遺言書には自筆証書遺言書と公正証書遺言書があり、作成する方法によって要件や費用が異なります。
遺言書の一種である公正証書遺言書の作成要件、遺言書作成にかかる費用、メリットデメリットや遺言書を作成する上での注意点をご説明します。
公正証書遺言書とは
遺言書とは、遺言者が亡くなったとき、誰が何を相続するのか指定した法的な書面です。
遺言書には作成する方法によっていくつかの種類がありますが、その中で「公正証書遺言書」は、公証役場で自身が実現したい遺言の内容を公証人に対して口授(口頭で説明)し、公証人が口授に基づいて作成した書面に署名押印することで成立します。
公正証書遺言書を作成できるのは何歳から?
通常の法律行為は18歳以上の成人でなければ単独で行うことができないとされていますが、公正証書や自筆証書などの遺言書に関しては、15歳以上で遺言能力のある方なら作成することができるとされています。
①15歳以上であること
未成年者は知識、経験などの面で自己に不利な判断をしてしまうリスクがあるため、単独で有効な法律行為をすることができないと規定されており、法律行為をするためには親権者の同意や、親権者などの法定代理人による代理の必要があります。
しかし、遺言書に関しては15歳以上であれば親の同意なく遺言書を作成することができると規定されています。
遺言書作成は遺言者が「自己の財産を誰にあげるのか」という意思表示をすることで完結する行為であり、売買契約のように第三者と利害が対立する構造の行為ではないため、成人ではなくても15歳以上であれば遺言書の作成を認めることになっています。
②遺言能力がある
法律上、能力と呼ばれるものは権利能力、意思能力、遺言能力、行為能力などがありますが、その中で遺言能力とは、「遺言の内容によってもたらされる効果を認識できる程度の判断能力」とされています。
「意思能力」とは物の善悪が判断できる能力のことで、「行為能力」とは自己が契約当事者となり、法律行為をする能力を指します。
遺言能力は意思能力と行為能力の間ぐらいの能力と考えられていますので、「物事の善悪を判断できる以上に、遺言書を作成することでどんな結果になるか予測、認識することができる程度の能力」があれば遺言書を作成することができると解されています。
公正証書遺言書の作成方法、作成手順は?
公正証書遺言書は、遺言者が公証役場で証人2名立会のもと公証人に対して内容を口授(口頭で説明)し、公証人が作成した遺言書に、遺言者及び証人2名が署名押印して作成することで成立します。
①公証役場
公証役場は全国にあり、住民票の住所地の最寄りだけでなく、どこでも利用することができます。
②証人2名の立ち会い
公正証書遺言書の作成には証人2名の立会が必要とされています。
証人とは、その名のとおり遺言者が遺言書を作成する際に立ち会う人のことで、利害関係のない第三者が立ち会うことで、遺言者自身が間違いなく自分の意思で遺言書の内容を決定し、作成を依頼したことを裏付けるための重要な役割を担います。
利害関係のない人が証人になることができるため、遺言書に関連して利害のある人、例えば相続人、財産の受遺者などは証人として立ち会うことができません。
③遺言書の内容を公証人に口授
口授とは、遺言の内容を話すことを意味します。
公証人がその内容を遺言書として書面にし、公証役場の公証人が遺言者の口授する遺言書の内容を書面にします。
法律の建前は遺言者が公証人に口授したあと、公証人が内容を書面化することが想定されていますが、実際は事前に遺言者(あるいは司法書士や弁護士などの遺言書作成補助者)と公証人がやり取りを行い、遺言の内容を確定させ、公証人があらかじめ用意した遺言書案と相違ないかをチェックする形式が多いです。
遺言の口授ができない場合は?
遺言者が何らかの事情により口授できない場合、口授と同程度の確認方法(筆談)でも問題ないとされています。
④遺言者及び証人が署名押印する
公証人が作成した遺言書の原本に、本人と証人2名が署名し押印することで公正証書遺言書が完成します。
遺言者本人の手が震えるなど、署名が難しい場合は署名に代えて記名で対応することができます。
認知症でも公正証書遺言書を作成できる?
