遺言書は、亡くなった方の財産を誰が相続するのかを、亡くなった方ご自身が生前に指定する手段であり、相続人間の話し合いを省略することができ、家族間のトラブル防止に繋がります。
しかし、遺言書の作成は単純な作業ではなく、法律に基づいた要件を備えなければ意味がありません。
遺言書の種類は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言などがあります。それぞれの特徴、全財産を相続させたい場合の遺言書の作成方法を紹介します。
遺言書とは
遺言書は、財産を誰がどれだけ承継するかを予め指定することができる、法的書面です。
遺言書によって、相続でもめる原因となる相続人間の話し合いをする必要がなくなるため、紛争予防に大きく役立ちます。
このため、相続の準備として、多くの方が遺言書の作成を検討されるのですが、遺言書にはいくつか種類があることをご存知でしょうか。
また、遺言書の保管場所もきちんと検討しておかないと、紛失・偽造・改ざんの可能性や、必要な時に遺言書が見つからない、あるいは意向が相続人に伝わらないといった問題が起こり得ます。
この記事では、遺言書の種類の選び方、自分で遺言書を作成する方法、そして適切な保管場所について説明します。遺言書の作成を考えている方には、ぜひとも参考にしていただきたい内容となっています。
遺言書の重要性
遺言書を未作成の状態で亡くなった場合、法に基づいて指定された法定相続人が、法定相続分に従って遺産を受け継ぐことになります。
遺言書のない相続手続きは、全ての相続人が集まり、どの財産を誰が受け継ぐのかを定める必要があります。
これを、遺産分割協議と呼びます。
相続手続で揉める原因の多くが、相続人の話し合いがまとまらない(遺産分割協議書ができない)ことです。
もし遺産が現金や預金のみで構成されているのであれば、法定相続分に基づいて明確に分配しやすいのですが、遺産に不動産が含まれている場合、法定相続分通りに簡単に分割することは難しくなります。
不動産を相続人が2分の1、3分の1ずつといった持分で共有すると、売却や管理の際に相続人同士が協力しなければならず、相続人のうち誰かが亡くなると相続登記手続が必要となるため、不動産を法定相続分で共有することは出来れば避けた方が良いでしょう。
そうすると、誰が不動産を相続するのかを話し合いで決定する必要がありますが、複数の相続人が同一の不動産の取得を希望することも考えられます。
また、同じ相続人と言えども生活環境や境遇も違う人間なので、亡くなった方の生前に介護をしていたとか、反対に金銭的な援助を多く受けていたなど、相続人同士が抱えている感情や思惑が亡くなった方の相続によって露呈し、事態をより複雑にすることもあります。
このように、相続人の話し合いは一筋縄ではいかないことが多く、相続で揉める原因となってしまいます。
しかし、遺言書があれば、誰がどの財産を相続するのかがあらかじめ指定されているため、相続人同士の話し合いをすることなく相続手続きが可能です。
遺言書の種類
遺言作成者 | 費用 | 証人の有無 | 偽造のリスク | 保管方法 | |
自筆証書遺言 | 本人 | 不要 | 不要 | ある | 自分で保管 |
公正証書遺言 | 公証人 | 財産によって 手数料が変動 | 2名以上 | ない | 公証役場で保管 |
秘密証書遺言 | 本人 | 一律11.000円 | 2名以上 | 低い | 自分で保管 |
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付、氏名を自署して作成する遺言書で、例外として財産目録はワープロ等で作成することが認められています。
自筆証書遺言書のメリットは作成、修正の容易さ、費用がかからないこと、内容を他の人に知られることがない点です。公証役場で作成するわけではないので、公証人手数料は当然かかりません。
自筆証書遺言書のデメリットは、法的要件を満たしていない場合には無効になる、相続人が遺言書を見つけられないリスク、紛失・改ざん・隠蔽のリスク、相続人が意図的に破棄するリスク、自筆証書遺言書が本当に亡くなった方の真意で作成されたのか(判断能力があったのか、誰かに書かされたのではないか)という有効性が争われるリスク、遺言者の死後に相続人が家庭裁判所で遺言書の検認手続をしなければならないことです。
