遺言書は、私たちの最後の意志を伝える手段として認識されていますが、それは絶対的なものなのでしょうか?本稿では、遺言書で可能な内容から有効期限、効力の限界、さらには遺言書作成時の注意点について深堀りします。
遺言書の意義を再確認し、正確な知識を持って今後のステップを検討するための手助けとして、本稿をお読みいただければ幸いです。
遺言書でできること
遺言書は法律で定められた事項のほか、任意で記載できる事項があります。
財産や身分に関する事項を遺言書に記載した場合は、法的拘束力を発揮します。
それ以外の内容については、遺言書に記載したとしても、実行するかは相続人の判断となります。
また、遺言書が法定の要件を備えた有効なものであることが前提条件となります。
特定の相続人への相続分の指定、遺産分割方法の指定
遺言書で、特定の相続人に特定(または全部)の資産を相続させることができます。
例えば、特定の相続人1名に対して全財産を相続させることが可能です。
そのほか、「相続人AとBの取り分を8:2にする」といった「相続分」の指定や、「Aには〇〇を、Bには△△を相続させる」といった「遺産分割方法」を指定することが可能です。
相続人以外への遺贈
遺言書によって相続人以外の方に対して財産を承継させることができ、これを遺贈と呼びます。
NPO団体、友人、医療機関、学校、自治体、などに資産を遺すことができます。
また、内縁関係の相手方は法律上の相続人ではないため、財産を確実に承継させるには遺言書によって遺贈する方法が有効です。
資産の寄付特例
遺言書を通じて、非営利団体や慈善団体に寄付することが可能です。
この方法は先述した「遺贈」として扱われ、寄付の手順や税制には違いがあります。
遺産を一般的な法人や個人に寄付する場合、受取人(寄付先)には税がかかることがありますが、国や地方自治体、公益法人、特定非営利活動法人NPO法人への寄付には相続税が課せられない特例があります。
1.遺産の持ち主である本人が寄付する際は、受遺者(寄付先)に税金が課され、相続税は個人に課される税金であり、法人へ遺産を寄付した際は法人税が課されますが、一部例外があり、国・地方公共団体、公益事業法人、認定NPO法人への遺贈寄付は相続税がかかりません。
2.遺産を受け取った相続人が寄付する際は、相続人に税金が課されますが、相続税が非課税になる条件受け継いだ財産の形を変えずに寄付している、相続税の申告期限までに寄付している、遺産の寄付先が特定公益法人である、寄付した財産の明細書と相続税非課税法人証明書を相続税の申告時に提出している場合は相続税はかかりません。
子どもの認知
遺言により、生前に認知していなかった子どもを認知することができます。
婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、母親については出産した女性が母となる一方、父親が誰であるかが確定するには、父からの認知の手続きが求められます。
一度認知が行われると、その効果は子供の生まれた時点から親子関係があるものとして遡及します。
これは、認知された子が生まれた瞬間からその父親の子であったとみなされることを意味します。
遺言による認知は、子を認知する手段のひとつです。認知は生前にも実施可能ですが、特定の事情でそれができない場合、遺言を通じた認知が選択されることがあります。
認知対象の子供が成人の場合、その子の同意が必要となります。
遺言認知をするときは、あわせて遺産の配分も指定して、相続人どうしのトラブルを未然に防ぐようにすることが大切です。
相続人の廃除
相続廃除は、遺留分を有する推定相続人が遺言者(被相続人)に対する虐待や侮辱等を行った場合で、遺言者が自分の財産を相続する権利を相続人から剥奪する手続きを指します。
相続人から廃除された方は相続する権利を失います。
類似した制度に相続欠格がありますが、推定相続人の廃除を利用するには、相続欠格とは異なり家庭裁判所の審判が必要となります。
遺産分割の禁止
相続が開始された後に、速やかに遺産を分割することが紛争の原因となる可能性がある場合、「遺産の一時的分割禁止」という措置を取ることで、遺産の分割を一時的に先送りすることができます。
具体的な状況としては、未成年者が成人になるまでの数年間は遺産分割を保留させておく場合や、冷静な遺産分割の協議が難しい状況、または遺産の詳細な調査を行いたいケースなどが想定されます。
未成年後見人の指名
遺言者が亡くなった後の未成年の子どものために、特定の未成年者後見人を指定することができます。