認知症などにより判断能力が低下している状態の人が遺言書を作成できるのかについて、認知症の程度によっては公正証書で遺言書を作成することができますが、注意が必要です。
前述したように、遺言書は「遺言能力」がある人が作成することができるのですが、遺言能力は判断能力(自分で契約の内容や法律効果を理解し、法律行為を行う能力)より少し低い程度の能力と解されています。
そして、認知症などにより判断能力が低下している方は、法律上判断能力がないことを意味しますので、場合によっては遺言能力についても認められない可能性があります。
遺言能力のない状態の方が遺言書を作成しても無効です。
判断能力が低下した方で成年後見制度を利用している場合で、被後見人と分類された方は判断能力がないと考えられ、判断能力が回復しない限り遺言書を作成することができないとされています。
一定程度の判断能力があると判断された方(被保佐人、被補助人)は、個々のケースによって遺言書を作成できることがありますが、先ほど述べたように本当に遺言能力があるのか、周囲の発言に誘導されていないか、自分の意思で遺言を作成しようとしているのか等、慎重な対応が求められます。
一方で、認知症と診断されておらず、単に少し物忘れが出てきた程度や、精神的な障害でない方(身体的な障害)は公証人にさえ遺言書の内容を説明できれば公正証書遺言書を作成することができます。
加齢による物忘れと認知症による物忘れの判断は医師であっても難しく、安易に素人が判断して遺言書作成を進めていくことは将来の相続トラブルに繋がりかねず、非常にリスクの大きな行為です。
認知症になった方の遺言書作成は判断が非常に難しい問題ですが、迷った場合は早急に司法書士や弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。
公正証書作成遺言書作成の流れ
- 公証役場に予約をする
- 公証人に遺言の内容(案)を伝える
- 公証人に必要な資料を提出する
- 公証人が公正証書遺言書案を作成する
- 公証役場に行く日程の調整をする
- 当日、公証役場で公正証書遺言書を作成して公証人に手数料を払う。
公証役場に行くことができない方は、公証役場で作成する場合と比べて手数料が1.5倍になるものの、公証人が自宅・施設・入院先の病院などに出張することが可能です。
公正証書遺言書作成に必要な書類
公正証書遺言書作成に関して必要な書類は、主に「本人特定資料」と「相続財産特定資料」の2種類です。
1.本人確認資料
公正証書遺言に実印で押印できるなら、印鑑証明書が本人確認資料になります。
実印登録がない、実印を押したくない等の場合は、顔写真付きの身分証(免許証・マイナンバーカード・パスポート)が本人確認資料となります。
2.相続関係や住所氏名を証明する資料
遺言書で財産を取得してもらう相手を特定し記載することになりますが、この特定に誤りがあると遺言書がまったく無意味なものになってしまうことがありますので、誤記は許されません。
そのため、財産を相続させたい相続人や第三者の住所・氏名・生年月日の情報は、より正確な情報を要するとして戸籍や住民票の提出を求められることがあります。
3.相続財産を確認できる資料
すべての財産を1人の方に相続させる場合でも、相続財産に関する資料は必要です。
相続財産を受け取る方は、遺言者が具体的にどんな財産を残しているのか詳細を知らないこともあります。
また、遺言書作成時には公証役場に手数料を支払うことになりますが、この費用は相続財産額によって変動するため、その資料として提出を求められることがあります。
相続財産のわかる資料とは、具体的には次のような書類です。
不動産-評価証明書や納税通知書
預金-通帳コピーや残高証明書
株式-証券会社の保有明細書、年間取引報告書など
保険-保険証券
車-車検証など
公正証書遺言書のメリット・デメリット
公正証書遺言書のメリット
1.本人が亡くなった直後から、すぐに金融機関や不動産の名義変更ができる
自筆証書遺言書と異なり、公正証書遺言書は、作成時点で本人確認や本人作成の遺言書であることが担保されているため、本人の死亡直後から効力を発揮します。
自筆証書遺言書の場合は家庭裁判所で「検認」と呼ばれる手続を踏まなければ相続手続に使用することができません。
2.相続人全員が協力・関与する必要がない
公正証書遺言書は、家庭裁判所で検認をしなければ手続に着手できない自筆証書遺言書はと違い本人の死亡後すぐに効力を発揮するので、相続人全員が家庭裁判所に行くことはありません。
3.本人死亡後の裁判所費用がかからない
自筆証書遺言書と違い本人の死亡後に裁判所で検認をする必要がないため、裁判所手続費用や専門家への依頼費用がかかりません。
4.遺言が無効になる可能性が低い
作成時点で証人立会のもと本人確認をしているため、無効になる可能性がほぼありません。
5.再発行できる
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、全国公証役場のデータ上で管理されます。
万が一紛失しても、遺言書の検索や再発行が可能です。
6.改ざんの恐れがない
作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、相続人が書き換えたり一部を破棄するリスクがありません。
公正証書遺言書のデメリット
1.遺言書の作成時点で、お金がかかる
自筆証書遺言書と異なり公証役場に手数料を払うため、お金がかかります。
2.作成までに時間がかかる
すぐに書いて作成できる自筆証書遺言書と違い、公証役場で打合せをした上で作成するため、数週間程度時間がかかります。
3.平日の日中に時間を取られる
基本的には公証役場に行って公正証書遺言書を作成します。
公証役場は平日しか空いていないので、平日に1時間程度時間を取られます。
公正証書遺言書の費用
公正証書遺言作成には公証人に手数料を支払う必要がありますが、公証人の手数料は法律で一律に定められています。
目的の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万7000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 2万3000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 2万9000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 4万3000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に5000万円毎に1万3000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に5000万円毎に1万1000円を加算 |
10億円以上 | 24万9000円に5000万円毎に8000円を加算 |
- 遺言加算
財産額が1億円までは,基本手数料に1万1000円を加算。 - 枚数による加算
証書の枚数が4枚を超えたときは,超えた枚数1枚ごとに250円を加算。 - 正本・謄本の交付手数料
正本・謄本の枚数1枚ごとに250円×枚数 - 出張して作成した場合の加算等
- 病床執務加算 基本手数料の10分の5を加算。
- 日 当 往復に要する時間が4時間までは1万円、4時間を超えると2万円
- 交通費 実費
以上神戸公証センターからの抜粋。
公正証書遺言書と自筆証書遺言どちらが良い?
