遺贈とは
遺贈とは「遺言」によって「贈与」することを指します。
ときどき間違えている方がいますが、「遺産」を「贈与」することではありません。
遺贈の効力が生じるとき
遺贈は遺言による贈与ですので、効力が生じるのは財産を贈与する人(遺贈者)が死亡したときです。
包括遺贈とは
包括遺贈とは、あげる財産の全部または一部を割合で表示する遺贈のことです。
「全財産の5割」「全財産」といった遺贈は、包括遺贈に該当します。
包括遺贈は、亡くなった方の債務も一緒に遺贈されることになります。
特定遺贈とは
特定遺贈とは、あげる財産を特定する遺贈のことです。
「A不動産を遺贈する」「〇銀行の預金を遺贈する」といった遺贈は、特定遺贈に該当します。
包括遺贈と特定遺贈の違い
受遺者の地位と放棄の仕方
包括遺贈を受けた人は、「包括遺贈の受遺者」と呼ばれ、相続人と同様の扱いを受けます。つまり、相続人と同じ立場で遺産分割協議に参加することもあり得ますし、もし遺贈を受け取りたくないのなら、相続人と同じように3か月以内に相続放棄をしなければなりません。
特定遺贈を受けた人は、「特定遺贈の受遺者」と呼ばれ、遺贈を受け取りたくないときはいつでも放棄することができます。
遺贈の受遺者に対する催告
相続人は受遺者に対して遺贈を受け取るのか放棄するのかを明らかにするように催告することができます。
受遺者が相当期間経過後も意思を表示しないときは、暗黙の了解(遺贈を受け取った)ものとみなされます。
遺贈と相続の違い
遺贈は、主に相続人以外の第三者に対して財産を渡すときに用いられます。
知人、友人、NPO団体などに遺言で財産を渡すときは、「遺贈する」という表現を使います。
相続は、相続人に対して用いる表現です。
遺言で、相続人に財産を渡すときは一般的に「相続させる」という表現を使いますが、たまに自筆証書遺言書で「遺贈する」と記載している方もいます。
数年前までは、「相続させる」「遺贈する」の文言の違いによって、不動産の名義変更にかかる税金や、手続きで必要な書類が大きく異なっていましたが、近年の法改正により差異はなくなっています。
遺贈と死因贈与の違い
法律上の違い
遺贈は遺言による遺言者の一方的な意思表示ですので、もらう人の意思に関係なく遺贈することができます。
対して死因贈与は贈与契約の一種であり、あげる人ともらう人の契約ですので、双方が合意して初めて死因贈与が成立します。
判断能力の違い
遺贈は遺言ですので、15歳以上で遺言能力があれば遺言を作成することができます。
遺言能力とは、善悪の判断に加えて、遺言書に書いてある内容が実現されればどのような法律効果が生じるのかを理解している程度の判断能力です。
死因贈与は契約ですので、18歳以上で判断能力がないとできません。
判断能力とは、物事の是非や契約の内容を理解し、自身で法律行為を行うことができる能力のことを指します。
仮登記ができるかどうかの違い
登記とは不動産の名義を変えたり、名義人の情報を変更する手続きのことで、有名なのは家を買ったときに売主から買主に所有権を移す「所有権移転登記」があります。
仮登記とは登記の一種で、まだ効力が発生していない、または効力が発生しているけど諸事情により正式な登記ができないときに、他の人に登記をされないように予約しておく状態の登記を指します。
遺贈
遺贈は遺言の効力発生、つまりあげる人が死亡して初めて効果が生じます。
遺贈は仮登記をすることができません。
あげる人が亡くなったあと、速やかに登記をしなければなりません。
死因贈与
死因贈与は、あげる人が亡くなる前に仮登記をすることができます。
あげる人が亡くなった後、正式に死因贈与の本登記をしないといけませんが、他の第三者に不動産を取られる、といった心配はありません。
遺贈で注意すべきこと
放棄される可能性がある
遺贈は包括遺贈、特定遺贈に関係なく、受遺者が放棄することができます。
受遺者に対して遺贈のことを相談し、承諾を得ていたとしても、実際にその遺贈を受けるか放棄するかは遺贈者が亡くなった後に受遺者が自由に判断することになります。
仮に受遺者が遺贈を放棄した場合、原則どおり法定相続人が相続することになります。
遺贈する人はそのリスクを考慮したうえで検討しましょう。
遺留分の対象になる
遺贈を受けた人は、遺留分侵害額請求の対象になります。
場合によっては金銭を受け取った後、相続人から遺留分の請求を受け、相続人との間でトラブルになってしまうことがあります。
遺言執行者がいないと手続きが複雑になる
遺言によって遺贈をするとき、遺言執行者を定めることができます。
遺言執行者とは、相続人全員の代理人として遺言の内容を実現するために手続きを執行する人のことです。
遺贈の際に遺言執行者がいないと、あげる人=遺言者の相続人全員と協力して手続きをしないといけなくなり、手続きの時間と労力がかなり増えます。
