身内の訃報は心に深い傷を残すもの。その痛みの中、多くの手続きや処理が待っています。しかし、適切に対応するためには、何をすべきか、そして何に注意すべきかを知っておくことが必要です。
死亡直後の手続きから健康保険や住民票の変更、年金や保険の請求まで、1つ1つが煩雑ですが、それぞれに設けられた期限があるため、計画的に進めることが求められます。
一方で、故人の個人情報の公開や遺品の取扱い、遺言書の確認など、敏感な部分も多く存在します。
特に、故人の財産や債務に関するトラブルは将来の関係性にも影響を及ぼし得るので注意が必要です。
本稿では、これらの手続きや注意点を詳細に解説します。
死亡直後の手続き
親族、配偶者等大切な方が亡くなった直後は精神的な疲弊もさることながら、矢継ぎ早に重要な手続や契約が迫ってきます。
これらは、限られた時間の中で正確に行う必要があります。後々の手続きや葬儀の進行に影響を与えることがあるので注意しましょう。
死亡診断書・死亡検案書の確保
亡くなられた後すぐに必要になるのは死亡診断書です。
死亡診断書は役所に提出し、火葬許可証の交付を受けることではじめて葬儀の手続きに入ることができます。
病院で亡くなった場合は病院の医師が死亡診断書を交付してくれますので診断書で困ることは特にありませんが、自宅で亡くなった場合でかかりつけ医がいないような場合、死亡診断書を発行してもらうことができないため、警察署に連絡することになります。
自宅で亡くなった場合警察署はまず事件性の調査から入りますので、事情聴取や現場検証がなされ、その後死体検案書が発行されます。
死亡届の提出(7日以内)
死亡届は、人の死亡を正式に申告する書類です。正式に死亡届が役所に提出されると、戸籍が更新され、当該者の死亡が法的に認定されることとなります。届出をする際には、親族等の届出人が署名や押印を行う必要があります。
死亡届の提出は葬儀社が役所に持参してくれることが多いため、親族が直接持参することはあまりありませんが、役所には「お悔みコーナー」が設けられており、亡くなった方の役所や年金手続をまとめて案内してもらえます。
火葬許可証の取得
火葬を行う前に、火葬の認可を取得する必要があります。これは、役所から発行されるもので、火葬場に提出する際に必要となります。
親族関係者が火葬許可証を取得して葬儀社に提出するほか、葬儀社が死亡届を役所に提出して直接受け取ることがあります。
親族や関係者への通知
亡くなられた方が生前に親族関係者への連絡を希望していたり、強く拒んでいないのであれば親族関係者に葬儀のことを含めて連絡することになります。
近年では家族葬や直葬を希望する方が増えているため、亡くなったことだけを連絡して葬儀に参列できない(執り行わない)旨か、亡くなってからしばらくしてから連絡することも増えています。
葬儀場の決定
葬儀は、故人を偲ぶ大切な儀式ですが、最近では直葬や家族葬など、なるべく慎ましく送りたいという家族が増えています。
葬儀社を選ぶ際は、場所、信頼性、サービス内容、料金などを考慮し、家族とよく相談して選ぶことが大切ですが、故人が亡くなってから時間的余裕のない状態で決断しなければならないことが多く、金銭、場所、葬儀内容で後々トラブルになることもあります。
可能であれば生前に葬儀社と契約しておいたり、希望する内容を親族関係者としっかり共有しておくことが賢明です。
退院手続きと遺体の移動
病院での死亡が確認された際、病院の方針や状況に応じて費用を清算し、遺体を葬儀場やご自宅に移動します。葬儀を進める前に、様々な手続きや事前準備が必要で、死亡届の提出や火葬に関する認可の取得などが必須となります。また、葬儀を始める前に死亡届の提出や火葬許可の取得などをおこないます。
病院や施設で亡くなった場合は葬儀社がご遺体を斎場に移送し、ご遺族は病院施設での退院手続、費用の清算、本人の所有物の引き取りを行います。
葬儀の実施
葬儀に関わる手続きは、故人への最後の敬意を示す上で非常に重要なものです。
宗派や希望する葬儀の内容によって一連の流れが変わりますので、葬儀会社と事前に打ち合わせを行い、準備しましょう。
通夜~葬儀の実施
故人を偲ぶために通夜が行われます。