ご自身の出費を抑えたいなら自筆証書遺言書
遺言書作成のお金を抑えたいなら自筆証書遺言書がお得です。
紙、ペン、ハンコさえあればほぼ0円で作成できます。
確実な遺言書を作成したいなら公正証書遺言書
確実に有効な遺言書を作成したいなら公正証書遺言書がオススメです。
自筆証書遺言書と違い、紛失改ざん無効のリスクがほぼありません。
公正証書遺言書は裁判所の検認がいらない?
作成時点で本人確認や本人作成の遺言書であることが担保されているため、本人の死亡後に裁判所で検認をする必要がありません。
対して、自筆証書遺言書は、残された相続人が、遺言書の検認(使えるようにする)手続の段階で、費用を負担します。
家庭裁判所は平日しか空いていないので、相続人が平日に裁判所に行かなければなりません。
公正証書遺言書の方が、残された相続人に費用の負担を強いることなく、さらに裁判所に行かせる手間も省くことができる点で、自筆証書遺言書よりも相続人への負担が少ない遺言書です。
公正証書遺言書をオススメする理由
公正証書遺言書は残された相続人の金銭的な負担が減り、平日の日中に裁判所に行かずとも手続できるので身体的精神的な負担が減ります。
さらに、せっかく作成した遺言書を紛失、改ざんする心配がなく、無効になることもほぼありませんので、遺言者本人だけでなく相続人たちへの安心に繋がります。
これらのことから、当事務所では公正証書での遺言書作成をオススメしています。
公正証書遺言書の注意点
変更や撤回、作成し直すときに注意
一度作成した公正証書遺言を自筆証書遺言で変更や撤回すると、自筆証書遺言で有利な内容になった相続人が意図的に誘導して作り直させたなどの疑いを持たれることがありますので、公正証書で変更撤回を行うことが一般的です。
その際、再度公証人に費用を支払う必要があります。
相続人の遺留分に注意
公正証書遺言書は作成時点で公証人が関与するため、要式不備で無効になることはありませんが、
遺言書を発見した相続人同士がどのような関係になるか、遺留分がどうなるかまでは考慮してもらえません。
将来の税金、法的トラブルなどのリスクを考えるならば、公証役場に行く前に、専門家に依頼することが大切です。
内容が本当に実現したいことと一致しているか
二次相続や、遺言書に記載のある方が万が一遺言者よりも先に死亡した場合など不測の事態に陥ったときに、遺言者の希望しない法律関係や相続人がでてくることがあります。
公正証書遺言書は簡単に作成し直すことができませんんおで、将来の不測の事態にも対応できるような内容になっているか確認する必要があります。
公正証書遺言書の作成を専門家に相談するメリット
公証役場との打合せを任せられる
専門家に公正証書遺言の作成を依頼すれば、専門家が公証役場との連絡や打合せまですべて行いますので、遺言者の負担を減らすことができます。
法的に有効な遺言書を専門用語を使用して作成してもらえる
どんな遺言書を作成したいか伝えるだけで、専門用語を使用した法律的に有効な遺言書案を作成してもらえます。
二次相続、遺留分、相続関係など今後の法的リスクも相談できる
遺言書を残すことで相続人同士の相続関係や二次相続、遺留分にどのような影響があるかまで、将来のことを見据えた専門的なアドバイスを受けることができます。
税金対策に着手できる
相続税がなるべくかからないように、税理士などの専門家と協力して有益な税金対策
に着手できます。
相続の専門家である当事務所なら、公正証書遺言書の作成について、適格に法的なアドバイスができます。また、税金の問題点については税理士とともにアドバイスできますので、安心してご相談ください。
初回相談無料ご予約はこちらのフォームから。お気軽にご相談ください。