ただし、法務局に預ける自筆証書遺言保管制度を利用することで、1件3900円で法務局に保管することが可能となり、これにより遺言書の紛失や隠蔽を防止することができます。
公正証書遺言
自筆証書遺言は個人が自分で書くのに対し、公正証書遺言は公証役場で作成します。
2人以上の証人の立ち会いの下、遺言者が遺言の内容を口授(口頭で公証人に伝達)し、公証人がパソコンを使用して遺言書を作成し、遺言者は記載内容が正確であることを確認した後、署名及び押印を行って完了となります。
公正証書遺言書のメリットは、公証役場で有効に成立していること、紛失・盗難・改ざんのリスクがないこと、家庭裁判所での遺言書検認手続が不要であること、相続人同士の話し合いが不要であることです。
反対に公正証書遺言書のデメリットは、公証役場の手数料がかかることです。
秘密証書遺言
通常、遺言書は自筆証書遺言や公正証書遺言の形で作成されることが一般的ですが、他にも秘密証書遺言という形式が存在します。
秘密証書遺言は、遺言の内容を他人に知られることなく保持することができ、必ずしも自筆で書く必要はありません。ただし、公証役場での認証プロセスは必須であり、自分で保管する必要があるため、紛失のリスクが伴います。秘密証書遺言の利点は少なく、この形式で遺言書を作成するケースはあまり見られません。
特定の相続人に全財産を相続させる遺言書の作成方法
特定の相続人に全財産を相続させる遺言書を作成する際の例文と注意点を示します。
遺言書の書き方 公正証書遺言の場合
遺言内容を検討する(財産を確認)
遺言に記載する財産をリストアップしましょう。
主な財産は以下の4つになります。
・現預金
・不動産
・株式
・その他(自動車、債権、ゴルフ会員権など)
保険を除くお金に換算可能なものは全て財産に含まれるため、必要な項目を全て記載しましょう。
遺言内容の考察
財産を誰に相続させるかを明らかにし、リストアップしましょう。
誰に何を相続させるかは基本的に遺言者の自由です。
ただし、遺産相続には「遺留分」という法律で定められた相続人に保証された部分が存在します。
この点を無視して相続指定をすると、公正証書遺言が無効になる可能性もあります。
特定の相続人に対して全財産を相続させる遺言書は「遺言者の有するすべての財産を、〇〇に相続させる。」という文言があれば可能です。
すべての財産を相続させたい場合でも、遺言書にはなるべく財産を特定して記載する方が良いと考えられます。
なぜなら、相続人が遺言者の財産を把握できているとは限らず、記載があることで調査が容易になるからです。
必要書類の準備
- 遺言者の印鑑証明書
- 遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本及び住民票
- 遺贈(相続人以外が財産を受け取る)の場合は、その人の住民票
- 不動産が財産に含まれる場合は、登記事項証明書、固定資産評価証明書
- 財産・相続人の一覧
- 遺言執行者の名前、住所、生年月日を記載したメモ
- 証人予定者の名前、住所、生年月日、職業
2名以上の証人を検討する
公正証書遺言書は、遺言が有効に成立したことを見届けるために、証人2名以上の立ち合いが必須です。
証人は、法定相続人や受遺者など、利害関係人はなることができません。
もし証人になってもらる人がいなければ、公証役場から手配してもらえます。
公証人と打ち合わせ
書類を集めたら、最寄りの公証役場に連絡をして、面談予約をとります。
予約当日に公証役場へ出向く
公正証書遺言を作成するのは、基本的に公証役場となります。
作成日に遺言者と証人2人以上が公証役場に出向きます。
公証役場に赴くことができない人は、公証人と証人が遺言者のいる自宅、施設、病院などに行って遺言書を作成する方法もあります。
遺言書の書き方:自筆証書遺言の場合
遺言の内容を考える(財産の確認)
公正証書遺言書と同じく、まずどのような遺産があるのかを確認することが重要です。
