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【事例紹介】遺言書が無効になったケース

2023 6/15
【事例紹介】遺言書が無効になったケース

自筆証書遺言書は、公正証書遺言書と違い本人が自宅で気軽に作成することができます。

近年では遺言書の書き方について書籍やインターネットの記事を参考に作成する方も増えています。

当事務所が担当した遺言書の案件で自筆証書遺言書の書き方が間違っていたため、無効になった実例を取り上げます。

自筆証書遺言書の基本的な作成の仕方はこちら

目次

概要

遺言者(被相続人)Xは、自筆証書遺言書を作成しました。

遺言は次のような内容でした。

私・Xは、妻のAに次の財産を相続させる。
1 自宅 神戸市○区○町1番1号
2 預金 ○○
以上

遺言者(被相続人)Xには、妻A、妻Aとの子Bのほか、前妻Cとの間に子Dがいました。

X名義の不動産は、住民票の住所であり遺言書にも書かれている自宅のほか、銀行の預金が少しある程度です。

自筆証書遺言書はまず検認

自宅や銀行の貸金庫にあるような自筆証書遺言は、まず裁判所において検認手続が必要です。

遺言者(被相続人)Xが亡くなったあと、Xの相続人を調査し、裁判所で呼び出しをして、検認手続をします。

検認手続では、遺言書の内容は精査しません。

裁判所は、そこに書かれた内容が正確なものか(現在も有効なのかどうか)については判断せず、あくまで遺言書の形式的要件しかチェックしません。

全文日付氏名が本人によって自署され、押印がなされていれば、遺言者(被相続人)Xの遺言書として検認手続は何事もなく終了します。

相続登記の相談

遺言者(被相続人)Xの配偶者Aから登記の相談を受けた当事務所は、検認が終わった遺言書と権利書を見せていただき、事情を伺いました。

権利書にはたしかに遺言者(被相続人)Xが亡くなった当時住んでいた住民票の住所である自宅が書かれていましたが、そのほかに公衆用道路の持分もありました。

検認済みの自筆証書遺言書を添付して法務局に登記申請

遺言書に書かれたとおり、「自宅 神戸市○区○町1番1号」についてXからAに名義を変更するために相続登記を申請しました。

裁判所で検認した遺言書が使えない旨の連絡

後日、法務局から当事務所に、「この遺言書では自宅の登記ができない。」という連絡があり、取り下げるように勧告されました。

照会票なども提出して法務局とやり取りをしましたが、結局登記ができないという結論は覆らず、登記をいったん取り下げることになりました。

なぜ遺言書で登記ができなかったのか?

このケースで問題になったのは、「自宅の特定の仕方」と「公衆用道路」があることでした。

住居表示と地番の違い

法務局の見解は、「遺言書に記載のある自宅の住居表示と、登記申請の地番が異なるため、自宅を特定できない」という理由で、今回の登記ができないとのことでした。

登記されている不動産(土地や建物)は、その場所を特定するために「地番」が割り振られており、建物の場合は「家屋番号」があります。

この「地番」や「家屋番号」は、毎年役所から届く納税通知書に記載されていますので、納税通知書で確認することができるほか、ブルーマップと呼ばれる住宅地図でも確認することができます。

一方で、多くの方が日常で使用する「住所」とは、「住居表示」のことであり、住居表示=住民票や免許証の住所ですが、これはほとんどの場合、地番や家屋番号とは一致しません。

つまり、自筆証書遺言書に書かれているのは「自宅 神戸市○区○町1番1号」なのに、登記申請しているのは「神戸市○区○町22番地」というように、住居表示と地番がまったく異なるために登記ができませんでした。

公衆用道路の存在

今回のケースでは、自宅が仮に登記できたとしても、もう1つ大きな問題がありました。

それは「公衆用道路」があることです。

公衆用道路は非課税のため納税通知にでてこない

本人Xが自宅を利用するために、自宅の前の道路を他の複数名と共有で持ち合っていることがあります。

この公衆用道路は自宅の土地とは違う「地番」が振られているのですが、厄介なことに公衆用道路は固定資産税がかからないため、毎年役所から届く納税通知書に記載されません。

権利書や名寄せで公衆用道路の有無を確認すべき

今回のケースでは、当事務所が権利書を確認したところ、自宅以外に複数の土地を持分で所有していることが分かったため、公衆用道路の存在に気付くことができました。

権利書を紛失してしまった場合でも、役所から「名寄(なよせ)台帳」という書類を取り寄せることで、公衆用道路のように固定資産税がかかっていないけど所有している不動産を調べることができます。