通常は未成年者後見人の選任は裁判所に申し立てをすることになりますが、候補者がいない場合は裁判所が見ず知らずの弁護士を未成年者後見人に選任することもあります。
遺言書で未成年者後見人を指定することで、確実に信頼できる人に財産管理を任せることができます。
遺言執行者の指名
遺言に基づき遺産の分配や管理処分を行う遺言執行者を指定することができます。
民法第1009条では「未成年者および破産者は、遺言執行者になることができない」とされていることから、未成年や破産していない人であれば遺言執行者として指定することができます。
遺言の実行には、財産の名義変更など複雑な手続きを伴うことが多く、特に不動産などの大きな財産が関与する場合は、法的な知識が要求されます。
そのため、そういった場面では、法律の専門家である弁護士や司法書士を遺言執行者として指定するのがおすすめです。
遺言執行者は直接指定する方法以外に、指定を第三者に委託することもできます。
停止条件、解除条件
遺言書の内容に特定の条件を付与することができます。
条件は停止条件と解除条件の2種類があります。
停止条件とは、「ある条件が成就するまでは遺言の効力が停止している」状態のことで、例えば子供が20歳になったら、孫が生まれたら、大学を卒業したら、などがあります。
解除条件とは、「ある条件が成就したら遺言の効力が停止する」状態のことで、大学を続けるかぎり遺言は有効、事業を承継している間は財産を取得させる、等です。
負担付遺贈
相続人や第三者に対し、財産を取得させる引き換えにある一定の債務や労務を負担させることを「負担付遺贈」と呼びます。
例えば、「長男に不動産を相続させる。長男は不動産を相続する負担として、墓守をしなければならない」といった内容です。
遺言書の有効期限とその解釈
遺言書の相続トラブルは、そのほとんどが有効性や解釈の仕方をめぐって起こります。
以下では、遺言書の有効期限やその他の関連事項について詳しく解説します。
遺言の有効期限
遺言書には通常、有効期限が設定されていません。
一度作成された遺言書は、新しい遺言書で上書きされるか、遺言者が遺言を撤回するまで効力を持ち続けます。
たとえば、子供がいないときに作成した50年前の遺言であっても、法的な要件を備えていれば有効な遺言となりますし、遺言書作成当時から本人の経済状況から大きく変わっていても有効です。
未所持財産の記載の解釈
遺言者が遺言書作成時に所持していなかった財産についての記載(未所持財産)も遺言として有効です。
ただし、具体的な財産の詳細や取得時期が不明確な場合、解釈の問題が生じることがあります。
一般的には、「遺言者の死亡時に有するすべての財産」という文言を入れることがあるため、この一文によって将来取得する財産もすべて網羅できることになります。
新旧遺言書の効力について
新しい遺言書を作成し、前の遺言書と内容が矛盾する場合、新しい遺言書が優先されます。
ただし、新しい遺言書で前の遺言書を明示的に取り消していない場合、両方の遺言書が部分的に効力を持つ可能性があります。
遺言書が複数あることは遺産相続トラブルのリスクが非常に大きくなりますので、遺言書を書き直す場合は「本遺言書作成前の日付で作成されたすべての遺言書を撤回し、新たに本遺言を作成する」といった一文を入れるようにしましょう。
遺言書の変更・取り消しの手続き
遺言者が遺言の内容を変更したい場合、遺言書の変更や取り消しを行うことができます。変更の場合は、新しい遺言書を作成するのが一般的です。取り消しの場合、遺言書を物理的に破棄するか、取り消しの意思を明記した書面を作成することで実行できます。
遺言書の限界と問題点
遺言書は強力な法的文書ですが、それにも制約や限界が存在します。以下では、遺言書の効力の限界や関連する問題点について解説します。
遺言書の内容への納得の問題
遺言書の内容には相続人全員が納得しているわけではないことが多いにありえます。
むしろ、遺言書を作成するのは相続人同士の話し合いができない可能性(トラブルの危険性)を見越して作成することがありますので、当然ながら相続する財産が少ない相続人は不満を持つ方が自然です。
納得のいかない相続人が遺言書の有効性をめぐって裁判などの法的手段を取ることが考えられます。
相続人全員による遺言書によらない合意
相続人全員が同意している場合、遺言書の内容に関係なく遺産を分割することができます。
相続人が納得して合意すれば、遺言者が特別な思いをもって作成した遺言書どおりに相続財産が承継されるとは限りません。
遺言書の不正な開封と効力
自筆証書遺言書の場合、発見した相続人が意図的に遺言書を破棄、改ざん、変造するリスクがあります。
