遺言は主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。
そして、自筆証書遺言書には、自宅で保管するケースと、法務局保管のケースがあります。
この記事では、自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれの遺言作成にかかる費用、メリットデメリット、注意点を比較してご説明します。
各遺言の費用
自筆証書遺言、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言の3つで、それぞれ遺言作成時、相続発生時にかかる一般的な費用をまとめました。(あくまで当事務所の経験に基づく概算です)
自筆証書遺言 | 自筆証書遺言の 法務局保管制度 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
遺言書作成時 | 0円 | 1通3900円 | 約10万円 |
相続発生時 | 約10万円 | 約8万円 | ~1万円程度 |
後ほど後述しますが、自筆証書遺言書は公正証書遺言書よりも安価に作成できる反面、遺言者が死亡したあとは家庭裁判所で検認手続を要するため、実は自筆証書遺言と公正証書遺言書の遺言書作成時と相続開始時のトータルコストはあまり変わりません。
自筆証書遺言のメリットデメリット
自筆証書遺言書のメリット
自筆証書遺言書は、その名のとおり自筆(自署)で遺言書本文を記述し、署名押印をすることで成立する遺言書です。自筆証書遺言書の要件は①遺言書本文を自署し、②署名押印することです。遺言書に添付する財産目録についてのみ、自署ではなくPCなどで作成したデータを援用することができます。
自筆証書遺言書は、次の点でメリットがあります。
費用が安い
紙、ペン、印鑑があれば自宅にいながら0円で作成できます。
公正証書遺言書のように公証人手数料は不要で、印紙なども発生しないため、遺言書を作成する程度の能力さえあればその場でいつでも作成可能です。
作成、変更、撤回が簡単
遺言書を書き直したい場合、自筆証書遺言書なら、どこにいても作成し直すことができ、時間がかからず簡単です。万が一破棄したい場合は物理的に処分してしまうこともできます。
ただし、遺言書を一部訂正する場合、訂正の方法も法律で規定されていますので注意が必要です。
内容を秘密にできる
自筆証書遺言を相続人の目につかない場所に保管しておけば、遺言書の内容を知られることがありません。
万が一相続人が発見する可能性があっても、遺言書を封筒などに封印すれば内容を知られることなく保管が可能です。
自筆証書遺言書のデメリット
紛失、改ざん、盗難のおそれがある
誤って紛失したり、遺言書を発見した相続人が意図的に改ざん、破棄するおそれがあります。
また、遺言書を作成した本人が病気や怪我、認知症で遺言書の存在自体を忘れてしまうこともありえます。
自宅に保管する自筆証書遺言書はこの世に1つしか存在しないため、相続人が発見できない、遺言者が紛失したり忘れてしまうと遺言書がない状態と同じ結果になります。
相続人が裁判所の検認手続をする
自筆証書遺言書は、遺言者の死亡後に裁判所で「検認」という手続をしなければなりません。
これは法定相続人、遺言書を発見した相続人や保管者が家庭裁判所で行わなければならず、検認手続をしなければ遺言書に基づいて相続手続ができません。
これは自宅で保管する自筆証書遺言書に対して適用され、法務局で保管する自筆証書遺言書は検認の必要がありません。
内容が無効、誤解される可能性がある
遺言書の書き方が「任せる」「託す」「渡す」など曖昧な表現だったり、住所や口座番号、氏名などの書き間違いに気付かずにいると、相続人同士で解釈が分かれ、遺言者の希望通りに相続手続ができない可能性があります。最悪の場合、遺言書そのものが無効になってしまうリスクもあります。
内容によっては相続人が揉める原因になる
相続人同士で解釈に差が生まれたり、誤解を招く表現をしていると、相続人同士がモメる原因になる可能性があります。
自筆証書遺言書の注意点
デメリットを理解する
自筆証書遺言書のデメリットである、無効になる可能性、書き損じの訂正は確実に行うこと、紛失、改ざんなど保管場所や保管方法に注意することをしっかり理解した上で利用しましょう。
残された相続人が裁判所で手続しないといけない
公正証書遺言書と異なり、相続人が裁判所で検認手続をすることになります。
関係が疎遠になった相続人同士が接触し、紛争になることもあります。
相続人同士に問題がなくとも、裁判所の手続は複雑で面倒です。
将来の相続人たちに負担を課してしまうことを理解しておかないと、後々相続人たちが相続手続で苦労する可能性があります。
夫婦が共同で遺言書を残すことはできない
遺言書は人ごとにそれぞれ作成する必要があります。
