主に相続の手続きなどで使用する戸籍は、本籍地を置く市区町村の窓口か郵送で請求しなければならないため、日中お忙しい方や不慣れな方、本籍地が遠方の方にとっては大きな負担です。
そこで、戸籍法の改正がなされ、令和6年(2024年)3月1日から戸籍の取得が今までよりも簡単になります。
この戸籍法の改正により戸籍を自分自身で集めることが容易になりますので、ぜひ覚えておきましょう。
戸籍の取得方法、取得できる戸籍の範囲、注意点などを分かりやすく解説します。
令和6年2月末までの戸籍の取得方法
氏名、生年月日、親、配偶者の氏名、婚姻日、子供の氏名生年月日など、ある方とその親族関係を特定するために必要な情報は戸籍に記録されており、戸籍は本籍地に保管されています。
戸籍を取得するには、本籍地をおいている市区町村の窓口で請求するか、郵送で請求をしなければなりません。
相続が発生した場合、亡くなった方の出生から死亡に至るまでの連続したすべての戸籍を取得することになりますが、本籍地を転々と移動している方の場合戸籍を各市区町村に請求しますので、戸籍の取得に不慣れな方にとってはかなりの負担です。
令和6年3月1日以降の戸籍の取得方法
令和6年(2024年)3月1日から戸籍法が改正され、「広域交付」と呼ばれる制度が始まります。
これにより、戸籍の取得が今までよりもかなり簡単になります。
広域交付とは
広域交付とは、本籍地にかかわらず、最寄りの市区町村役場で請求をすることで戸籍を取得できるようになる制度です。
従来は、本籍地の市区町村に郵送で請求をするか、直接本籍地の市区町村役場の窓口で手続きをしなければなりませんでしたが、今後は本籍地でない市区町村窓口で請求をすることができるようになります。
取得できる戸籍の範囲
広域交付で取得することのできる戸籍の範囲は決まっており、①自分自身の戸籍のほか、配偶者、②親や祖父母などの直系尊属、③子供、孫などの直系卑属を取得できます。自分自身の兄弟姉妹は広域交付によって取得請求をすることができません。
広域交付の注意事項
取得できるのは全部事項証明書のみ
広域交付で請求することができるのは、戸籍の全部事項証明書、いわゆる謄本です。
一部事項証明書(いわゆる抄本)や個人事項証明書は請求することができませんので、一部事項証明書や個人事項証明書を取得した場合には原則どおり本籍地の役所に対して窓口か郵送で請求します。
窓口で請求をしなければならない
広域交付は最寄りの市区町村役所の窓口で直接請求をする必要があります。
郵送での請求や、司法書士や弁護士など代理人による請求はできません。
なお、窓口で請求する際に、免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの身分証を提示することになります。
コンピュータ化されていない除籍、原戸籍は取れない
広域交付で取得することができるのは、コンピュータで管理されている戸籍のみです。
昔の戸籍は手書きで管理されているため、コンピュータ化されていない除籍、原戸籍は広域交付で取得することができず、従来どおり本籍地の役所に請求をします。
戸籍附票は取得できない
戸籍には戸籍附票と呼ばれる付随書類が存在します。
戸籍附票には、住所、氏名、生年月日のほか、筆頭者の氏名、希望する場合は本籍地が記載され、住民票と同様に住所を証明する書類として使用することができますが、広域交付制度では戸籍附票を取得することはできません。
戸籍を取得する方法
広域交付制度による戸籍の取得は近隣の役所窓口に直接赴く必要がありますが、一般的に戸籍を取得する方法は次のとおりです。
(1)役所窓口
本籍地をおく役所の窓口で直接請求する方法です。
役所によっては出張所や戸籍等の発行を専門にしたコーナーがあります。
例えば神戸市内に本籍をおく方であれば、神戸三宮駅に直結した三宮サービスコーナーで請求することで戸籍を取得することができます。
令和6年3月1日以降は、本籍地以外の最寄りの役所窓口でも、自身の戸籍や関連する戸籍を取得することができます。
(2)役所への郵送請求
窓口で交付を受けることが難しい場合、本籍地に対して郵送で請求することができます。
本籍地を転々としているケースや、本籍地が遠方で窓口での取得が難しいケースは、役所に郵送で請求する方が良いでしょう。また、窓口で手続をすると多くの時間を取られることがありますので、郵送で請求する方が時間の節約になります。
(3)コンビニ交付
マイナンバーカードを利用してコンビニで戸籍を取得することができます。