また、封印のされた自筆証書遺言書の場合、家庭裁判所で検認手続きをするまで開けてはいけないのですが、内容が気になるとの理由で封を開けてしまうこともあります。
封のされた遺言書を開封した場合、罰金が科されることがあります。
遺言書に、既に亡くなっている相続人の記載がある
遺言書に記載された相続人が遺言者より先に亡くなった場合、二次的な相続人の指定をしていないと、その部分について遺言が無効となり、遺言書ではなく通常の相続手続(相続人全員による話し合い)が必要となります。
遺留分の侵害と遺言書の効力
遺留分とは、法律で法定相続人に認められた最低限の相続する権利のことです。
遺言書が遺留分を侵害する内容であった場合、遺留分を侵害された相続人が、遺言によって財産を取得する相続人に対して金銭を請求することが考えられます。
遺言書作成の注意点
遺言書は遺言者の意思を正確に反映する重要な法的文書です。以下の点を注意深く考慮することで、有効で明確な遺言書の作成が可能となります。
遺留分への注意
遺留分は相続人の最低限の相続権を保護するためのものです。遺言書でこの遺留分を無視した内容を設定すると、後日相続人同士で金銭的な争いが生じることがあります。
各相続人が遺留分をどれぐらい有しているのか、遺言書によって遺留分を侵害される相続人がいるのか、遺言書で財産を取得する相続人は遺留分を支払う金銭があるのか等、常に遺言書の作成には遺留分が付きまといます。
日付の明記
遺言書の日付は、それが最新のものであることを証明するために重要です。日付を明確に記載することで、複数の遺言書が存在する場合の混乱を避けることができます。
ただし、公正証書遺言書の場合は公証役場で作成する日付が確実に記載されますので、日付の問題が生じるのは自筆証書遺言書の場合のみです。
署名・押印の重要性
自筆証書遺言の署名や押印は、遺言書の真正性を証明するものです。
これを忘れると、遺言書の効力が認められないことがあります。
遺言書に誤りや変更が生じた場合、その変更方法も民法で規定されています。規定どおりに変更されていないと、変更のないものとして扱われます。
遺言執行者の指定
遺言執行者は、遺言による相続手続きを実行する代理人です。
相続財産を受け取る人自身を遺言執行者にできるほか、司法書士や弁護士などの法律専門職を指定することができます。
司法書士や弁護士などの法律専門家を遺言執行者にすることで、相続財産を受け取る人が高齢や遠方で手続できないケースや、法的な知識がなく財産の調査手続きに時間を要してしまうケース、仕事で忙しいために手続できないケースなどでも問題なくスムーズに相続手続きが可能です。
その他の注意事項
遺言書作成時には、明確な文言を用いて、曖昧さを排除することが求められます。
特に、不動産については「住所表示」ではなく「地番と家屋番号」と呼ばれる番号を記載しなければなりません。
遺言書に単に「自宅」と書いて無効になったケースもあります。
遺言書への相続財産の記載特定方法は、確実に行いましょう。
法的なサポートや専門家の利用の重要性
遺言書の作成は専門的知識を必要とします。法律家や遺言書専門家のサポートを受けることで、正確で有効な遺言書を作成することができます。
遺言書の保存・管理方法
遺言書は紛失や破損、不正な取り扱いから守るため、安全な場所に保管することが重要です。また、信頼できる第三者にその場所を知らせておくことも考慮すべきです。
遺言書の重要性の再確認
遺言書は、死後の財産の分配や特定の要望を明文化するための法的ツールです。
正確な遺言書により、遺産分割のトラブルを未然に防ぐことができます。また、遺言者の意思が正確に反映されるため、相続人や関係者の間での混乱や不満を最小限に抑えることができます。
遺言書は相続人の指定や遺産の分配方法を定める文書ですが、その効力には一定の制限があります。遺言で指定できる内容には、特定の相続人への遺産指定や非相続人への遺贈、後見人の指定などが含まれます。しかし、遺言の有効期限、新旧遺言の効力など、遺言の解釈には注意が必要です。
また、遺言書の効力として、遺言書の内容に納得できない問題や、不正な開封などが考えられます。
遺言書作成時の注意点としては、遺留分への注意や日付の明記、署名押印の重要性、法的なサポートや専門家の利用などが挙げられます。
遺言書は重要な文書であり、その作成や管理には十分な注意が求められます。適切な手続きと理解をもって、将来のトラブルを防ぐことが大切です。遺言書の作成は法律に詳しい方のサポートがあると安心です。