夫婦が一緒に(連名で)遺言書を作成すると、無効になってしまいます。
財産はなるべく特定する
遺言書を書く人は自分の財産のことですので内容を把握していますが、その相続人が同じように把握できているとは限りません。
むしろ、遺言者の財産をしっかり把握できていないことの方が多い印象です。
遺言書に基づいて手続を行う相続人が、どこに財産があるのか把握していないものと想定し、財産はなるべく目録を作成し特定しましょう。
遺留分に配慮する
兄弟姉妹を除く相続人には、遺留分という権利があります。
全財産を特定の相続人だけに渡す遺言書は、相続人同士が遺留分を主張してトラブルになることもあります。
また、遺留分は相続が起きる前に渡した(贈与した)財産についても適用される可能性があるため、遺言書の作成時、特に相続の専門家に相談せずに作成する自筆証書遺言書の場合は常に遺留分に考慮しながら遺言書を作成することが大切です。
遺言執行者の選定
遺言の内容を実現する人間として、遺言執行者を選定することができます。
遺言執行者に特別な資格は必要なく、相続人や弁護士司法書士などの専門家がなることもできます。
遺言執行者は相続人全員の代理人として、預金解約、不動産の相続登記、証券口座の解約移管など、遺産相続手続に必要な一切の手続を行うことができます。
財産を受け取る相続人自身が遺言執行者になれるか、よく検討しましょう。
自筆証書遺言法務局保管制度のメリットデメリット
自筆証書遺言法務局保管制度とは、自筆証書の遺言書を法務局で保管してもらう制度です。
自筆証書遺言法務局保管制度のメリットデメリットをご説明します。
自筆証書遺言法務局保管制度のメリット
公正証書遺言よりも費用が安い
1通3900円で作成できるため、自宅で作成する自筆証書遺言書よりは費用がかかりますが、公正証書遺言書で公証人に払う手数料よりも安価に作成できます。
紛失・改ざん・盗難のおそれがない
法務局で保管してくれるため、誤って紛失したり、相続人が改ざん・破棄する恐れがありません。
法務局が相続人に遺言書の存在を通知してくれる
法務局保管する遺言書は、法務局が本人の死亡を知った時に、相続人に通知するサービスがあります。
この制度を利用することで、相続人が遺言者の死亡まで遺言書の存在を知らなくても、死亡後に遺言書の存在を把握することができます。
被相続人の死亡後に法務局が相続人やあらかじめ指定された人に対して通知をしてくれる点が、法務局保管の自筆証書遺言書の最大のメリットともいえます。
検認が不要
法務局保管制度の自筆証書遺言書は、遺言者の死亡後に相続人が裁判所で検認する必要がありません。
公正証書遺言書と同じく、裁判所で検認しなくとも相続手続をすることができます。
自筆証書遺言法務局保管制度のデメリット
遺言者自ら法務局に行かないと手続できない
法務局保管制度を利用して自筆証書遺言書を作成する場合は、法務局に予約して直接行かなければいけません。
郵送での手続や代理人が行って作成することはできません。
戸籍を集める必要がある
法務局保管制度の自筆証書遺言書は、検認手続が不要な代わりに、遺言書の内容を開示してもらう段階で相続人全員の戸籍を提出する必要があります。
疎遠な相続人がいる場合、相続人にとっては負担と時間がかかることになります。
公正証書遺言のメリットデメリット
公正証書遺言書は、公証人に対して遺言者が内容を口授(口頭で伝達)し、公証人が書面にしたうえで遺言者、証人2名が署名押印することで成立する方式の遺言書です。
自筆証書遺言書よりも作成のハードルは高い反面、次のような面で大きなメリットがあります。
公正証書遺言書のメリット
真正が高度に担保されている
公正証書遺言書を作成する段階で、遺言者が公証人から本人確認を受け、その内容を口授し、かつ遺言書とは利害関係のない証人2名が立ち会って作成しますので、作成された時点で「確実に遺言者本人が作成した」ことが担保されます。さらに、遺言書を作成するだけの判断能力があるかどうかについても公証人が事前に判断するため、公正証書遺言書が判断能力の低下により無効となる可能性が、自筆証書遺言書よりも低くなります。
本人が亡くなった直後から、すぐに金融機関や不動産の名義変更ができる
公正証書遺言書は、作成時点で本人確認や本人作成の遺言書であることが担保されているため、本人の死亡直後から効力を発揮します。
相続人全員が協力・関与する必要がない
公正証書遺言書は、家庭裁判所で検認をしなければ手続に着手できない自筆証書遺言書はと違い本人の死亡後すぐに効力を発揮するので、相続人全員が家庭裁判所に行くことはありません。
本人死亡後の裁判所費用がかからない
自筆証書遺言書と違い本人の死亡後に裁判所で検認をする必要がないため、裁判所手続費用や専門家への依頼費用がかかりません。
遺言が無効になる可能性が低い
作成時点で証人立会のもと本人確認をしているため、無効になる可能性がほぼありません。
