相続問題をスムーズに解決するためには、相続法と民法、不動産登記法に精通した専門家である司法書士のサポートが重要です。
本記事では、相続問題の基本的な流れと問題点、司法書士が提供するサービス内容と料金について詳しく解説します。
相続手続きでの司法書士ができること
相続手続といっても行う内容は非常に多岐にわたり、手続に不慣れな方や仕事で平日に時間を取れない方にとっては精神的な負担だけではなく身体的にも大きな負担となります。
そんな相続手続きを依頼する専門家として弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの士業がいますが、それぞれができる業務範囲が決まっており、誰に相談すべきか分からない方も多いでしょう。
相続の専門家である司法書士に対しては、次のような業務を委任することが可能です。
相続人調査(戸籍の収集)
相続発生時、初めに行うべき相続手続は相続人調査です。
相続人調査とは、具体的には戸籍を収集して法定相続人を確定させる作業を指します。
戸籍を収集すれば、相続手続を行うために協力すべき当事者が確定します。
また、相続分、遺留分などの具体的な持分の算定、相続税の基礎控除を計算するためにも相続人の確定はまず第一に行いましょう。
相続人調査では、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までのすべての戸籍、及び現在の相続人全員の戸籍を取得します。
戸籍を収集する中で、婚姻外の子ども、養子、前婚の配偶者との子どもなど、親族が思いもしない情報が判明することがありますので、慎重に調査を行います。
- 故人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍除籍原戸籍謄本を本籍地の市役所で取得。
- 取得した戸籍に基づき、配偶者、子ども、兄弟姉妹など関係者を確定し、相続人を特定。
- 配偶者、子ども、親、兄弟姉妹など法定相続人の戸籍を取得。
- 相続人が全員確認できたら、得られた情報を基に相続人の相関図を作成。
相続人調査は、相続人を特定し遺産分割などの後続の手続きを円滑に進めるために重要です。
しかし、戸籍は本籍地の市区町村ごとに管理されているため、本籍地を転々としている場合はすべての役所に郵送で戸籍を請求することになり、膨大な時間がかかります。
しかも役所は平日にしか空いておらず、日中お忙しい方は仕事などの合間に役所からの問い合わせ等の電話に対応しなければなりません。
司法書士に依頼すると、この煩雑な作業を効率化し、正確な相続人特定を行うことができます。
遺言の調査
相続手続において遺言書の有無は非常に重要です。
遺言書があるか否かによって、その後行う相続手続の内容や時間、費用が大きく変わります。
遺言書は大きくわけると自筆証書遺言書と公正証書遺言書の2つがあり、自筆証書遺言書は法務局以外で保管するケースと法務局で保管しているケースがあります。
自筆証書遺言書(法務局以外)
自分自身が保管する自筆証書遺言書は、自宅の本棚、貴重品を収納する棚、エンディングノート、自宅の金庫、銀行の貸金庫などに保管している可能性があります。この遺言書はどこかに複製やデータがあるわけではありませんので、文字通り家探しをして現物を確認します。
自筆証書遺言書(法務局)
法務局で保管する自筆証書遺言書は、遺言書保管事実証明書、及び遺言情報証明書を請求することで遺言書の有無を確認することができます。
公正証書遺言書
公正証書遺言書は全国の公証役場でデータとして管理されているため、最寄りの公証役場に請求をすることで遺言書の有無を確認することができます。遺言書が存在する場合は、相続人であることを証明して遺言書の謄本を取得することができます。
財産調査
相続を行うためには相続財産調査を行う必要があります。
相続財産調査は、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も含めてすべての遺産の有無を調べ、それらの財産を適正に評価・査定することです。
預金通帳、証券会社からの通知書、不動産の固定資産税納税通知書など、資産がはっきり分かる物が手元にあればその情報に基づいて財産を確定させます。
一方、通帳を紛失している、具体的な証券の保有資産が不明である、固定資産税納税通知書が手元にないなど、相続人が故人の財産を把握できていないことも珍しくありません。そのような場合は、銀行に対して現存照会、証券会社に対して保有明細の残高照会、不動産の市区町村に対して名寄せを行い、財産を特定していくことになります。
また、プラスの財産だけではなくマイナスの財産が存在する可能性が高い場合、信用情報機関と呼ばれる機関に対して照会をかけることで、消費者金融、銀行、クレジットカードの債務情報を把握することができます。
相続方法について
相続は、プラスの財産だけではなくマイナスの財産すべてを引き継ぐ「単純承認」、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額があれば引き継ぐ「限定承認」、プラスの財産とマイナスの財産すべてを放棄して相続人ではなかったことになる「相続放棄」の3つの方法があります。
限定承認、相続放棄ともに期間制限があり、期間内に手続を行わないと自動的に単純承認となります。
単純承認
被相続人(亡くなった人)の預貯金、土地や借入金など、資産と負債をすべて受け継ぎます。
限定承認
相続人の資産と負債がどのくらいあるかわからない場合に、相続によって得た財産の限度で、被相続人の負債を受け継ぎます。もっとも合理的な制度に思えますが、相続人全員が行わなければならない(行方不明者や不仲で意見が割れていると利用できない)こと、財産調査や管理を行う負担が大きいこと、弁護士が相続財産清算人となり手続を行う場合には弁護士費用がかかることなど、ハードルが非常に高いため実務的にはあまり活用されていません。
相続放棄
法律上相続人ではなかったことになり、被相続人の権利や義務を一切受け継がない手続きです。
原則として被相続人が死亡し、自分が相続人であることを知ってから3か月以内に家庭裁判所に対して行う必要があります。