ただし、マイナンバーカードを利用して取得できる戸籍は自分自身と配偶者、同じ戸籍にいる子供の戸籍のみです。
本籍地が移動する場合
生まれてから亡くなるまでずっと同じ戸籍に入っている方もいれば、戸籍や本籍地が転々と移動している方もいます。次のような場合に、本籍地を移動している可能性があります。
本籍地は住民票の住所地とはまったく関係なく設定することができるため、親の実家がある地方に本籍を置いている方もいれば、縁もゆかりもない場所を本籍地にしている方もいます。
分籍届
ある方が生まれると、まず親の戸籍に入ります。
婚姻関係にある男女の間に出生すると両親の、婚姻関係にない男女の間に出生すると母親の戸籍に入り、氏名と生年月日、親の氏名などが記録されます。
ある方が18歳以上になると、分籍届を出すことで親の戸籍から離れることができます。
分籍をする理由としては、親の本籍地が遠方で不便だから自分は近くの役所で登録したいというケースや、親と不仲であり一刻も早く親から離れたいというケースがあります。
分籍届をすることで、親とまったく同じ本籍地だとしても、その方だけの新しい戸籍が出来上がります。
婚姻
出生して親の戸籍に入ったあと、結婚すると婚姻した相手と新しく戸籍を作成し、親の戸籍から抜けることになります。婚姻した男女は新たに戸籍を作成し、2人で1つの戸籍に入ります。
その後、子供が生まれると子供が戸籍に記載され、子供が結婚すると抜けていく、という流れを繰り返します。若干の例外はあるものの、戸籍は言わば世帯単位で作成されると考えると分かりやすいかもしれません。
この段階で、ある方の戸籍を取ろうとすると「出生~婚姻までの戸籍(親の戸籍に入っていたとき)」と「婚姻後~現在(婚姻してから出来上がり、今に至るまでの戸籍)」の2つの戸籍が存在することになります。
転勤
転勤の際に住所が変わりますが、本籍地が遠方だと戸籍を取得する用事ができた際に何かと不便だからという理由で、住所と同時に本籍地を移動させる方もいます。
今後は戸籍法改正により本籍地に関係なく広域交付を受けることができるので、本籍地を転々と移動する意味がなくなるかもしれません。
子の出生
子の誕生とともに本籍地を移動する場合があります。
もっとも多いのは、「遠方に本籍地をおいているが子供の誕生とともに戸籍を取得しやすいように住所をおく役所に移す」といったケースです。
戸籍が要求される相続手続
預貯金の解約、株式の相続、不動産の相続登記など
相続手続きでは、亡くなった方の出生から死亡に至るまでのすべての連続した戸籍を要求されます。
具体的に戸籍を要求されるのは、預貯金の解約、株式の相続移管手続、不動産の相続登記手続など、ほとんどすべての相続手続きで戸籍を要求されます。
相続税の申告
亡くなった方名義がある程度の財産を保有していた場合、相続財産を受け取る人に対して相続税がかかることがあります。
相続税がかかる場合は税務署に対して申告と納税をすることになりますが、この場合に戸籍関係を提出することになります。
戸籍取得は誰に依頼するべき?
戸籍の取得を専門家に依頼することができます。
専門家は弁護士、司法書士などが該当しますが、どの専門家に依頼するのが良いかというと、司法書士です。
弁護士 | 司法書士 | 行政書士 | 税理士 | |
戸籍の取得 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続法の知識 | ◎ | ◎ | △ | △ |
不動産登記 | △ | ◎ | × | × |
紛争解決 | ◎ | × | × | × |
費用 | 高い | 安い | やや高い | やや高い |
時間 | かかる | 普通 | 普通 | 普通 |
相続税申告 | × | × | × | ◎ |
預貯金解約 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
司法書士は亡くなった方の不動産に関する相続登記を行える専門家です。
弁護士もすることができますが、実務レベルで登記ができる弁護士はほぼ皆無です。
税理士や行政書士はそもそも登記をすることができません。
また、司法書士や不動産登記や預貯金解約など様々な手続に精通しており、一括して依頼することでトータルコストを抑えることができます。
行政書士や弁護士に依頼する場合、別途登記手続きを司法書士に依頼したり、登記を除く費用だけで司法書士に全部依頼するのと同額になることも珍しくありません。
戸籍の取得を依頼する場合は、その後の相続手続きまで考慮して依頼するようにしましょう。