通夜は親族など親しい関係の方が集まり、故人との最後の夜を共にします。
香典を渡されることもありますが、近年では香典を辞退する方が多いかもしれません。
通夜の後、告別式が執り行われます。
告別式では僧侶の読経、焼香、告別式の閉式、お別れの儀、出棺、火葬の流れで進んでいきます。
喪主となる方は心労が大きい中で関係者への気配り等慣れないことが続きます。
火葬完了の確認
火葬が終了すると係員が声をかけてくれるため、骨あげに進みます。
初七日法要の手配
火葬後、初七日法要を行うための手配をします。近年は核家族化や親族同士が高齢疎遠になっていることや、葬儀の簡略化の傾向から、葬儀と同日に初七日を行うこともあります。
葬儀費用の支払い
葬儀が終了したら、葬儀社への費用の支払いを済ませます。具体的な支払い方法や期日は、葬儀社との契約内容により変わりますが、必ず領収書をもらうようにしましょう。
葬儀費用の領収書は、相続税の控除や各種手続きで必要となる場合があります。
公的手続き
公的な手続きは、故人の死亡を受けて必要となる場合が多いです。期日内に適切に手続きを行うことが重要です。
年金受給停止(10日または14日以内)
故人が年金を受け取っていた場合、死亡の通知と受給の停止手続きを行う必要があります。受給を停止するには、年金事務所または年金相談センターに「年金受給者死亡届」を提出します。
手続きには死亡した人の年金証書、死亡の事実を証明できる書類(戸籍抄本、死亡診断書のコピーなど)も必要です。 手続きの期限は、国民年金は死亡日から14日以内、厚生年金は死亡日から10日以内です。これらの手続きを逃すと、不要な年金が支給されてしまい、後で返還を求められる場合があります。そのため、故人が亡くなった際は、早めに必要な手続きを進めることが推奨されます。
また、遺族や関係者が手続きの際に不明点や疑問点があれば、年金事務所や年金相談センターで詳しく確認することも忘れずに行いましょう。
最後に年金を支給されてから1か月または2か月分の年金が未支給となっているため、年金の支給停止と同時に未支給年金の請求を行います。
健康保険の資格喪失届(5日または14日以内)
健康保険の資格を喪失したことを報告するための届け出を行います。
役所で死亡届の提出や住民票の消除と同時に行うことが一般的です。
介護保険資格喪失届(14日以内)
介護保険を利用していた場合、資格喪失の届け出が必要です。
健康保険等と同じく、役所では「お悔みコーナー」が設けられているため同時に行うことがほとんどです。
住民票の世帯主変更届(14日以内)
故人が世帯主であった場合、新しい世帯主を決定し、届け出を行います。
雇用保険受給資格者証の返還(1カ月以内)
故人が雇用保険を受け取っていた場合、受給資格者証の返還が求められます。
国民年金の死亡一時金請求(2年以内)
国民年金の死亡一時金を請求する際の手続きを行います。
埋葬料請求(2年以内)
公的機関などからの埋葬料を請求する場合の手続きです。
葬祭費請求(2年以内)
葬祭費とは、国民健康保険に加入していた方が亡くなったとき、喪主を務めた人に対して市区町村から支給される金銭で、5万円が支給されます。
高額医療費の還付申請(2年以内)
故人の治療費が高額であった場合、還付を申請する手続きを行います。
ただし、高額医療費については生前から定期的に還付を受けていることがありますので、特に手続きをすることなく還付となる場合もあります。
遺族年金の請求(5年以内)
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。
遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」があり、亡くなった方の年金の加入状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。
亡くなった方の年金の納付状況・遺族年金を受け取る方の年齢・優先順位などの条件をすべて満たしている場合、遺族年金を受け取ることができます。
各種役所での手続き
死亡後の公的手続きは、複数の役所や機関で行う必要があります。各手続きの内容や所在地、必要書類などを事前に確認し、スムーズに進めるように心掛けましょう。
