従来の自筆証書遺言書の問題点
これまでの自筆証書遺言書といえば、全文日付氏名を自署し、自宅や貸金庫などで保管するしか方法がありませんでした。
そのため、自筆証書遺言書は自宅で保管している遺言書を紛失・改ざん・破棄してしまうリスク、遺言者が認知症などで遺言書の存在を失念してしまうリスク、相続人が遺言書の存在に気づけないリスク、様式不備による無効リスクがあり、遺言者の最期の意思表示の形式としては非常に使い勝手が悪いものでした。
自筆証書遺言の法務局保管制度とは
使い勝手の悪かった自筆証書遺言書の利用を促進するべく、民法改正により自筆証書遺言書を法務局で保管してくれる制度が始まりました。
紛失・改ざん・盗難・破棄のリスクがない
自宅で保管する自筆証書遺言書と違い、法務局で遺言書の原本を保管してもられるため、原本を紛失すること、悪意のある相続人に破棄盗難改ざんされる心配がありません。
様式不備での無効リスクがない
自宅で保管する遺言書は誰にも見られずに作成することが多く、日付が抜けている、全文を自署できていない等様式不備による無効になってしまうことがあります。
一方で、法務局に保管する際に提出する自筆証書遺言書は、様式に不備があると受け付けてもらえませんので、遺言書で保管した時点で様式不備による無効のリスクはなくなります。
相続人等に通知してもらえる
通常の自筆証書遺言書は、遺言者が亡くなったときに誰かに遺言書の存在を通知する制度がありませんが、法務局保管の遺言書は、遺言者が亡くなったあとに指定された相続人等に対して通知をすることができます。
自筆証書遺言の法務局保管制度の注意点(デメリット)とは?
自筆証書遺言書を法務局で保管する制度は、従来の遺言書と比較するとかなり利便性が向上しておりますが、注意すべき点がいくつか存在します。
①本人が法務局に行く必要がある
法務局で保管する自筆証書遺言書は、遺言者本人が必ず法務局に行き、保管の申し出をする必要があります。
司法書士、弁護士、後見人、親族など代理人が行くことはできません。
自筆証書遺言書は自宅など自分のいる場所で作成でき、公正証書遺言書は公証人による出張作成が認められています。
②本人が自署できないと作成できない
自筆証書遺言書はその名のとおり本人が自筆で作成する遺言書です。
ワープロで作成した遺言書や代筆された遺言書は、令和8年5月現在の現行法では認められていません。
遺言書の全文を自署できない状態だと、自筆証書遺言書はもはや作成することができないため、公正証書遺言書を作成することになります。
③遺言者の住所氏名、相続人や受遺者の住所氏名が変更したら届出の必要がある
遺言者が遺言書を作成した後に住所氏名を変更した場合、あるいは遺言書に記載された相続人の住所氏名が変更された場合、法務局に変更した旨を届出する必要があります。
一般的に、遺言書作成後遺言者の住所氏名が変更することは遺言書の効力に何ら影響がありません。
通常の自筆証書遺言書や公正証書遺言書の場合、どこかに届出をする必要はありませんが、法務局保管の遺言書の場合は、都度変更の旨を届出します。
④撤回するときは保管された法務局に取りにいく必要がある
遺言書を撤回(取り消したい)とき、自宅にある遺言書は破棄処分もしくは書き直しをすれば済みますが、法務局に保管された遺言書を撤回するときは、法務局まで直接行く必要があります。
⑤法的リスクを加味できていないおそれがある
法務局保管制度の遺言書は、法務局登記官が預かってくれるため様式不備による無効リスクはないものの、その内容を精査してくれるわけではないため、遺言書の内容に関する法的リスクを検討できていない可能性があります。

リーガルチェックがない法務局保管制度のリスク
遺言書の意味
当たり前ですが遺言はそもそも作成して終わりではなく、遺言者が亡くなって初めてその効果を発揮します。
そもそも遺言を残す意味は、遺言者側からすると、「安心、確実、紛争回避、残された相続人に手間を取らせたくない、無用な争いにならないようにしたい、特定の人に特定の財産を引き継いで欲しい」といった主に感情的な理由があります。
対して、相続人側からすると、遺言書があることで「精神的、経済的、身体的負担を軽減できる、相続人同士で話し合いせずに円滑な手続ができる、戸籍など集める書類が大幅に簡略化される」といった現実的なメリットがあります。
つまり、遺言者も相続人も、遺言書の作成(存在)理由として、円滑円満な相続を実現することが根底にあるはずです。
法的リスクを検討していないとどうなるのか
自筆証書遺言書の法務局保管制度は、リーガルチェック(専門家による相談・助言)を通さずに作成できます。
保管する法務局は形式的なチェックしかしないので、形式上要件を満たせば遺言書を保管してくれます。
ただ、実際に書かれた内容によってどんな法律上のリスクを孕んでいるのか(遺留分・特別受益・寄与分など)、二次相続や三次相続まで考えて作成しているのか、財産の按分方法で相続人同士の関係性が悪くならないかなどの実体的な部分まで踏み込んでくれません。
そのような遺言書を残してしまうと、遺言書がない状態よりも、かえって争いの火種になってしまうこともあります。
法務局保管制度を利用する前に
自筆証書遺言書の法務局保管制度は、安く利用でき簡単でとても有用な制度です。
しかし、利用を検討されている方は、法律の専門家に相談し、先ほど述べた法務局保管の遺言書のデメリットを充分吟味してからでも遅くありません。
せっかく遺言書を作成したのに無効になった、争いになった、複雑になったというご相続を何度も目の当たりにしています。
遺言書が発揮するときには遺言者本人は亡くなっており、後から取り返しがつきません。
相続人も相談された専門家もやるせない気持ちになります。
相談料や費用は多少かかりますが、勿体ないと考えずリスク回避・相続人のための安心料と捉え、法律の専門家をぜひご活用ください。
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