受遺者(財産の受取人)が先に亡くなっていると無効になる
遺贈によって指定された財産の受取人(受遺者)があげる人よりも先に死亡している場合、遺贈自体が無効になります。
受け取る人の子供や配偶者が代わりに受け取れる訳ではありませんので注意が必要です。
遺贈が無効となった場合、その財産については、原則通り相続人が取得することになります。
相続人と協議する可能性がある
包括遺贈を受けた遺贈の受取人(受遺者)は相続人と同じ地位になりますので、遺贈の内容によっては本来の相続人とともに遺産分割協議をすることになります。
相続人以外に対する遺贈は、あげる人と相続人の関係が悪かったり、受遺者と相続人が他人のことがほとんどですので、受遺者と相続人とのトラブルを避ける目的で用いられることが多いかと思います。
受遺者が相続人と遺産分割協議をするとなると、想定外の感情的、金銭的なトラブルになりかねません。
遺贈するときは包括遺贈と特定遺贈に十分留意する必要があります。
清算型遺贈とは
清算型遺贈とは、あげる人(遺贈者)の財産を金銭に替え(清算し)て、金銭を遺贈する形式の遺贈を指します。
株式や不動産などの金銭以外の財産は、そのまま遺贈することももちろんできますが、株式であれば資産価値が常に変動しますし、不動産であれば維持管理費がかかります。
もらった不動産には住む予定がない、不動産の管理ができない、株式などの保有をしたくない、といった場合に、遺言執行者がそれら金銭以外の財産をまとめて換価処分し(売却して金銭に替え)てしまい、お金を受け取ってもらうことで、管理や手続きが非常にシンプルになります。
清算型遺贈の注意点
申告が必要になることがある
不動産を売却する際に、購入時より高い金額で売却できた場合は譲渡所得税が発生します。
譲渡所得税が発生する場合は申告をしなければならず、税金を納めることになります。
また、税理士に申告を依頼した場合は申告報酬を支払うことになります。
損失が出ている場合は損失が確定する
株式などは評価損が出ていても売却するまでは損失が確定しません。
清算型遺贈の場合、売却時点での株価が購入時株価よりも下がっていたときは損失が確定します。
負担付遺贈とは
負担付遺贈とは、財産をあげる代わりに一定の負担(義務)を強いる遺贈のことです。
例えば、財産を受け取る代わりに〇〇の面倒を見てほしいといった内容です。
負担付遺贈の注意点
遺言執行者を指定しておく
負担付遺贈は、遺贈者が亡くなった後から開始しますので、受遺者が遺贈者の希望どおり負担(義務)を履行してくれているか確認する方法がありません。
そのため、受遺者とは別の遺言執行者を指定することで、受遺者が負担を履行しているかをチェックすることができます。
負担(義務)を履行しないとき
負担付遺贈には、「〇〇の介護や世話」といった中長期的に生じるものがあります。
一方で、財産の遺贈手続き自体は、そこまで時間がかかるものではありません。
そのため、負担付遺贈の多くは、財産を受け取ったあと負担のみが残ることになります。
最初は遺贈のとおり負担を履行していても、途中で履行をしなくなることも珍しくありません。
その場合、相続人は、受遺者に対して負担を履行するように請求することができ、履行しない場合は家庭裁判所に遺贈の取り消しを請求することができます。
過度な負担はさせられない
遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うとされています。
100万円の遺贈の代わりに、経済的利益が100万円を超えるような負担をさせたとしても、遺贈の受遺者は100万円の限度でのみ履行する責任を負います。
遺贈は公正証書遺言と遺言執行者が必須
遺贈は遺言による贈与です。
遺言自体は自筆証書遺言でもすることができますが、相続人以外への財産の承継は往々にしてトラブルになりがちです。
自筆証書遺言だと遺言の効力自体が争われたり、他の相続人によって恣意的に遺言書の存在を隠されたりといった不用な争いの火種になってしまうため、公正証書遺言書で確実に作成しましょう。
また、遺贈は遺言執行者がいないと相続人全員との協力が不可欠になり、ここでもトラブルになってしまうことがあります。
遺贈は公正証書遺言書で、遺言執行者を指定するようにしましょう。
遺贈は相続の専門家に相談すべき
先述のように、遺贈を検討する場合は相続人との関係、遺言執行者の指定、公正証書遺言書として作成するなど、高度な専門知識が要求されます。
また、遺留分の問題なども関係してきますので、弁護士や司法書士などの相続の専門家に相談しましょう。
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