相続人が複数いて遺言書がない相続手続は、ほとんどのケースで相続人の全員による遺産分割協議をすることになります。
もし相続人の1人が海外に居住している場合や外国籍の場合は、どうやって手続をするのでしょうか?
相続人が海外に居住している場合、または外国籍の場合の遺産分割協議についてポイントや注意点を解説します。
遺産分割協議書を作成する場合とは
相続手続きにおいて、相続人による話し合いの結果を書面にしたものを、遺産分割協議書と呼びます。
相続手続きで遺産分割協議書を作成するのは次の3点に該当しているケースです。
遺言書がない
遺言書は、亡くなった方が「誰にどの財産を承継してもらうかを示した書類」です。
遺言書がある場合の相続は、遺言書が優先されます。
反対に、遺言書のない相続は誰が何を相続するのかが未定である状態です。
相続人が複数いる
相続人が複数いる場合は、経済状況や各相続人と亡くなった方との関係により、誰がどの財産を相続するのかを話し合う余地があります。
相続人が1人だけである場合は、そもそも話し合い(遺産分割協議)をする余地がありません。
法定相続以外の割合で相続する
相続人には、民法で法定相続分が定められています。
すべての財産を法定相続分どおりの割合で相続する場合は、遺産分割協議をする必要はありません。
しかし、例えば「家は亡くなった方の配偶者に、預金は子供たちで均等に」といった場合、子供たちは家の権利(法定相続分)を手放していることになるので、遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議の記載方法
原則は全員で1枚の協議書に署名or記名押印
遺産分割協議書には、亡くなった方の氏名、住所、生年月日、死亡年月日、相続財産の内容と相続人が相続する財産を特定し、相続人の全員が署名または記名のうえ実印で押印をして印鑑証明書を添付することになります。
相続人が外国に居住している場合
遺産分割協議書には、原則として実印で押印し印鑑証明書を提出する必要があります。
しかし、韓国や台湾など一部を除き、日本以外の諸外国では印鑑証明書を取得することができませんので、相続人が海外に居住している場合は相続人の状況に応じて遺産分割協議書の作成方法を変更する必要があります。
パターンごとに対応方法を検討します。
(1)相続人が日本人で、住民登録が日本国内にある
出張や短期滞在で一時的に海外にいるだけであり、住民登録は日本のままである場合は、日本で印鑑証明書が取得できます。
この場合は、代理人がマイナンバーカードを用いてコンビニで印鑑証明書を取得したり、役所で印鑑カード提示により取得する方法があります。
(2)相続人が日本人で、住民登録が外国にある
住民登録が外国にある場合は、日本人だとしても日本で印鑑証明書を取得することができません。
この場合は、外国にある日本領事館で印鑑証明書の代わりにサイン証明をもらうことになります。
具体的には、海外にある大使館や領事館で、大使や領事の面前でAが遺産分割協議書にサイン(署名)をします。
この署名をしたものが、A本人に間違いないということを領事が証明し、
Aが署名した書面に証明書を付けてくれます。
こうして発効された証明書をサイン証明と呼びます。
海外在住者や外国人で、印鑑証明書が発行できない場合は、このようにサイン証明書を利用することで対応できます。
(3)相続人が外国籍で、住民登録が日本国内にある
外国籍であっても日本国内で住民登録をしている場合は、(1)と同じように日本で印鑑証明書を取得することができます。
具体的な対応方法は(1)と同じです。
(4)相続人が外国籍で、住民登録が外国にある
相続人が海外に住民登録をしている外国籍の場合、(2)と同様に日本の印鑑証明書を取得することができません。
(2)と同じように、外国にあるその方の領事館でサイン証明を取得することになります。
なお、サイン証明書は日本語ではない言語で出てきますので、翻訳文も必要です。
海外に相続人がいるときの遺産分割協議書作成のポイント
遺産分割協議書を相続人ごとに作成
例えば、相続人がA・B・Cの3人であるとします。
原則はA・B・Cが1枚の遺産分割協議書に連名で署名と押印をしますが、
1枚でまとめて作成して持ち回ると、紛失の可能性も高くなりますし、時間もかかります。
そこで、内容はまったく同じ遺産分割協議書で、それぞれAのみ署名用で1枚、Bのみ署名用で1枚、Cのみ署名用で1枚の合計3枚作成します。
相続人全員ではなくバラバラに遺産分割協議書を作成することを「遺産分割協議証明書」と呼びます。
連名ではなく個別に遺産分割協議書を作成することで、仮に3名が集まらなくても同時並行で署名と押印が可能となり、万が一どれかが紛失しても、3名全員に押印し直してもらう事もありません。
遺産分割協議書の日付はバラバラでも良い
遺産分割協議書を個別に作成する遺産分割協議証明書方式の場合、各相続人が署名押印する日付がバラバラになることがありますが、法的には問題ありません。
サイン証明書の有効期限は?
不動産登記手続において、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書には有効期限がありません。
同様に、サイン証明書の有効期限はありません。
ただし、金融機関の相続手続きでは印鑑証明書は6か月以内発行のものを要求されることがほとんどです。
サイン証明書についても6か月の期限を設けているかどうかは各金融機関に確認していただくしかありませんが、銀行独自の規定で何らかの有効期限が設けられる可能性があります。
海外在住の人が一時的に日本にいる場合は?
海外在住の方が一時的に日本に滞在している場合は、日本の公証役場でサイン証明書を作成することもできます。
身分証としてパスポートや在留証明書を提示のうえ、印鑑の代わりに拇印を捺印することで、本人であることの確認をし、サイン証明書を発行してもらうことができます。