今回のケースでは自宅以外に公衆用道路の持分があったため、遺言書に書かれていない財産として、遺言書で手続をすることができませんでした。

法務局は形式的審査しかしない

本人Xは神戸市○区○町1番1号の自宅に長年住んでおり、自宅を購入したときの登記簿上住所も亡くなった当時の住所も神戸市○区○町1番1号です。

しかも、本人の自宅神戸市○区○町1番1号の地番や家屋番号は、納税通知書やブルーマップ(住宅地図)で確認できるので、遺言者(被相続人)Xの遺言の趣旨を汲み取ってあげるなら、当然

神戸市○区○町1番1号=「神戸市○区○町22番地」の土地と建物

と言えるのですが、法務局はあくまで形式的審査しかできません。

遺言者の真意を汲み取るようなことはせず、あくまで遺言書に正しい地番が記載されているかどうかのみを判断します。

銀行の預金解約は問題なく遺言書で完了

不動産の相続登記は遺言書で手続することができませんでしたが、銀行の預金解約は遺言書で手続が完了しました。

このように、遺言書を用いてどのような手続をするかによって、その遺言書で対応可能かどうかが変わります。

見ず知らずの相続人と遺産分割協議することに

Xさんが残した遺言書は不動産の名義変更(相続登記)で利用することができませんでした。

この場合は、遺言書がない場合と同様に相続人全員で遺産分割協議をすることになります。

残された妻Aと子Bは、ほとんど面識のないXの前妻の子Dと遺産分割の話し合いをすることになり、結果的に大きな精神的、身体的、金銭的負担となってしまいました。

失敗しない遺言書作りのためにできることは?

遺言者(被相続人)Xが存命中なら専門家に相談

遺言書を作成したい方ご本人がご存命の間にできる確実な対策は、遺言の専門家である弁護士や司法書士に相談することです。

書き方、金銭的なリスク、法的リスク、遺言書作成のポイントなど、専門家からアドバイスを受けることで、法的に有効な遺言書を残すことができます。

不動産を特定して書くなら必ず地番と家屋番号を記載

不動産を特定の人に相続してほしい場合は、必ず地番と家屋番号を記載しましょう。

地番と家屋番号は、毎年役所から5月頃に送られる納税通知書に記載があります。

地番と家屋番号は、住居表示の番号とは違うことがありますので、ご注意ください。

そのほか、ブルーマップ(住宅地図)でも地番と家屋番号を確認することができます。

あえて不動産を特定しない方法もある

「全部の財産を1人の人に相続してほしい」

「全部の財産をAとBで半分ずつわけてほしい」

「不動産は処分してお金を相続してほしい」

このようなケースであれば、あえて不動産を具体的に記載しない方法もあります。

紹介したケースのように、不動産を特定するときに地番や家屋番号ではなく住居表示で記載してしまうと、実際の不動産登記手続で遺言書を利用することができず、遺言者の意思が無駄になってしまうリスクがあります。

また、公衆用道路がある場合に公衆用道路の地番を記載できていないと、遺言書では登記ができず、相続人全員の遺産分割協議が必要になってしまいます。

公衆用道路の存在に注意

どうしても不動産を特定して書く必要があるときは、必ず事前に公衆用道路があるかどうかを調べましょう。

不動産のある役所で「名寄(なよせ)台帳」を取得すれば、公衆用道路を含めた所有不動産の一覧を入手することができます。

遺言者(被相続人)Xが亡くなった後、まず専門家に相談

相続人や親族の方が遺言書を発見したときは、まず相続の専門家である弁護士や司法書士にご相談ください。

司法書士など相続の専門家であれば、遺言書の内容から、今後の手続の見通しや費用、リスクなどをご説明することができ、結果的に相続人の金銭的、精神的、身体的な負担を減らすことができます。

今回のケースでいうと、遺言書の検認手続をしたとしても不動産の名義変更ができないことが想定でき、その後のリスクを考えながら行動していくことができます。

仮に遺言書に封がされている場合でも、相続に精通している専門家であれば、全体を見通して依頼者に適格なアドバイスをすることができます。

まとめ

自筆証書遺言書は取り返しのつかないリスクが大きい

自筆証書遺言書は、専門家に費用を支払わなず容易に作成できるため、つい安易に作成しがちです。

しかし今回のケースのように、自筆の遺言書は内容が一部無効になってしまい、実際に遺言書で手続をしようとしても手続できないリスクがあります。

無効になると相続人の金銭的、精神的、身体的な負担はとても大きくなるばかりでなく、遺言書を作成したご本人の最後の望みを叶えられないことになります。

遺言書を作成するときは、必ず専門家に相談

遺言書は作成する方から残される方々への最後の気持ちです。

大切な遺言書を安さ(コスト)だけで考えて安易に作成してしまうと、遺言書が無効になったり、相続人同士がもめてしまったりと、金銭では解決できない結果に繋がる危険性があります。

その気持ちが無駄になってしまったり、残された相続人の方々の負担が大きくなってしまわないように、弁護士や司法書士の遺言書の専門家にご相談ください。

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