相続財産調査が大切な理由
相続が開始した場合、相続人はすべての財産を相続するのか(単純承認)、すべての財産を放棄するのか(相続放棄)、あるいはプラス財産の範囲内でマイナス財産も相続するのか(限定承認)のいずれかの相続方法を選択することになります。
正確な相続財産調査を行わないと、正しい選択をすることはとても難しくなります。
どの選択をするとしても、相続財産の内容がわからなければ手続きを進めることができません。これには、遺産の内容調査が必要で、複数の金融機関や市町村にわたる場合は特に時間と手間がかかります。司法書士にこの業務を依頼すると、スムーズな進行が期待できます。
不動産相続登記の手続き
故人が不動産を所有していた場合は、相続登記が必要で、2024年からは相続登記が義務化されます。
相続登記の義務化以降、3年以内に相続登記または申告登記をしなければならず、懈怠すると10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
不動産の登記手続は自分で行うこともできますが、依頼する場合の専門家は司法書士です。
不動産の相続登記は、被相続人が所有していた不動産の資料収集や法務局に提出する遺産分割協議書や申請書の作成など、多くの専門的な知識が必要となります。
自分で不動産の登記手続きを進めることが難しい場合は、司法書士に依頼することで確実かつスムーズな手続が可能になります。
遺産分割協議
遺産分割協議書とは、相続人全員が「誰がどの財産をどの程度相続するのか」について同意した内容を記載した書面です。遺産分割協議書は相続におけるもっとも重要な文書といっても過言ではありません。
遺産を均等に分けるか、特定の項目ごとに分けるか、不動産の売却を含むかなど、遺産の分配方法を決定した後、この協議書が作成されます。
遺産分割協議書には、合意した内容が明確に記載される必要があり、その内容に不備がある場合は、相続の手続きが停滞したり、遺産分割協議書を作成し直すことになってしまいます。
また、遺産分割協議書を専門家でない人が作成する場合にありがちな間違いとして、次のようなものがあります。
・記載内容が不明確である(財産の特定ができていない)
・相続方法が不明確である(持分が誤っている、解釈が分かれる記載)
・財産漏れがある
・不動産の記載が地番ではなく住所表記である
これらのミスがあると、遺産分割協議書を作成した後に相続人間でトラブルが発生するリスクがあります。
また、遺産分割協議書を作成し直す場合に、相続人の気持ちが変化して印鑑を押してくれない、相続人の体調悪化などで協議が不可能になることもあります。
遺産分割協議書の作成は専門的な知識を必要とし、慎重に行う必要があります。司法書士は、このような専門的な文書の作成に経験と知識を持っており、法的な有効性を担保しながら迅速に手続きを進めることができます。
特に、遺産に不動産が含まれる場合、相続登記の手続きが必要になります。相続登記は、司法書士の専門分野であり、遺産分割協議書の作成から不動産の名義変更まで、一連の手続きを一括して依頼することができます。これにより、相続プロセスをスムーズかつ効率的に進めることが可能となります。
遺産分割協議書の作成を司法書士に依頼するメリットは大きく、相続人全員にとって公正かつ透明な遺産分割が行えるようになります。
これにより、相続に関わる法的な問題を未然に防ぎ、相続人間のトラブルを最小限に抑えることが可能です。
様々な相続問題の解決
相続手続は単純ではありません。
相続人に未成年者がいる、認知症の方がいる、音信不通な方がいる、外国在住者や外国籍の方がいるだけで手続の時間・費用・内容が大きく変わります。
さらに、一定の財産を有している場合は相続税の問題、遺言書がある場合は裁判所での手続や遺留分の問題を考慮しながら進めていくことが大切です。
相続問題では、早期の専門家相談が鍵となります。司法書士はこれらの相続手続きに精通していますので、専門的なサポートを行うことができます。
遺産相続の手続きまとめ
遺産相続の手続きは下記のように多岐に渡る作業があるので、確実に相続するために司法書士に依頼することをおすすめします。
- 相続人調査
- 相続財産調査
- 遺言書の調査
- 相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 預貯金口座の解約・変更
- 不動産の相続登記
- 相続不動産の売却(必要な場合)
- 自動車の名義変更
- 株や投資信託の名義変更
- 保険の手続き
- 年金の手続き
- 相続税の申告
司法書士の料金
司法書士の料金はサービス内容や案件の複雑性により異なり、一概に示すことはできません。
さらに、報酬自由化により各事務所によっても費用が異なります。
一般的な家庭(3~5人家族)で相続人同士の争いがないケースでは、報酬が10万円から数十万円の範囲に収まることが多いでしょう。
専門家の選定には、経験や専門性、実績を考慮することが重要です。適切な専門家の選択は、時間とコストの節約につながり、トラブルを未然に防ぎます。
専門性の高い相続は司法書士が安心でおすすめ
相続問題のスムーズな解決には、司法書士の専門知識と経験の活用が効果的です。遺言書や相続人の調査から遺産分割、不動産の相続登記、預貯金の解約まで幅広い業務を提供し、相続人間のトラブルを防ぎ、法的な問題を未然に防ぐことができます。
また、相続に関する様々な手続きを効率的に進めることで、時間とコストの節約にもつながります。
相続手続きは複雑で感情的な問題も絡み合うため、中立的な専門家のサポートが不可欠です。そのため、相続問題に直面した際には、経験豊富で信頼できる司法書士を選ぶことが重要です。
最後に、相続問題はなるべく早く対処することが重要です。
相続はいつか全ての人に起こることであり、相続を放置すると相続人が増え続け、最終的に取得する財産が減少したり、トラブルなどで精神的、経済的、身体的な負担が大きくなることがあります。
2024年4月からの相続登記義務化により、相続を放置するメリットは完全になくなりました。
何から始めれば良いか分からない方は、まず司法書士への無料相談などを活用して方針を決定しましょう。