亡くなった人の本籍地の役所で行う手続き
原則として、死亡届は本籍地の役所に対して提出することになっていますが、本籍地と住所地が異なる場合は住所地の役所に提出することも認められていますので、実務上も住所地ですべてを行うことがほとんどです。
亡くなった人の住所地の役所で行う手続き
住所地の役所では、住民票の変更や世帯主の変更、住民税や固定資産税などの税務関連の手続き、健康保険や介護保険などの保険関係の手続を行うことが多いです。
たいていの役所では「お悔みコーナー」が設けられており、その窓口に行くことで関連するすべての手続きを行うことができます。
最寄りの警察署での手続き
故人が持っていた運転免許証や車両の名義変更など、警察に関連する手続きは、最寄りの警察署で行います。特に運転免許証の返納は、忘れずに行いましょう。
生命保険の手続き
労働保険や健康保険などの各種社会保険の手続きが必要となります。
具体的な手続きの内容や必要書類は、各保険会社のホームページや窓口で確認するか、担当者に連絡しましょう。
また、故人が生命保険に加入していた場合、保険金の請求手続きを行う必要があります。契約内容や必要書類は、保険会社によって異なりますので、具体的な手続きの流れや内容を、直接保険会社に問い合わせて確認しましょう。
身内が亡くなった時に注意すること
死亡という大きな出来事に直面したとき、精神的な疲労やショックが大きく、普段どおりの判断ができなくなることは当然ですが、その中でも速やかな判断や行動が求められます。以下は、身内が亡くなった際に注意したいポイントをあげます。
故人の個人情報をSNS等のオンライン上で公開する
故人が著名な方である場合に、親族関係者が故人のアカウントを利用して、生前お世話になった方々に対して死亡の旨を発信することがあります。
しかし、基本的には故人と関係の深い親族であったとしても個人アカウントはなるべく慎重に扱うようにしましょう。
SNSやオンライン上で発信された情報は急速に拡散し、故人や遺族の思いとは違う形で広まることもありえます。
遺品の取り扱いに注意する
故人の遺品は、遺族や親族にとって大切なものです。ある相続人には不要なものでも、他の相続人には大切な思い出が残っていることがあります。
一時の感情や独断に任せず、他の家族や親族と相談しながら適切に取り扱いましょう。
また、相続放棄を検討している場合、相続放棄ができなくなる可能性があるため、遺品の受け取りや処分に関しては特に慎重になりましょう。
遺言書の確認
亡くなった方が遺言書を残している場合、その後の相続手続きや相続財産の受取人、相続税の負担者などが大きく変わります。先ほどの遺品についても指定されている可能性があるため、亡くなった方の遺言書があるかどうかを公証役場で照会しましょう。
立替金や財産のトラブル
故人が現預金を残しておらず、または預金を引き落とせないために親族が各種支払を立て替えることがあります。急な支出に関して相続人が立て替えること自体はよくありますが、その証書書類や支払方法、支払の必要性については他の相続人と共有しておかないと、後々トラブルになることがあります。
故人の口座
故人の口座暗証番号を知っているからといってATMで引き落としをする行為は、例えば正当な理由だとしても他の相続人とのトラブルになる可能性が非常に大きいため、あまりおすすめできません。
故人名義の口座は正式に相続手続きを踏んで解約しないかぎり、触れないものと認識しましょう。
故人の債務や借金を無視する
故人の債務や借金がある場合、「無視をする」「安易に返済を約束する」ことは非常に危険です。
全体としてプラスの財産よりマイナスの財産(債務)の額が大きい場合は相続放棄を検討しましょう。
まとめ
故人に関する手続きや取り扱いにおける注意点やマナーを守り、適切な行動を取ることで、家族や親族との関係を維持し、法的なトラブルを回避することができます。
故人を偲びながらも行うべきことは多くなります。わからない点は適宜専門家に相談しながら手続きを行いましょう。相続については慎重かつ正確に行うことでトラブルを避けることもできます。親族にも相談しにくいこともありますので遺言、相続の専門家である司法書士にご相談ください。