以下のような財産関連の資料を前もって集めておきましょう。
主な財産は次のようなものです。
- 現預金
- 不動産
- 株式
- その他(自動車、債権、ゴルフ会員権など)
- 保険を除くお金に換算可能なものは全て財産に含まれるため、必要な項目を全て記載しましょう。
遺言の内容の考察
遺産を誰に相続させるのか明確に記述しましょう。
相続内容が不明瞭であると、遺言書を作成した意図が果たせず、トラブルの原因となる可能性があります。
遺言書には、「誰に、何を相続させる」のかをはっきりとわかりやすく記載することが重要です。
書き損じや曖昧な表現だと、後から遺言書自体が無効になるリスクがあります。
必要書類を準備する
遺言書には「財産目録」を作成し、添付することで遺産の内容を明示します。遺言書のタイトルと本文は遺言者本人の手書きで記入する必要がありますが、財産目録については他の人に代筆してもらうか、パソコンを使用することも可能です。
また、預金通帳のコピーや不動産の全部事項証明書などの資料を添付することで、財産目録の代わりとすることもできます。しかし、パソコンや資料を利用する場合、すべてのページに署名と押印が必要となります。
法務局での保管制度の利用を検討する
自筆証書遺言のメリットは損なわず,問題点を解消するため自筆証書遺言書保管制度を活用できます。
特定の相続人に全財産を遺贈する遺言書作成について
相続人が複数いる場合は、特定の相続人に全財産を相続させるためには遺言書の作成が必須です。
遺言書がなければ、特定の相続人に全財産を相続させる保証はありません。
特定の相続人に対して全財産を相続させる遺言書は「遺言者の有するすべての財産を、〇〇に相続させる。」という文言があれば可能です。
すべての財産を相続させたい場合でも、遺言書にはなるべく財産を特定して記載する方が良いと考えられます。
なぜなら、相続人が遺言者の財産を把握できているとは限らず、記載があることで調査が容易になるからです。
遺留分の問題は残る
全財産を特定の相続人に相続させる遺言書を作成することは自由ですが、相続人には法律で保証された最低限の取り分、すなわち遺留分が存在します。
全財産を特定の相続人に相続させる遺言書を作成したとしても、他の相続人に対して遺留分の問題は残ります。
遺言書を作成する際は、遺留分を考慮しないと相続に関するトラブルが起こる可能性があります。
遺留分とは何かをみてみましょう。
遺留分とは
遺留分(いりゅうぶん)とは、「一定の相続人が、法律上最低限保証された遺産の取り分」のことで、遺言によっても奪うことのできない権利です。
これは被相続人の死後、相続人の生計を保障するため、相続人同士の均衡を図るために設けられています。
法定相続分と遺留分の違い
相続人には「法定相続分」という、法律により定められた相続財産の取り分があります。
法定相続分と遺留分の主な違いは以下の通りです。
法定相続分は、民法によって定められた相続財産の分割割合を示します。しかし、遺言書や遺産分割協議により、この割合を変更することは可能です。
遺留分は、最低限保証される相続財産の取り分を示し、亡くなった方の兄弟姉妹以外の相続人に認められています。遺言書で指定された相続分が遺留分を下回る場合、相続人は遺留分を請求できます。
法定相続分は、遺言がない場合の相続財産分割の目安であり、強制力はありません。
遺留分は、最低限の相続財産を受け取る権利を表し、この権利を行使するかは相続人の判断に委ねられています。遺留分を侵害されても、権利を行使しない限り、相続内容は変わりません。
遺言書を作成する際の一般的な注意点
遺言書は早めに作成し、状況の変化に応じて更新を行いましょう。
法律専門家、例えば司法書士や弁護士に相談し、法律上の問題を回避しましょう。
遺言書は安全な場所に保管し、信頼できる人にその場所を知らせましょう。
トラブルを減らすには専門家に相談しておきましょう
遺言書は財産の分配をスムーズに進め、法的トラブルを避けるために重要です。全財産を特定の相続人に相続させる遺言書を作成する際は、法律の要件を理解し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。