を払えずに、住む場所がなくなってしまうことを防ぐ目的があるからです。
特例が適用される条件は、土地の用途によって3種類に分かれています。
①特定居住用宅地等
亡くなった人または亡くなった人と生計を一にする親族が住んでいた土地のことです。
土地の面積330㎡までの部分について、評価額が80%減額されます。
②特定事業用宅地等
特定事業用宅地等とは、亡くなった人やその生計一親族が事業を行っていた土地のことです。
土地の面積400㎡までについて、80%減額されます。
③貸付事業用宅地等
貸付事業用宅地等とは、亡くなった人やその生計一親族が貸している土地のことです。
土地の面積200㎡までについて、50%減額されます。
亡くなった人と同居していなかった親族が相続した場合でも、小規模宅地等の特例が適用される仕組みがあります。これを「家なき子特例」といいます。
亡くなった人に配偶者及び同居親族(相続人)がいないこと
相続する人は、相続開始前3年以内に自己または配偶者、3親等内の親族または相続する人と特別な関係がある法人の持ち家に住んだことがないこと
相続した土地を相続税の申告期限まで所有していること
相続開始時に住んでいる家を過去に一度でも所有したことがないこと
2.農地等の納税猶予の特例
納税のために農地を処分してしまうと農業後継者がいなくなり、日本の農業の衰退につながってしまう恐れもあります。
「農家を継ぐ方」に限り、農地を相続した際に相続税の支払いを先延ばし(もしくは免税)できる「納税猶予の特例」です。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きです。 亡くなった被相続人(以下「被相続人」)の遺産は、遺言がない限り相続人全員の共有となります(民法898条)。 共有状態の遺産の分け方を話し合うのが遺産分割協議です。
相続手続において、遺産分割協議によって法定相続分以外の相続の内容を決めたことを証明するためには「遺産分割協議書」が必要です。全員が合意したことを示すために、遺産分割協議書にそれぞれ相続人全員が署名をし、実印を押します。さらに「印鑑証明書」も添えます。
相続人に未成年者がいる場合は裁判所で特別代理人を選任しなければならず、認知症の方がいる場合は裁判所で成年後見人を選任してからでないと遺産分割協議をすることができません。
相続手続
遺産分割や遺言書などで相続人と相続財産が確定したら、実際に相続手続をします。
預貯金であれば金融機関、株式であれば証券会社、不動産であれば法務局で手続をします。
その際、必要になる書類が次のような書類です。
亡くなった方:出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、原戸籍と死亡時の住所がわかる住民票の除票または戸籍附票
相続人:現在の戸籍と住民票または戸籍附票
遺産分割協議書と印鑑証明書
遺言書がある場合は遺言書の原本(自筆証書の場合は検認済み証明書付)
各手続で書類の原本を提出しますが、原本還付を希望すれば戻ってきますので、各手続の際には必ず原本を還付してもらうようにしましょう。
相続登記を専門家に任せるメリット
1.時間と手間を省略できる
司法書士にご依頼いただければ、相続人調査(戸籍集め)、財産調査(不動産の情報や評価証明書の取得)、遺産分割協議書の作成(相続人の協議結果を書面として作成)、相続登記(法務局への書類提出)をすべて行いますので、相続人が平日に役所や法務局に相談に行ったり書類を集める負担が大きく減ります。
2.将来の相続に関する相談や対策を同時に行える
相続することで変化する今後の法律関係、遺留分や二次相続の注意点など、今回の相続手続だけでなく将来のことを見据えた法律相談を同時に行うことができます。
3.不動産売却や税金申告をまとめて相談できる
相続する不動産を売却したい、相続税の申告をしたい場合など、不動産業者や税理士に相談する内容は、専門家が信頼する各分野のプロを紹介しますので、まとめて相談することができます。