再発行できる
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、全国公証役場のデータ上で管理されます。
万が一紛失しても、遺言書の検索や再発行が可能です。
改ざんの恐れがない
作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、相続人が書き換えたり一部を破棄するリスクがありません。
公正証書遺言書のデメリット
遺言書の作成時点で、お金がかかる
自筆証書遺言書と異なり公証役場に手数料を払うため、お金がかかります。
作成までに時間がかかる
すぐに書いて作成できる自筆証書遺言書と違い、公証役場で打合せをした上で作成するため、数週間程度時間がかかります。
平日の日中に時間を取られる
基本的には公証役場に行って公正証書遺言書を作成します。
公証役場は平日しか空いていないので、平日に1時間程度時間を取られます。
各遺言のまとめとオススメ
各遺言のまとめ
自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書をまとめると、次のようになります。
自筆証書遺言 | 自筆証書遺言の 法務局保管制度 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
遺言作成時の費用 | ◎かからない | ○少しかかる | ×かかる |
遺言作成時の手間 | ◎かからない | △かかる | △かかる |
相続開始時の費用 | △かかる | △少しかかる | ◎かからない |
相続開始時の手間 | ×かかる | △かかる | ◎かからない |
紛失・盗難・改ざん | ×あり | ◎なし | ◎なし |
無効のリスク | △やや高い | ○低い | ◎ほぼない |
相続人の負担 | ×大きい | △やや大きい | ○少ない |
自筆証書遺言はお金がかからない、公正証書遺言はお金がかかると思われがちですが、そうではありません。
自筆証書遺言書は先にかかるお金を減らす代わりに、相続人に後から裁判所の手続でお金がかかることになります。
公正証書遺言は先にかかるお金がある代わりに、相続人は裁判所の手続をせずに済みます。
自筆証書、公正証書はどんな人にオススメ?
自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書は、こんな方にオススメです。
オススメの方 | |
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自筆証書遺言 | 遺言書作成時の費用をとにかく安くしたい 相続人が少ない 内容が極めてシンプル(ex全財産を妻に相続させる) 遺言書の内容を何度も変更する可能性がある |
自筆証書遺言の 法務局保管制度 | 相続人が少ない 内容がシンプルで、変更する可能性が低い 法務局に行って手続するための時間・気力・体力に余裕がある |
公正証書遺言 | 遺言作成に費用がかかっても、相続人の負担を少なくしたい 改ざん・紛失などのリスクを減らしたい 財産を複数の人間に渡したいor渡す条件をつけたい 死亡の順番で相続人に渡す財産が変わる可能性がある 相続人が多い |
遺言書作成を相談できる専門家は
自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書をまとめました。
最後に、遺言書作成を相談できる専門家をご紹介します。
司法書士 | 行政書士 | 弁護士 | 税理士 | |
---|---|---|---|---|
遺言書の作成や相談 | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
預貯金の解約 | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
不動産の名義変更 | ◎ | × | × | × |
遺言書作成だけの相談であれば、司法書士、行政書士、弁護士、税理士などに相談できます。
しかし、遺言書の中に不動産が含まれる場合は、司法書士に相談されることをオススメします。
なぜなら、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士にしかできないからです。
相続を専門とする当事務所では、自筆証書遺言書、自筆証書遺言の法務局保管制度、公正証書遺言書すべての遺言書作成に対応しており、サポートが可能です。
法律の専門家に事前に相談することで、遺言書が無効になるリスクや、相続が起きた後の税金、手続リスクをしっかり対策し、紛争などを回避することができます。
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