日本での相続は、戸籍制度によって出生、婚姻、子供の誕生、死亡を証明し手続します。
しかし、様々な理由で戸籍が取得できないケースがあり、戸籍が取得できない相続の手続きは相続人からの上申が必要となるなど、特殊な書類を用意する必要があります。
元々は外国人だった方が日本で国籍を取得し、日本人となって亡くなった相続の手続きについて、必要書類などを説明します。
相続手続きは戸籍が必要
日本における相続手続は、一般的に戸籍が必要となります。
この戸籍を取得、提出することによって、亡くなった方の親族関係、出生と死亡、婚姻歴、子供の有無と数、養子縁組の有無などを知ることができ、戸籍は相続関係を公に証明する書類として大切な役割をもっています。
被相続人の出生〜死亡の戸籍
亡くなられた方の相続手続をするためには、原則として故人の出生〜死亡までの連続した戸籍が必要です。
日本の方であれば本籍地に戸籍が保管されています。
本籍地が分からない場合は、住民票を「本籍地の記載あり」として取得することで調べることができます。
一般的に、誰でも出生時はその方の親と同じ戸籍に入っていますので、亡くなられた方の親の戸籍からスタートし、最終的に亡くなったことが記載された最新の戸籍まで追いかけることになります。
日本に帰化した元外国人の戸籍は?
外国籍の外国人が日本に帰化した場合、帰化が認められたとき(日本人になったとき)に戸籍が作成されます。
帰化申請時に帰化後の本籍を記載する欄があり、その本籍地で戸籍が出来上がります。
その後は通常通り、死亡までの戸籍を追いかけることになります。
日本に帰化する以前の外国人の戸籍は取れない?
日本に帰化した元外国籍の方は、帰化する以前は外国人であるため、日本の戸籍は存在しません。
したがって、相続手続で原則として必要となる「出生〜死亡までの連続した戸籍」は取れないことになります。
帰化前の外国人の戸籍の代わりになる書類は?
外国人が日本に帰化する以前の戸籍の代わりになる書類として、「外国人登録原票」があります。
外国人登録原票には、氏名、住所の変遷、生年月日、婚姻の事実、職業、国籍など、個人を特定するための必要な情報が細かく記載されており、外国人登録原票の記載をみれば、帰化する前に外国籍の方が日本に住んでいた期間の証明ができます。
外国人登録原票はどこで取れる?
外国人登録原票は、東京の出入国管理庁に対して請求することで取得することができます。
窓口で請求する方法もありますが、即時交付ではないため通常は郵送で請求します。
外国人登録原票はどれぐらいの期間で取れる?
郵送で請求して2~4週間ほどで交付されます。
外国人登録原票は誰が請求できる?
外国人登録原票は、(1)本人、(2)任意代理人、(3)後見人などの法定代理人のみが請求することができるとされています。
ただし、相続手続きに必要な場合があるため、本人の相続人も請求することができます。
外国人登録原票の手数料は?
外国人登録原票1件につき300円がかかります。
外国人登録原票の注意点
外国人登録原票は、平成24年に廃止されたため、現在は作成されていません。
平成24年より前に日本に移住していた方については、移住時~平成24年までの間、つまり日本で生活していた期間については戸籍の代わりになる書類として外国人登録原票を取得することができます。
反対に、日本に来る以前の本国での期間のことは記載されていませんし、平成24年以前に帰化していないかぎり、平成24年以降の戸籍の代わりになる書類は存在しないことになります。
外国人登録原票では出生~死亡までの書類が足りない、証明できない場合
日本における相続手続きは、先述したように原則として出生~死亡までの連続した戸籍が必要です。
日本に来てから帰化するまでの間で、平成24年までの期間なら外国人登録原票を取得することで戸籍の代わりとなります。
そして、帰化した以降は日本で戸籍が作成されますので、その戸籍を取得することになります。
反対に、日本に来る以前の戸籍(相続証明書)がない場合、または平成24年以降~帰化までの証明書がない場合は、個別に対応を検討します。
戸籍制度がある国の方の場合
帰化する以前の国籍が韓国、台湾の場合は日本と同じく戸籍制度がありますので、帰化以前の本国での戸籍を取り寄せます。その際、日本で手続きが可能なように翻訳文も添付します。
戸籍制度がない国の方の場合
アメリカ、中国などほとんどの諸外国では戸籍制度を採用していません。
代わりに、出生証明書、死亡証明書、婚姻証明書といった証明書を取得できることがありますので、元々の国籍だった国の証明制度を調べて取得することになります。
相続人からの宣誓供述書と上申書
上記の書類を取り寄せてもまだ出生~死亡までの相続関係を証明できない場合、現在の相続人全員が「宣誓供述書」を提出することになります。
この宣誓供述書には、亡くなった方の情報と、自分が亡くなった方の相続人に相違ないことを日本の公証役場で宣誓し、署名押印します。
さらに、「上申書」として、相続人は上申書を提出した相続人らで過不足ないこと、仮に他の相続人が出てきた場合は相続人たちが責任をもって解決することを供述した書類を作成し、法務局や銀行に提出します。
相続人が把握していない隠し子などがいる場合には漏れてしまいますが、戸籍がないと相続手続きが一切できないとすると、多くの外国人の方の相続手続きが事実上破綻してしまうため、手続きを進めるための最終手段として用いられます。
外国籍の方が帰化した場合に取っておくべき相続対策
公正証書遺言書の作成
日本では原則として故人の出生~死亡までの連続した戸籍が必要となります。
しかし、公正証書遺言書を作成することで、必要な戸籍は故人が亡くなった戸籍と、遺言書により財産を受け取る相続人の現在の戸籍のみに減ります。
日本に帰化した元外国人の方は、お伝えしたように相続手続きにおいて必要な戸籍を一部しか取得することができず、相続人全員が公証役場に行くことになったり、元々の国籍だった場所から証明書を取り寄せたりすることになり、相続人に多大な負担がかかります。
公正証書遺言書を作成することで、相続手続きに必要な戸籍の数が一気に減るだけでなく、相続人の経済的、精神的負担が大幅に減ることにもつながります。
日本に帰化した元外国人の方は、相続手続きを格段に容易にできる公正証書遺言書の作成を検討しましょう。
遺言書作成を専門家に依頼するメリット
法的リスクや対策を確認できる
遺言書は作成して終わりではなく、遺言者が亡くなってから初めて意味を持ちます。
相続の専門家に相談すれば、亡くなった後の相続関係や法的リスク、紛争を回避するための対策や税金対策などをまとめて相談でき、安全で確実な相続にすることができます。
確実に有効な遺言書を作成できる
遺言書はご自身が公証役場に行くことでも作成できますが、記載方法を誤ったり、二次相続のことまで記載していないために、一部または全部が無効となってしまうことも少なくありません。
専門家に相談することで、確実に有効な遺言書にすることができます。
遺言執行者として相続後の手続きも依頼できる
遺言書は、作成だけでなく遺言の効力が生じたとき、つまり遺言者が亡くなった後の手続きが重要です。
相続の専門家に相談し遺言執行者に指定するすることで、相続が開始した後の相続手続きをすべて任せることができます。
遺言書を適切に保管、通知してもらえる
遺言書は紛失のリスクがあります。
公正証書遺言書であれば紛失しても公証役場に請求すれば謄本を再交付してもらえますが、相続人が公正証書遺言書の存在を知らないと、遺言書がないものとして手続きを進めてしまう可能性があります。
相続の専門家であれば、作成した公正証書遺言書を適切に保管し、相続の開始を知ったときは速やかに相続人に対して通知することで、遺言書が無駄になる心配がありません。